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66 任される



「……基礎体力?」


 わあ、体感温度がすっごい低い。

 思わずアクア家の人間が空気下げる系の能力でも使ったのかと思ったけど、そういうわけじゃなさそう。“何も知らないくせに偉そうなことを言うな”という無言の圧力を感じる。


 まあいいわ。ここまできたら言いたいこと言わせてもらうから。



「ええ、基礎体力。だって皆体力がなさそうなんですもの。見た感じがひ弱って言うか……。ヴェントゥス家のやり方に文句をつけるつもりじゃないけど、もっと体力つけてから面白い訓練をしたらどうでしょう? 木と木の間を飛びながら早撃ちとか回転しながらナイフ投げとかも必要かもしれないですけど。正直体が追いついていないのに無理しているようにしか見えませんでしたわ」

「ふっ、まるで自分は優秀な騎士よりも訓練を積んでいるかのような言い方だな」


 反応したのはヴェントゥス公爵じゃなくてレオンだった。


「これは驚いたぞ。イグニス公爵令嬢が剣を振るうところなんて見たことがないが、特殊能力のせいで自分が本隊の正騎士より優秀であると勘違いしているのか? お前は偶然能力を授かっただけのお飾りだろうが」

「あら。少なくともあなたよりはまともなお飾りだと思っておりますけれど? 正真正銘のお飾りさん」

「はあ?」

「確かに私はそんなに剣を持ったことはありませんけど、それでもあなたにだけは負ける気がしないんだもの」

「なんだと……?」


 ふっとジークが小さく笑みを零した。


「面白い。確かにレオンではフレアに1本取ることもできないだろう」

「なっ……殿下!?」


 レオンがまた立ち上がって抗議する。こいつはいちいち立ち上がらないと気が済まないのかしら。


「レオン、座れ」

「しかし……」

「座れ」


 ジークが笑顔のまま睨み付けると、レオンはぐっと拳を握りしめて渋々席に座った。


「今日の僕は少々虫の居所が悪くてな。いつもは面白く聞いていたが、そろそろ僕の婚約者への暴言を僕以外から聞くのはなかなか面白くない」

「も、申し訳ありません……」

 そもそも面白く聞くなよ、人の暴言を。

 ……まあ、少しはましになったってことでいいか。

「ジーク」

 女王の冷たい声に、ジークが目だけを向ける。

「ジーク、私情を挟むのはやめなさい」

「失礼しました。今更私情のことを口にするなんて、陛下は少し意地悪ですね」

 女王はそれには答えず、私の方に顔を向けた。

「フレア。……将来王妃となるべきあなたが、先程のような口の利き方は感心いたしません。レオンに謝罪を」


 はあ? 本気で言ってるの?

 そもそも先に噛みついてきたのはあっちでしょうが。

 女王は昔から私のことが好きじゃないみたいって思ってはいたけど、ここまであからさまだとうんざりするわ。私の母親関連かもしれないし、うまくいってない息子の未来の嫁ってだけで苛つくのかもしれないし、ただ私そのものが気に食わないのかもしれないけど。


「……わかりました。ではどの辺りを謝罪すればよろしいのでしょう?」

「そんなこともわからないのですか? 自分が謝罪するべきことさえ理解できていない?」

「ええ、全く」

 だって本当のことしか言っていないもの。

 女王は額を押さえて深いため息を吐いた。

「呆れた。……フレア、常々思っていましたが、あなたは騎士への敬意というものがまるでない。他の聖騎士への敬意も。レオンはあなたと違って聖騎士にとって必要な鍛錬というものを積んでいます。あなたが城下の孤児院で貴族の責務をほとんど放棄しのんびり過ごしている間、あなたにはわかりようのない努力を彼は積み重ねているのです。それなのにお飾りだの、負ける気がしないなどと……どう考えてもあなたがレオンから1本を取るなんて無理でしょう。ジークが最近どうも甘やかしているようなのは気になっていましたが、つけあがるのも大概になさい」


 くっ……

 笑うな、私。いろいろ思うところはあるけれど、笑ったら負け。笑ったら負け。この人の怒りに火がついてまた面倒なことになるから。あ~でも笑ってしまいそうでいろいろやばい。だってあのひょろいクソガキにだけは何がどうあっても負ける気がしないんだもの。発火能力があるから氷なんて溶かせばいいだけだし、いやそもそも能力使わなくても剣があれば負ける気がしない。なのにここまでの言われようって、理不尽すぎて最早笑っちゃうわ。



「正直ジークがあなたを選んだ時から私も公爵も何の間違いかと思ったものです。巷でさえ婚約破棄を囁かれるようなあなたを、このまま婚約者としておいて良いものかと――」

「あ、では婚約破棄します?」


 降って湧いた幸運に飛びつくと、また場が凍った。

 女王の言葉を途中で遮る行為自体不敬だとわかってはいるけれど、敢えてやった。後悔はしていない。



「女王陛下、これ以上フレアを虐めないでいただきたい」


 気づいたらジークの顔から笑顔が消えていた。


「これは僕の物だ。勝手にどうのこうの言われるのもされるのも気に入られないと、何度言ったらわかる」



 おおおおお。母親を脅してる……。やるわね。そういうところは嫌いじゃないわよ。でも言葉の中身はちょっと怖い。ジークって一度手にした玩具は絶対手放したくないタイプの人間なのね……。

