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80 【ジーク】 把握する


――――――


「あ!! ルカが怪我してるじゃない!! あいつら、ただじゃおか――」

「じゃ、しっかり暴れてこい」

「えっ」


 躊躇なくフレアを突き落とした。シリウスとエイトがぎょっと驚いたが、「大丈夫だ。彼女はこの程度では死にはしない。元気いっぱいお役目を果たすとも」となだめておく。実際本人さえ気づいているかわからないが、落ちる速度を若干緩めてやった。普通の人間ならそれでも死んでるかもしれないが、フレアならば大丈夫だろう、根拠もなくそう考える。



 僕は誰も信用しない。

 そう決めたことを撤回するつもりはないが、誰が相手であろうと彼女が負けるとは思えなかった。それくらいには、僕はあいつのことを信用しているのかもしれない。……不本意ながら。



 公爵の思考によると、ヴェントゥス公爵は女王の命令で密偵をこなしていたらしい。タソガレの反体制派、その中でも過激な連中が武器の密売に手を染めている。それを捕縛しタソガレの国王に引き渡すために。

 なかなか面白いことをやるものだ。正直面白半分でフレアの言う通りにイグニス公爵を見に行けば、まさかあんな重要なことを知っているとは。聖騎士会議の後に女王に呼ばれていたことは知っていたが、そこが繋がるとは思っていなかった。女王の心の内というのは、さすがそれだけをひたすら特訓してきただけのことはあって、僕でも読むのが難しい。



「…………死の影、か」



 フレアは見えると言ったが、どうだか。

 ヴェントゥス公爵の死の影を見てから、僕は彼に関わるか、関わるまいか、しばし考えた。いつもの僕ならば、間違いなく関わらない。どうせ無駄になるから。


 だが、このおよそ3年の間に、フレアは多くの人間を死から救った。

 カノン、イグニス公爵夫妻、騎士団長、それにあのステラという少女に孤児院の何人かの子供たち……。


 こんなに多くの死の影が見えることもそうそう無いことだったが、その全てを彼女が振り払った。

 だからこそ、彼女を巻き込んで公爵を助ける道を選んだ。




「ふむ、もうそろそろだな」

「あの、殿下、本当にフレア様お一人で良かったんですか!? 先程ちらりと見えただけですが、かなり手強そうなというか不気味そうな連中でしたが……」

「お前はフレアが適わないと思うか?」

「いえ、思いません」


 即答か。


「で、ですが、守りながらとなると大変でしょう。もしかしたら怪我を負ってしまわれるかも……」

「お前は向こうに行きたいのか?」

「いえ、殿下のお傍を離れるわけにはいきませんから。ただ、アランという男が来るまで待ってもよかったのではないかと……」

「そうなると間に合わない。死者が出る」


 エイトが息を呑んだ。


「僕らは僕らの仕事を遂行する。今すぐに」



 下でうじゃうじゃしている連中を叩いても意味がない。いや、奴らに大きな損害を与えることはできるが、それだけだ。


 あの下の連中を操っている人間がいる。


 人型兵器など見たこともないが、どうやらあれには命が宿っていない。この辺り一帯、広範囲に力を及ぼせば、あれを離れたところから操っている人間がいるらしいことがすぐにわかった。

 僕に見つからないと思ったか、薄汚い人間め。



「シリウス、ここで下りてくれ」



 シリウスは音もなく静かに着地してくれた。

 ふむ、とても優秀だな。獣に変身できるというのがまず面白いが、ここまでその体をうまくコントロールできているのが素晴らしい。これは面白い駒が一つ手に入ったな。……まあ、勝手に使おうとしたらフレアに嫌がられるからそれはできないが。


 狭い獣道だからか体力を温存するためか、シリウスは小さな犬に姿を変えた。先に行こうとするのを押しとどめ、先に進む。しばらく進むと小さな洞穴があった。間違いない、この中に大勢の人間がいる。見たこともない物に囲まれて、何やら操作している。



