第175話7-30タルメシアナ
女神エルハイミにさらわれた姉のフェンリルを取り戻す為にソウマは立ち上がる。
この世界の女神に背くその行為は果たして姉のフェンリルを取り戻せるのか?
苦難の道のりを今、少年は歩き出す。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
ひえぇぇえええええぇぇぇっ!(タルメシアナ談)
セキさんの警告に僕たちは身構える。
一体何が有ったのだろう?
「セキさん、一体何が有ったんです?」
「この感じ、同族がいるわ。しかもだいぶ気が立っている、老竜であればあたしが言う事を聞かせられるけど、同じ古竜だとそうもいかないのよ」
そう言いながらセキさんは周りを見るけど、髪の毛が少し逆立っている。
セキさんにここまでさせるなんていったいどんな竜だっていうんだろう?
「セキ、あなたがここまで警戒するとは、もしかしてコク様ですの?」
「いや、ちょっと違う。もっと突き刺すような感じ。それにコクならあたしに気付くはず」
エマ―ジェリアさんもそう言いながら周りを見る。
「もしかしてあれかしら?」
ミーニャはそう言って瓦礫の山の方を指さす。
よくよく見るとそこには一つの塔が立っていて何かが鎖で縛られている?
「なんだありゃ!? 前に来た時に町の中心部にあった塔じゃねーか!? だが何かが括り付けられている?」
リュードさんもそう言いながらその方向を見る。
そしてセキさんもそれを見て大いに驚く。
「あれって、もしかしてタルメシアナ!?」
「知っているのですの、セキ?」
セキさんの驚きにエマ―ジェリアさんが首をかしげる。
するとセキさんはすぐにエマ―ジェリアさんに向き直ってからもう一度その方に向いて指さしながら言う。
「知ってるも何も、エマだって昔コクが連れてきた赤ん坊覚えているでしょ? あれがその子、タルメシアナよっ!!」
「ええぇっ!? コク様が神殿にいらっしゃったときにお付きのメイドさんたちが抱えていたあの赤ん坊ですの!?」
言われて僕もそれを凝視すると、確かに人のようだけど見た感じまだ子供、しかもかなりちっちゃい子供に見える。
「間違いないわね、タルメシアナよ。だけどどう言う事? この苛立っている気は間違いなくタルメシアナから出てるわ? それになんであんなところに??」
「と、とにかくあそこまで行ってそのタルメシアナちゃんとか言うのを助け出さないと!」
僕は慌ててそう言うと、セキさんもリュードさんたちも頷いて馬車をそこへ向けるのだった。
* * *
ユエバの町と思われるこの瓦礫の山は中央の塔以外すべて破壊しつくされていた。
「ひっでーな、こりゃ。しかし、死体が無い。そこは不幸中の幸いか?」
「でもなんでユエバの町が破壊されているのよ? ここって冒険者が多い場所だから大抵の災害も何とかなるはずだけど?」
リュードさんが周りを見ながらそう言って馬車を止める。
これ以上は馬車では入れないからだ。
ミーニャも首をかしがながら周りを見ているけど、まずはそのタルメシアナちゃんを助け出さなきゃいけない。
僕たちは瓦礫を登り、中央にあるその塔に向かう。
リュードさんの言った通り、死体が一つも無い。
まだ原因は分からないけど、他に犠牲者が出ていない事を祈るばかりだ。
「タルメシアナ! タルメシアナぁっ!!」
セキさんは進みながらタルメシアナちゃんの名前を呼ぶ。
しかし塔に鎖でくくり付けられたタルメシアナちゃんは虚空に向かって吠えていた。
「あれってどう言う事なんですか、セキさん!?」
「分からない。でも人の姿で生まれ出た竜なのだから本能だけで動いているはずじゃないはず。でもあの様子だと自我が無くなっている?」
見上げればタルメシアナちゃんは人の言葉では無く竜の咆哮の様なモノを上げていた。
「ぐろぉおおおおぉぉぉぉっ!!」
縛られている為足をバタバタさせ、尻尾を振っている。
よくよく見ればエルハイミねーちゃんそっくりな顔つきなのにその顔は険しく歪んでいて時折炎を吐いている。