 女王の顔が怒りで赤くなっている。

 ジークはそんな女王から視線を外すとテラ公爵家の方へ顔を向けた。


「さて、次は第四騎士団の話を聞こうか」

「……はっ」


 騎士団長が立ち上がり、長々と説明を始める。



――――――


「――――――――そういうわけで、我々としては武器や武具の強化が重要であるとも感じています。シノノメ帝国やタソガレ王国では、銃火器の開発が進んでいると聞きます。精度や威力が桁違いである、と。また鎧などもその強度が驚異的なものになりつつあるらしく……」


 シノノメは運命を信じるロマンチックな国である一方、世界的な軍事国家らしい。まあ帝国を築き上げるくらいだからそりゃ軍事力は他を圧倒してるでしょうね。

 アカツキ王国は言わば宗教の国。唯一神がいて、神から授けられた力を継承させながら国を守っている。その力はうまく使えばたった一人が国を滅ぼすほどだ~なんて言われているけれど、その力に頼るが故に武器の開発は遅れている。性能の良い物はほとんどを貿易に頼っているらしい。


「取引国を吟味する必要はあるかと。タソガレ王国は近隣の国ですし、これまで以上に友好関係を築いていく必要があるでしょう」


 第四騎士団の報告が終わる。 


「――ところで、タソガレ王国と言えば例の騎馬民族とも交流のある国だったな。ヴェントゥス家もその部族との交流があったはずだ」

「……それが、何か?」


 イグニス公爵からの問いに、ヴェントゥス公爵が静かに顔を上げる。


「彼らを通じて武器を買い入れるというのは? タソガレ王国は条約を結んでからまだ新しい。長らく国を閉ざしてきた我々アカツキの者への警戒心も根強いと聞くし、そもそもあそこは貿易が盛んではない」

「……確かにナギの民とは長らく交流をしているが、彼らもよそ者に懐疑的な人間だ。彼ら自身が腕1つでこの世界を渡り歩いているが故に、自分たちが認めた強い者としか関わりを持とうとしない。先程も言っただろう、彼らは一部族でありながら、シノノメ帝国相手にさえ強気の姿勢を崩さないと」

「だが貴殿は関わりを持っているだろう?」

「取引を頼めるほどの信頼関係にはまだない。……それにタソガレ王国は今国内の情勢が少々厄介だと聞きます。国王と貴族の対立が深刻化しているとか。条約国とは言え、あまり深く関わらない方が良いかと」

「だがそれでは――」

 

 うう、眠い……。

 だんだん議論があらぶってきた。必死で眠気と戦っているうちに、眠気の第2波が来たあたりでようやく会議が終わった。こくんこくんと船を漕ぐ事態はなんとか防げた。よかった、と思ってさっさと帰ろうとすると、ルカは公爵とともに女王に呼ばれてしまった。


「先に孤児院に帰っていて。後で僕も行くから」


 ルカも少々困惑しているところを見ると、急に呼ばれた理由はわからないらしい。

 仕方ないから一人で馬車に乗り込もうと思ったところで……今度は、ジークに呼び止められた。


「ごめんなさいすごく忙しいからまた今度にしてもらえますかねではごきげん――」

「君に頼みたいことがある」


 きっぱりと言葉の途中を遮られた後、彼は私の耳元にそっと囁いた。


「命令、だ」


 それからにこっと柔らかい笑みを私に向けた。

 何を言ったか知らない人が見たら、きっと甘い言葉を囁かれたと勘違いするんでしょうね……。


「君は高いところは得意だな?」

「ええ、まあ……」

「じゃあゼファを訓練してやってくれないか」


 ジークの隣に連れて来られていたのは第7番目の聖騎士“飛翔”の特殊能力を持つゼファ・セダム・ヴェントゥスだった。あのヴェントゥス公爵の腹違いの弟君……だったっけ。ぼんやりした顔で私を見た後、どこか遠い空の方へ視線を向けている。

 

「はい? いや、あの……」

「あんなに能力を恐れていたルカも、君と関わるようになって使いこなせてきたらしいじゃないか」

「え? それはルカが自分から練習を重ねてきたからで……」

「君も少し特訓に付き合っていたと聞いている」

「いえ、まあそれはちょっと傍にいただけで……ていうか私は何もしてないし」 


 ただルカが岩を破壊したり力の調節をしているのを傍で見たり、応援したりしただけだ。特訓に付き合ったと言ってもたかが知れている。


「ゼファは飛翔の特殊能力を持っていながら高所恐怖症なんだ」

「………………で?」

「彼の傍について訓練してやってくれ。その間はヴェントゥス家で世話になるといい」

「何勝手なこと――」


 ジークは有無を言わさない笑顔で、私の肩をぽんぽんと叩いた。


「……楽しみにしてるぞ、愛しい僕の婚約者」


 最後に、にや~っと意地悪な笑みを浮かべて去って行く。

 ゼファを見れば私には興味ゼロで、ただ雲をぼんやり見上げていた。意味がわからないし何面倒なもの押しつけてくれてんのよあんのクソ王子……私は心の中で悪態を吐いた。


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