表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/660

65 意見する



「…………会議に遅れてくるとは何事ですか」



 女王の冷たい視線に射貫かれて「すみません」と口先だけの謝罪をして頭を下げる。隣のジークは涼しい顔で「久しぶりの婚約者との時間が楽しくて」と嘘八百を並べ立てる。

 私たち以外は全員が席についていた。私は鬼のような顔でこちらを睨むイグニス公爵を一瞥した後、ルカの隣に腰を下ろした。大きな円卓には四大公爵家当主と聖騎士と、それから各騎士団の団長と副団長が勢揃い。相変わらず全員の圧が凄い。



「フレア、大丈夫かい?」


 ルカがこそっと私を案じてくれた。王宮に着くなりエイトが駆け寄ってきたのを見た私は咄嗟に逃げ出した。で、しばらく追いかけっこをした後へろへろのエイトが可哀想になって捕まってあげた。案の定ジークの茶を淹れるためだけに呼び出され、時間がないのに本当に茶を淹れさせられ、こうして遅刻した。


 正直全然大丈夫じゃない。

 でもルカに気を遣わせまくるのも可哀想なので「全然平気」と答える。ふふ、これが大人の対応よ。




「イグニス家の不良娘は相変わらずだらしないな」



 ……来た。

 そもそも私が遅れたのはジークのせいだしジークだって遅れているのになんで私だけ。て思うけど毎回のことだからいちいち反応してあげないわ。



「だから屋敷から追い出されるんだ。聖騎士の面汚し」



 その薄く青みがかった銀髪を赤く染めてやろうか。

 ……おっとっと。落ち着け、私。

 相手は年上とは言え子供でしょうが。何ムキになってんのよ。無視よ、無視。女王に睨まれるから余計なことは言わないが吉。


「……ふん」


 私が言い返してこないことが気に食わないのか、彼は気に食わなさそうに生意気な視線を逸らした。


 5番目の聖騎士“氷結”の特殊能力者、レオン・デルフィニウム・アクア。私より年上のくせに年下の私のことを虐めるのに必死な器の小さいクソガキ。


「レオン。厳正な会議の場でそのような発言は慎んで」


 静かに窘めたのは4番目の聖騎士“放水”の特殊能力者、クリスタ・デルフィニウム・アクア。確かレオンとは同い年くらいで、いとこ。いかにもお高くとまったすまし顔で


「フレア様に構うのは時間の無駄です。彼女のような無法者には何を言っても意味がありませんから」


 私のことが嫌い。

 元々イグニス家とアクア家は犬猿の仲だ。どうも相性が悪いのか仲の悪さは先祖の代からだから、私にネチネチ嫌味を言ってくるのは単純に私のことが嫌いってのとイグニス家だからってのがあるんでしょう。昔から私は問題行動ばかり起こしているってことで非難されまくってきた。公爵は娘がどんなに非難されても素知らぬ顔だ。おそらくルカが同じ目に遭えば烈火のごとく怒り狂ったでしょうけど、なんせ私だからね。同じ家にも仲間がいないのをいいことに、アクア家は嫌味攻撃をやめようとしないし、女王や他の人間も敢えてそれを止めようとしない。会議の前に私を貶める言動をしてから本題が始まる。それがいつからか慣例みたいになっていた。

 

 ……そうだ、もっと幼い頃の私はいつもジークの助けを期待していたっけ。

 決してこの場では涙を見せなかった。何を言われてもはっきりと憎まれ口を返してやった。賢く切り抜ける技を私は知らなかったから。

 そして、誰もいない場所でこっそり泣いた。ジークの前では涙を見せてもいいと、会いに行って泣いて縋り付いたこともあったけれど、思い起こせば彼は私の方を見てもいなかった。



 胸くそ悪いことを思い出してげんなりしていると



「不良娘、聖騎士の面汚し、それに無法者……」



 低く迫力のある声が隣から発せられた。



「驚きました。アクア家の方々はどうも躾が行き届いていないようですね」



 ルカの目が完全に据わっていた。 


 ……そう、いつからだったか、あのルカが彼らに反撃をかますようになっていたのだ。最初はうまく言い返せなくて涙目だった彼が、最近「別人格でも出てきたのかな?」という錯覚を覚えるほどに堂々と渡り合うようになった。

 起爆能力もけっこう扱えるようになって、昔はあんなに怖がっていたのに今ではそれを使って脅すことまでできるように……大丈夫かしら。これ間違った方向に進んでないよね? ルカってもっとこう、天使みたいな……




「毎度毎度あなた方の戯言を聞いている時間が無駄です。フレアに対して何か言わないといられないそれは病気でしょうか? でしたら王宮医に診てもらうことをおすすめします。それとも僕が良い医者を紹介しましょうか? 今まで誰もそのご病気に気づいておられなかったということは、アクア家にはろくな医者がいないということでしょうから。可哀想に」

「な、なんだと……!?」


 あ、この感じ、ルベルだ。ルベルに似てる!