「殿下、ここは……」

「さきほど下でどんちゃんしていた兵器を操っている輩がこの中にいる」

「こんな小さな場所に?」

「小さく見えるのは入り口だけだ。中はかなり大きな空洞になっている。うまく隠しているようだが、僕の目では誤魔化せない。……だが少々人数が足りないな。エイト、僕が先に行くから、君は後から入るんだ。いいな?」

「し、しかし殿下……!」

「お前はこの数年でかなり力をつけた。だがまだまだだ。こういう時に僕より先に入ると死ぬぞ」


 フレアであれば突き飛ばすのだが。

 まだエイトには任せられない。案の定エイトはしょんぼりしてしまったが、時間がないので先に行くこととする。ふとシリウスの方に目を向けた。


「シリウス、僕はこれから神子の力を使う。君の目にも見える形で。このこと、フレアや他の人間には絶対に言わないように」


 シリウスは必死で首を縦に振っている。獣の姿だと言葉が喋れないのかもしれない。


「良い子だ」


 頭を撫でてやると嫌そうな顔をされた。


 洞穴を少し進むと鋼鉄でできた扉があった。まずは入る前に一度透視しておく。遠くからも一度透視し終えた後ではあるが、何か見落としがあるかもしれない。

 やはり最初に見た時どおり、入ってすぐは長い廊下が続き、いくつか道が分かれてまるで迷路のような造りになっている。ここはぎりぎりアカツキ王国内であり、この山はヴェントゥス家所有だったはずだ。よく公爵に気づかれずにこんなものを作ったものだと思うが、万が一ここがバレても爆破して全て潰せば証拠隠滅など簡単だし、公爵に全ての罪をなすりつけることも容易いだろう。


 一番奥に大きな部屋がある。さっさとそこまで行くか。


 施錠を外し、鋼鉄の扉を開けた。

 もちろん手は使っていない。ひとりでに開いた扉を前にして、シリウスが早速動揺しているが放っておく。




「だ、誰だ!?」



 しばらく歩くと兵士が現れた。睨み付けて動けなくさせてから、意識を奪う。触れてもいないのにバタバタ倒れる兵士はそのままに、迷いなく廊下を進んだ。……そうだな、後で面倒だから部屋の扉は全て鍵をかけておくか。進んでいく中で目に見える扉は全て鍵をかけておいた。


「ッ…………」


 勝手にバタバタ倒れる人間、勝手に鍵がかかっていく部屋……シリウスが不気味そうに体を震わせている。


「確か念力と呼ばれる力だったかな。僕はフレアのように飛んだり跳ねたりしなくても人の意識を奪ったり浮かせたりできるんだ。すごいだろう?」

「…………」



 シリウスは僕と目が合わないように俯いて体を縮こませている。よほど気味が悪いのだろう。僕にとっては息をするように簡単なことだけど。



 最後の扉を開けた瞬間発砲音が響いた。

 大勢の人間が僕らに銃を構えていた。だけど銃弾が僕らを貫くことはなかった。

 

 空中で止まった銃弾がカランカランと床に落ちていく。


「まだまだ遅いな。……フレアの剣の方がずっと速い」


 広々として不思議な部屋だった。鉄でできた部屋の中にはいろいろな機材のようなものが押し込められている。巨大な絵が……動く絵がいくつか天井辺りに吊されていた。



「フレア?」



 フレアが動いている。

 さきほど別れた時の姿で、剣を構えて立っていた。その絵の中でも、いくつもの銃弾がバラバラと落ちていく。



「…………何だ、これは」



 思わず見入っていると「い、一体何者だ!!」という兵士たちの声で我に返った。

 また発砲音。今度は数発か。狭い空間で乱れ打つのは危険だというのに、そもそも僕が相手でそんなものただの玩具だというのにバカな奴めと思っていると――






「不敬ですよ」





 エイトが飛び出し、銃弾を叩ききった。

 ただし僕へと向けられたものだけ。叩き切れなかった分は背後の壁にぶち当たりぷすぷすと煙が上っていた。しかし十分な成長だ。やはりこの数年、フレアに稽古をつけさせていたのが功を奏したのだろう。


