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17 逸らす




 それから義勝、もとい皇帝陛下は、さっきシドや刀士郎が話していたこととほとんど同じことを村の人たちに説明してくれた。言っていることは同じ、なのに、村の人たちの心に随分深く染みこんでいるのは、傍目からも明らかだった。


 皇族なんて会ったこともない、生涯で会うこともないと思っていた、雲の上の存在だ。しかも皇帝。この国の頂点に立つ人が、僕らの輪の中に入り、僕らと同じ椅子に座り、僕らと同じ目線で話をしてくれる。そればかりか、僕らの話も真剣に聞いてくれる。

 村の人たちは神様でも前にしたように緊張して、中には緊張か喜びのせいかわからないけど涙を流して皇帝に手を合わせている人までいた。そして、今までどれだけ大変だったか、辛い思いをしてきたか、口々に語った。


 話が、最近村にやってきたルークたちのことに差し掛かった時だった。



「――――――ルークは、私の友人だ」

「ゆッ……友人!? まさかそんな、ここ、皇帝陛下のご友人だったなんて――――!」

「そ、その、でも本当に怪しくて、だから――――」

「あいつが何かやらかしたならすまない」

「いいいいえそのッ……皇帝陛下が謝らないでください! ああすいません! 本当に、本当に申し訳ありません!」

「あの御方も、やんごとなき身分の……?」

「いや、あいつの身の上については詳しくは話せない。彼は国を跨いだ極秘任務についている。今はそれだけしか話せないが、わかってくれるか」

「勿論ですとも!!」



 うーん、権力ってすごいなあ……。

 皆さっきまでの暗い顔はどこに行ったの? 元気になってくれたのは嬉しいけど、ちょっとまるで別人みたいだよ。もう村に帰るのやめようかなって言ってた人も、今はウッキウキで「早く村に帰りたい」って言ってる。皇帝が「もう大丈夫だよ」って話してくれたから。それだけ皇帝の言葉には重みがあるってことなんだろうな。これでもし村に帰って皆が元気じゃなかったら、どうなるんだろう……。ちょっとだけ心配になってきた。


 そしてほむらと義勝……いや、ルークと皇帝は友達なんだね。刀士郎に驚いた様子がなかったから何となく察してはいたけれど、弟子三人がまた巡り会っていたんだと思うと、すごくほっこりする。記憶がないなら、昔と今じゃ関係性は違っているかもしれないけれど……三人がわちゃわちゃしているところを見られたら、それはもの凄く幸せな光景だなって思う。



 その後、村の人たちが一通り喋りたいだけ喋り終えた頃になって、皇帝は「……随分幼い子もいるようだが、君は」と、僕に視線を向けた。完全に気を抜いていたから、僕はまた慌てた。


「あ、ええっと、僕は……ユーリ。しがない七歳です。えっと、シドに助けられてここまで来て、でも、(とう)……いろんな助けがあって、この村に来ました。僕自身はあまり、何もしてないですけど……」

「そうか。……シドが世話になったようだ。礼を言う」


 ふわっと微笑んで、彼は僕に頭を下げた。どよめきが起こる。――――驚いた。僕に頭を下げたこともそうだけど、そんなに柔らかな表情、前世でだってあまり見たことはないのに。こんなに優しい表情を、初対面の僕に見せてくれるとは思わなかった。

 それは、彼がどれだけ成長したか、どれだけいろんなことを経験してきたのかを、如実に物語っているような気がした。



「…………驚いた」



 気づいたら、言葉が零れていた。



「立派に、なったねえ……」



 しみじみとそう言ってしまった次の瞬間、ピキ、と音がしそうな程、場が凍った。



「おまッ……何目線だそれは!!」

「立派になったって言うかこの御方は元から立派なんだよ何言ってるの!?」

「皇帝陛下様に失礼だぞ!?」


 真っ青になったニックスや村の人たちが口々に騒ぎ、僕を庇うように皇帝の前に躍り出る。「すみませんこの子は昔からちょっと変わってて……!」「でも悪気はないんですちょっとじじ臭いだけで!!」「本当にちょこっとおじいちゃんっぽいだけで!」――――村の人たちの優しさを感じつつ皇帝の方を見ると、呆気にとられた様子で目を丸くした後、少し考え込む素振りを見せ、そして……