 なるほど、そことここが仲良くなってそれでこうか……。妙に納得していると怒りに顔を赤くしたレオンがばっと立ち上がった。


「今のアクア家への侮辱は到底許され――」

「座れ」



 あくまで口元に微笑みを浮かべたまま、ジークが命令した。

 レオンはびくつき、渋々その場に座る。


「お遊びが過ぎる。女王陛下も、寛大なのは結構だがもう少し厳しくあってもよいのでは?」

「……女王である私にあなたが口出しすると?」


 冷たい視線の女王に、ジークはレオンに向けたのと変わらない笑みを向けた。



「だとしたら何か問題が?」

「…………」


 神子だからと言って、ジークの歯に衣着せない物言いは相変わらずね。女王以前に実の母親への物言いとは思えない。だけどそれが許容されているのは、やはり彼が神子だからでしょう。

 本来この国を治めるのは神子である人間だけだ。ただその力が次代に継承される過程でできる空白の時間を、代わりに治める人間が必要だった。だから今、女王は神子から政を任されているに過ぎない。力関係でいれば神子であるジークの方が強い。彼が18歳の成人を迎えれば、彼は自動的に国王となる。


 それにしても事実上のトップ二人がバチバチしてるこの状況、とても居心地が悪い。そもそもジークに至っては堂々と遅刻してるの忘れてるの? ほんとやめてよねと思いながら、私はちらっとルカに視線を向けた。


「……やはり嫌いな相手には冷静でいられないな。もう少し訓練しないと……」


 訓練って、何を?

 起爆能力の話だったらいつでも付き合ってあげていいけど、それじゃない気がする。このままジークみたいな腹黒になったらどうしよう。まあ私のことはそこそこ大切に想ってくれてるみたいだからいっか。




――――――――


 今日の議題も相変わらずつまんない。盗賊云々とか放浪の騎馬民族云々辺りはそこそこ興味もあったけど、騎士団の強化云々になって一気につまらなくなった。正直騎士団のことはどうでもいい。団長と副団長に任せておけばそれでいいと思う。私公爵令嬢だし。


 この国における主力の武器は剣だ。鉄砲や爆弾もあるけれどそちらはまだそんなに発展していないらしい。時と場合によっては未だに弓矢の方が性能がいいとされていたりする。


「……と、言う訳で、我が第三騎士団ではこのような訓練方法を取り入れております」


 やれやれ、第三までようやく終わった。正直訓練方法とかどうでもいいって。危うく居眠りするところだったわ、と思っていると、その心中を察したような問いがジークから容赦なく放たれた。


「フレア。とても熱心に聞いていたようだね」

「はっ、はい!?」


 げ、と思うとにやにやした嫌らしい笑みを浮かべたレオンと目が合う。こいつ、ほんと嫌い。


「一番目の聖騎士様のご意見、気になるな」

「別に意見なんて…」


 ない、と言おうとしたらジークに遮られる。


「僕は君の意見が聞きたい。さすが風系統の能力者を持つヴェントゥス家とあって面白い訓練方法を取り入れているが、君はそれをどう思った? フレアは数日前に各騎士団の視察も終えているな? そのことに関しても君が思ったことが聞きたいんだが」


 まさか騎士団の視察に行かされていたのは今日意見を聞くためだったなんて…。それなら最初からそう言っといてよ! 

 ていうか、意見、て言われてもね……。

 ヴェントゥス家の当主であり8番目の聖騎士“瞬間移動”のゲイル・セダム・ヴェントゥス公爵は確かうっすらアクア家の血が流れている。それもあってか私のことが嫌い。いや、私のことが嫌いというかちょっとヴェントゥス家の人間っぽさがない。自由と芸術より規律を重んじる。自由気ままな変人の多いヴェントゥス家にあって、冷徹で厳しい人間だ。


「まあ、正直に申し上げますと……」


 公爵の目がぎらっと光った。

 

「変わったことばっかしてないでまずは基礎体力をつけたら? て思いました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