「なんなんだよありゃ? あんなの助けるったって、ほどいたら襲ってくるんじゃないだろうな?」
リュードさんは腕組みしながらセキさんに聞くけど、セキさんも見上げたまま固まって唸っている。
「うーん、状況が分からないわ。間違いなくタルメシアナなんだけど、まるで怒り狂った竜ね? さてどうしたものか……」
「気が立っているってのなら、エマ―ジェリアが【状態回復魔法】でもかけてやればいいじゃないの? 少しは落ち着くでしょう?」
「私の魔法が女神様とコク様のお子様に効くのでしょうかですわ?」
「やってみればいいじゃない?」
ミーニャがそう言うとエマ―ジェリアさんは前に出て精神を集中させ、そして塔の上に括り付けられているタルメシアナちゃんに魔法をかける。
「落ち着きてくださいですわ、【状態回復魔法】!!」
かなり魔力を込めたのだろう、エマ―ジェリアさんの瞳の色が金色になりどうやらエルハイミねーちゃんにもらった心臓もフル活動して魔力を吐き出している様だ。
エマ―ジェリアさんの放った【状態回復魔法】はタルメシアナちゃんに飛んで行き、淡い光で包む。
すると叫び吠えていたタルメシアナちゃんが大人しくなりぐったりと気を失う。
「え? ええっですわっ!? だ、大丈夫ですの!?」
「落ち着きなエマ、どうやら気を失っているだけみたいだから。ちょっと行ってくるわね」
セキさんはそう言いながら背中に羽を出し一気に飛びあがり、鎖で縛られているタルメシアナちゃんを解放して下まで降りてくる。
セキさんに抱きかかえられているタルメシアナちゃんはすやすやと寝息を立てていた。
「ほんと、お姉さまにそっくりね…… まあ、コクちゃんとの子供なら当たり前か」
ミーニャもその様子を見ながらそう言うけど、確かにエルハイミねーちゃんやエマ―ジェリアさんによく似ている…… と言うか、そのものだった。
タルメシアナちゃんは左右のこめかみに三つづつのトゲの様の様な癖っ毛が有って、髪の色こそ薄暗い金色だけどその顔は安らかになってまさしくエルハイミねーちゃんそのもの。
まだ三歳くらいの小さな体だけど、頭には竜の角、黒いスカートからはセキさん同様竜の尻尾が見える。
「しかし、タルメシアナが何でこんな所に?」
セキさんは抱きかかえるタルメシアナちゃんの顔を見ながら首をかしげる。
「それもあるけどよ、町の連中は何処行ったんだ?」
「誰もいなそうね…… リリス、ソーシャ! ちょっとその辺探し回ってきなさい!!」
『ええぇ~、こんな瓦礫の山、誰もいませんですってばぁ~』
『確かに人の気配が全くしませんねぇ。これでは補給も出来ない。あ、ミーニャ様がしてくださっても私は一向にかまいませんけどね♡』
リリスさんたちに命令するも嫌がっているとミーニャが魔力をにじませて睨む。
すると二人は慌てて「あらほらさっさぁ~!!」とか言いながら飛び去って行った。
「さてと、これで周りの調査はいいとして、セキちゃんその子どうなの?」
「うーん、今は疲れて眠っているみたいだけど、どうしたってのかな?」
「とりあえず、横になれる場所を探して休ませてあげましょうですわ」
エマ―ジェリアさんが最後にそう言って僕たちはとりあえず休める所を探すのだった。
* * * * *
「んぁ…… あれ? ここは??」
「あら、気が付いた?」
タルメシアナちゃんをずっと見ていたセキさんがそう言う。
結局横にするには良い場所が見つからず僕たちの馬車にタルメシアナちゃんを休ませていた。
タルメシアナちゃんはうっすらと目を見開き瞳だけを動かして周りを見る。
そしてエマ―ジェリアさんを見ると大きく目を見開き慌てて起き上がる。
「ひぇええぇぇっ! お母さん! ごめんなさい!! わざとじゃないの! だからもうお母様をけしかけないでぇっ!!!!」
慌てて涙目になりながら後ずさり、馬車の端まで嫌々しながら下がる。
僕たちはきょとんとしてその様子を見るのだった。
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