第161話7-16イザンカに向けて
女神エルハイミにさらわれた姉のフェンリルを取り戻す為にソウマは立ち上がる。
この世界の女神に背くその行為は果たして姉のフェンリルを取り戻せるのか?
苦難の道のりを今、少年は歩き出す。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
ソ、ソウマ君っですわっ!!(エマージェリア談)
「本当に助かりました、これは少ないですがお礼となります」
そう言ってカルスさんはリュードさんにお礼を渡す。
しかしリュードさんはそれを受け取り変な顔をする。
「なんか軽い気がするんだが‥‥‥」
「ええ、この町も財政難でして、気持ちですよ気持ち」
言われてリュードさんはその中身を見て騒ぐ。
「だからと言ってこれは無いだろ!? 子供の小遣いじゃあるまいし!!」
「まぁまぁ、その代わり魚の干物やこの町の特産物は提供させていただきますよ? そうそう、それと言っていた馬と馬車も用意します。これならいいでしょう?」
カルスさんはにこにことリュードさんにそう言う。
リュードさんはそう言われ苦虫をかみつぶした顔をしていたけど、僕たちを見てからため息をつく。
「魚も良いが肉と酒も頼むぜ。こちとら大食いがいるんでな」
「分かりました、善処しましょう。さて、私は会合が有るのでこれで」
そう言いながらカルスさんは軽く会釈をしてから部屋を出て行ってしまった。
残された僕たちはリュードさんを見る。
「まあ、現物支給って事で仕方ないな。馬車や馬も手に入れば旅を続けるには良いがここからが大変だ。アイミはいるがイージム大陸は魔獣や妖魔がうようよしていやがるからな」
「リュードってこっちに詳しいの?」
お菓子を口に放り込みながらセキさんはリュードさんに聞く。
確かに旅慣れはしている様だけどイージム大陸についても良く知っているみたいだし。
「昔な、ジマの国でいろいろとあってな。そこであの国の剣技とか『操魔剣』を覚えたんだ」
「ふーん、そうなんだ。あの国って騎士団だけなら精鋭ぞろいだったもんね~。コクの加護もあるし」
「え? コクさんの加護って、黒龍のですか?」
セキさんがそう言うのを僕は聞き飲みかけのお茶のカップを置く。
するとセキさんはお菓子をつまんだ指を僕に向けて話始める。
「あの国の始祖はコクの子供だったのよ。まさか暗黒の女神ディメルモ様と子供できたって聞いたときは驚いたもんよ。あたしら竜族と女神で子供なんて事例が無かったからね」
「え? コクさんてエルハイミねーちゃんの伴侶じゃ無かったんですか?」
「そうなんだけど、ちょっとややこしくてね。あたしも含め再生をしているので今の姿形や性格は前のあたしたちとちょっと違うのよ。コクもあたしも前の体がダメになって竜族の秘術、再生をして卵になってその魂を新しい体に移したのだけどその時に孵化を促進させるためにエルハイミ母さんやティアナ母さんがあたしたちに魔力を注ぎ込んでくれたの。だから竜の姿でなく今の姿は母さんたちに似ているのよ」
なるほど、だからセキさんはこめかみの横に二つづつトゲの様な癖っ毛が有るのか。
セキさんをよくよく見ると確かにエルハイミねーちゃんに少し似ている所もある。
「そうなりますと、コク様と古い女神様の血をあの国はひいていると言うのですの?」
「まあ、その始祖ってのがその子孫に殺されちゃってそれがショックでコクちゃんは長い間引きこもっていたんだけどね、あの迷宮に」
驚きセキさんに聞くエマ―ジェリアさんにミーニャは思い出すかのようにそう言う。
なんか聞いているだけで複雑で訳が分からなくなってきそうだ。
そもそも女の人同士でどうやって子供が生まれるかってのも不思議だと言うのに。
でも女神様だから何でもありなのだろうか?
そんな事を僕が思っていると屋敷の人たちが僕たちを呼んでいる。
呼ばれて僕たちは案内された場所に行くと外に馬と馬車が用意されていた。
「ほぉ、なかなかいい馬車じゃないか? 馬も力ありそうだしこれなら大丈夫だな」
リュードさんはそう言いながら馬の首に手を当て撫でてやっている。
馬車には二頭も馬が括り付けられていて、幌が着いた馬車は今までのモノより快適そうだった。
「こちらにいましたか。おお、準備が整っていたか。お礼をしたらすぐにでも出発するような事を言っていましたからね。急ぎ準備させていたんですよ。うん、ちゃんと荷台にも食料なども積んでありますね」
僕たちが馬車を見ていると後ろからカルスさんが声をかけてくれた。
見ればその後ろには司祭様たちもいる。
「うっし、それじゃあ出発するか。みんな馬車に乗ってくれ、アイミもな」
「カルス様いろいろとありがとうございましたですわ」
「いえいえ、聖女様のお役に立てて光栄ですよ。旅の目的が無事成功することを女神様に祈っておりますよ」
リュードさんに言われみんな馬車に乗り始めたけど最後にエマ―ジェリアさんがカルスさんにお礼の挨拶をしている。
しかしカルスさんにそう言われエマ―ジェリアさんは乾いた笑いをしながらもう一度お辞儀をして馬車に乗り込む。
「んじゃ、世話になったな」
リュードさんがそう言って馬車を動かし始めようとしたら一人の司祭様が慌ててこちらに寄って来る。
その女性の司祭様は小さめの箱をエマ―ジェリアさんに手渡しながらこう言う。
「大丈夫です、きっと女神様は聖女様にだって微笑んでくれます。この事は他の人には知られていません、ご安心を」
「はい? なんなのですの??」
「希望を捨てずに頑張ってください、聖女様!」
そう言って元気に手を振って僕たちの出発を見送ってくれる。
確か、もと育乳派のソシアさんて司祭様だったよな?
しばらく手を振って見送ってくれている皆さんを後に僕たちはイザンカ王国に向けて出発した。
*
町の城壁を出るころ僕は気になってエマ―ジェリアさんが受け取った箱が何だったか聞いてみた。
「それで、何なのですかそれって?」
「さあ、何でしょうね? 開けてみますわ‥‥‥」
そう言って箱を開けると中には丸いクッションの様な物が入っていた。
僕はそれを見てすぐに気づく。
「ああ、これのもう片方の奴だ。そう言えばこれエマ―ジェリアさんに返すの忘れてました。はい、どーぞ」
「なっ! /////っ!!!! ソ、ソウマ君が持っていたのですの!?」
「あー、あのパッドかぁ。せっかくだからずっとつけてれば? あたしくらいには見えるかもよ? あーっははははははっ!!」
ミーニャも気付き何故か笑っている。
箱の中身はエマ―ジェリアさんが女神様を演じる時に使った胸パットだった。
着替えて落したやつは僕が持っていて、もう片方は広場に一緒に空間転移させられていたやつだね。
うん、エマ―ジェリアさん良かったね、戻って来て。
にこにこしながらそれを懐から取り出しエマ―ジェリアさんに返すと真っ赤になってばっと僕の手から奪い取る。
そして真っ赤になりながら下を向いて何かぶつぶつ言っている。
「ソウマ君の‥‥‥ ソウマ君の‥‥‥」
「はい?」
「ソウマ君の馬鹿ぁっですわあぁぁぁぁっ!!!!」
ばちーんっ!
またまたエマージェリアさんに平手打ちを喰らい馬車から吹き飛ばされる僕だったのだ。
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