「ほお。フレアに一歩近づいたな」

「いえ、まだまだです。フレア様は……」


 動く絵の向こうで、フレアが異常な量の銃弾を全て切り落としていた。しかも刃の届かないところに至るまで。まるで見えない壁でも出現したかのようだ。


「……凄すぎます」


 少ししょげている。

 確かにあれと比べればエイトはまだまだだが、比べる相手がおかしいだろう。あんな芸当は普通できない。あれは立派な人外だ。人間の皮を被った化け物だぞ。


「しかも目が……見えていないな」

「え?」

「目を閉じている。どうやら目をやられたらしい。一体何をしているのやら」


 それとも目を閉じていた方が戦いやすいのか? いや、そんなことはないだろう。

 いぜれにせよ、目が見えずともあれだけ動けるならば十分だ。彼女が負けることはない。


「しかしあの動く絵………あれはやはり現実に起こっていることのようだな。遠くにあるものをここに映し出して観察していたのか……なるほど、これならばあの兵器を操作することは造作もない。よくこんな面白い玩具を作ったものだ。僕に内緒で」



 僕はゆっくりと彼らに近づいた。




「う、動きが鈍くなってるぞ!! 一気に叩けえぇぇぇ!!」




 急になんだと思ったら、一人、動く絵の前で何やら弄るのに夢中になっている貴族らしい装いをした男がいる。僕が侵入していることにも気づいていないのか、それとも侵入したところでどうとでもなると楽観しているのか。



「ひれ伏せ」


 

 次の瞬間、兵士たちは全員銃を放り出してその場にひれ伏した。

 ――もちろん、僕を無視した貴族風の身なりの男も。


 ようやく自分がどういう状況にあるのか理解した男に、「顔をあげろ」と命じる。男は僕に青くなった顔を上げた。


「ひっ……」

「お前があれを操っているのか?」

「あ、あなたは、一体ッ……」

「お前、タソガレの貴族派だろう?」

「はッ、……はい……」


 目を合わせて記憶を覗きこむ。

 流れ込んでくる記憶は胸くそ悪いの一言に尽きるが、なるほどこれで全てわかった。



「映像石か……魔術と機械を組み合わせてこんなものを開発していたとはな。それにこれをこの場所以外だと、計5カ所で同時に見られるようにしてある、と」

 流れてきた記憶を元に、映像石に触れ動作を確認する。

「いや、お、お待ち、をッ……」

「悪趣味なショーだな。タソガレにもアカツキの人間にも見れるように仕掛けておいて、自分たちは国王派だと欺き、全ての罪を国王とヴェントゥス公爵になすりつけるのが狙いとは。これを今我が国の民が見ているのかと思うと今すぐ切ってやりたいところだが……」


 半端に終えるくらいなら最後まで見せて、これがこいつらの仕業だったと明かすまでした方がいいだろう。フレアがしくじることはまずないしな。見事に兵器を全て破壊し尽くしたようだし。お前らがこんなことをするならそれを利用させてもらうだけだ。

 だが5つの内2つは今すぐ見えなくさせてやるか。これは不要だからな。どうせ見ているのはこれに関わった薄汚い連中だ。不安を煽るだけ煽ってやろう。僕は奇妙な形の映像石を操作し、魔力の供給を切った。



「……ん?」


 映像の中に突然生身の人間が映った。

 フレアの顔色が変わる。


「確か……あれもお前が開発した兵器の一つだな? 『忘れな人』……ナギの民を襲撃した時に使った代物だ。他の兵器より丈夫でそう簡単には壊れずしかも自在に形を変える。相手の記憶に干渉して最も大切な、守りたい人間に変わる……だったか」




 その悪趣味な発想には心の底から嫌悪するよ。




『おい! あれは何なんだ!? あれも兵器なのか!?』


 映像の中でルカがこちらに呼びかける。


「返事をしろ」

「あ、ああ、あれは、我が、我が最高傑作の――」



 説明させながら、フレアの様子を見れば……




 今まで見たことのない、泣き出しそうな顔をしていた。


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