「君と、別室で少し話をしたいんだが、どうだろうか?」

「え」


 悲鳴が起こった。


「皇帝陛下!! やはりご気分を害されたのですね!?」

「申し訳ございません!! 悪い子ではないので、どうか勘弁してくださいませんか!?」

「どうか……!!」


 村の人たちの顔色が青から白になりつつある。すごく申し訳ない気持ちと、皇帝がどうして僕と話をしたいのか、困惑する気持ちとが混ざり合った。


「何も二人きりで、という訳じゃない。それに私は怒ってもいないから、安心してほしい」




 結局、刀士郎とシド、それに「ユーリのことが心配だから傍で見てやってて」と村の人たちに懇願されてニックスが、僕に付き添ってくれることになって、小さな部屋で皇帝と向き合った。


 何だか、すごく緊張する。こうして向き合うのは、牢屋の中と外から話をした、あれが最後だった。



「えっと……皇帝、陛下……」

「お久しぶりです、先生」

「へ?」



 優しい皇帝の表情に、どこか憂いを帯びた、静かな色が加わる。

 彼は、深々と僕に頭を下げた。さっきお礼を言ってくれた、その時より更に深く。


 ニックスもシドも固まっている。僕も、多分すごい顔になっている。

 皇帝はゆっくりと頭を上げた。その表情は、――――――……ああそうか。記憶はないと思っていた。でも違う。そこにいたのは、碓氷義勝……僕の、大切な弟子の一人だった。


「記憶のない振りをしたこと、お許し下さい。あの場で昔の話をすれば、いろいろややこしいことになると思ったので。……あなたの為にも、知らない振りがいいと判断しました」


 少し考えてみればわかることだった。確かに、皇帝と前世の師弟関係にあるなんて、僕が今後あの村で暮らし続けることを考えると、いろいろ面倒なことになるかもしれない。それを瞬時に判断して知らない振りをするなんて、やっぱりすごいな義勝は。



 僕の方は、まだこんなに動揺してるのに。



「先生、またこうして、あなたにお会いできる日が来るとは思っていませんでした。ゆっくり話す時間はあまりありませんが……次、いつお会いできるかもわからない」

「義勝……」

「お元気そうで何よりです」

「君も。……本当に、立派になったね。まさか皇帝なんて。今でも信じられないけど」

「立派とは程遠い。悩んでばかりです。今やっていることは、選択は正しかったのかと」

「……君は立派だよ。自分の行いを振り返る勇気を持っているなら、大丈夫。私とは違う」

「先生は――――――」

「私は、間違ってばかりだった」



 僕は、彼の昔と変わらない真っ直ぐな目から視線を逸らした。


 沈黙が流れる。刀士郎と再会した時もそうだけど、やっぱり僕の最期の所為かな。昔のようにぽんぽんと言葉が出てこない。


 僕は彼を拒んだ。彼が反対するのに、ほむらに自分の首を斬らせた。大きな罪を犯した。だからだろう、転生した今も、僕の首には斬られた痕が残っている。迷いのない、綺麗な、うっすらと赤い痕が、一つ。



 ほむらが僕に残した傷痕。

 そう目立つものでもないけれど、いつからかスカーフで隠すようになった。






「…………あのー」


 沈黙に耐えられなくなったらしいニックスが、おずおずと声を掛ける。


「陛下とユーリは、一体どういう……?」

「彼は、前世で私の師匠だった」


 義勝の言葉に、ニックスの目がみるみる丸くなっていく。


「ぜ、前世? え!? ユーリお前ッ……前世の記憶って本当にあるもんなのか!? すげえ!! 何で今まで言わなかったんだよ!!」

「いやー、どう説明していいものか……」

「て言うか師匠? え、皇帝陛下がユーリの師匠……? ユーリが陛下の師匠……?」

「びっくりだと思うけど、一応僕が師匠をやってたんだよね、あはは」

「嘘だろぉ!? え、ユーリが師匠ってことはそれはつまり……」


 ニックスは僕を見て、それからゆっくり義勝を見て、そして……




「皇帝陛下も変な発明とか大好きなクチですか……?」




 庭とか爆発させるんでしょ? 夜な夜な変な発明しながら不気味に笑ってるんでしょ? それはちょっとヤベえんじゃ……と、あらぬ方向に誤解が始まってしまった。



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