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8 【ローガン】 叩きつける

同じ頃、別の町でローガンは……





 ――――――――――それから、男は醜く泣きじゃくり懇願を始めた。



「た、頼む! 見逃してくれ!! こっちも生活がかかってんだよ!!」

「言い訳は裁判でやれ」

「子どもがいるんだ! 娘が病気で、だから――――グッ!?」


 男を拘束し、それでも煩く騒ぎ立てるから意識を奪った。

 いかなる理由があろうと罪は罪。一つ一つ言い訳を聞いてやる程暇じゃない。そもそも病気の娘というのも怪しい。こういう輩は平気で嘘を吐く。


 暗闇の中で、こいつのお仲間も次々に捕まっていく、その悲鳴が聞こえてきた。

 犯罪者のアジトを特定して叩いて、数分足らずの事だった。






「――――――おし! ローガン、後は俺らに任せて、お前は宿帰って休憩!!」

「は? なぜ俺がお前に指図されなければならない」


 犯罪者どもを引きずり出して捕縛していると、ディランが気安く肩を叩いてきた。


「お前働き過ぎなんだよ。今回の作戦だって、ほんとは入ってなかっただろ? 雑魚共は俺らで何とかやるから、お前はもうちっと休んでろ」

「まだ任務は終わっていない」

「だーかーら、後は俺らに任せろってば。お前そろそろ寝ろ。休め。飯もろくに食わず働き過ぎだぞ」

「休んでいる暇はない」

「何馬鹿言ってんだ。んなこと言って感染症ってのに罹ったらどうすんだよ? お前がいくら腕っ節強くてもだ、病気ってのはどうしようもねえんだからな?」

「…………」

「つーわけでお前は休憩! 副団長様に倒れられたら俺らが困るんだよ!!」


 一方的にそう言って、さっさと帰れとばかりに俺の背中を押す。

 周りを見れば、確かにアジトはほぼ制圧したも同然。それに団員の数も十分だった。だがライリー……団長は不在だと言うのに、ディランにこの後の事を全て任せてしまって本当に良いのか? うっかり屋のこいつの事だ、何か重大なミスをやらかすとしか思えない。やはり俺もこの場にいた方が――――



「おい、いつまでいるんだよ! さっさと帰って寝ろってば!」

「ローガンさん、顔色悪いですよ。後は任せてください!」

「どうせまたあの子の事考えてたんでしょ。ほら、さっさと帰って寝れば夢に出てくるかもしれないわよ?」


 またディランにどやされ、ウィルが元気いっぱいで動き回り、エイダに呆れた様子で肩を叩かれ、他の連中にまで「さっさと帰れ」コールを受け、俺は…………渋々、踵を返した。




 原因不明の伝染病。



 最初に連絡があったのは、アカツキ王国だった。その調査によると、アカツキ王国国境周辺に謎の病が確認され、その隣国でも次々に感染者が見つかった、と。

 連絡を受け、義勝は医師団を各地に派遣すると共に、異国からの行商人の入国を制限。諸国と連携を取りながら、伝染病の研究、調査、薬の開発と支援を進めていた。その最中、シノノメ帝国国境付近でも、その伝染病のものと思われる感染者が見つかった。まだ首都にまでは広まっていないが、その脅威は徐々に国を蝕み始めている。

 おまけにあの病は農作物にまで影響を与えるのか、感染者のいる村は畑が枯れ始め、人々は病と飢えに苦しめられることになった。義勝の命で困窮者支援が進められているが、国の役人に取り入って物資を横取りしたり、薬と偽って金儲けを企んだりする輩が出始めている。

 それらを取り締まるのが、目下のところ俺たちの仕事だ。



「…………フレア」


 彼女は、今どうしているだろうか。

 きっとあの治癒の力で、今も大勢の人を治しているんだろう、とは思うが……正直、心配で堪らない。嫌な予感がする。


 あのシドという少年と二人きりで各地を旅していると聞いた時は、無論反対だった。あまりにも危険過ぎる。狡賢い人間に純真な彼女が騙され、傷つけられたら? 心ない言葉を投げつけられたら? 伝染病に罹る事はないと彼女は言っていたが、もし怪我したら? たとえ治癒の力で治るのだとしても、どんな些細な傷一つ、彼女の心にも体にもついてほしくない。


 アカツキ王国内では、フレアは13番目の聖騎士ルークとして、派手に治癒の力を使って人々を癒やしていたらしい。それに治癒の守りを作って、無償で人々に与えた。そうすることで、13番目としての力で人々からの信頼と尊敬を集めたと聞いている。あの頃はまだ大勢で動いていたはずだ。

 けれど国を離れてからは、特殊能力を隠して動く事になった。その力を狙われる危険があったというのと、宗教国家であるアカツキ王国では信奉されているあの能力も、他の国では気味悪く映る可能性が高い。だから回りくどいやり方ではあるが、物に力を込めてそれをこっそり……――――いや、思えば、それが限界だったのかもしれない。物に力を込めて治癒を拡散するやり方以外、彼女はできなくなっているんじゃないのか? 隠したかったんじゃないのか? 短期間に力を使いすぎたことで、体の方はとっくに限界が近づいているということを。だから皆から離れ、一人で国を回ろうとしたのか?


 シドと旅をして半年程。

 何の見返りもない上、時には酷い扱いを受けながらも、彼女は人々を救い続けている。


 数週間前の事だった、フレアと偶然シノノメ帝国国境付近で再会したのは。

 どうも顔色が悪いとは思っていたが、少し話してすぐ、彼女は俺の目の前で倒れた。酷い熱だった。




 俺は……何も知らなかった。特殊能力が、ここまで身をすり減らすものだとは。

 彼女は自分の命を削りながら、名も知らない人々を救っている。自国の人間ですらないのに。

 熱で魘される彼女を見て、気が狂いそうになった。


『フレア、一度国に帰って休むべきだ。いくら君でも、これ以上は――――……』

『大丈夫。朝になったら、大体元気になってるから』


 熱で顔を真っ赤にしながら、彼女は力なく笑った。

 心が締め付けられた。何も、何一つ、大丈夫じゃないだろう、と。


『お願い。他の皆には、言わないで』


 潤んだ瞳で懇願されて、言葉が出なかった。熱い指先が、力なく俺の手に触れる。

 どうするべきかなんてわかってた。彼女を説得して、この旅を終わらせる。ジークに伝えて彼女を保護して貰うべきだ。これ以上、傷つかないで済むように。



 大多数の人間のために、君が犠牲になる必要なんてどこにもない。



 なのに――――……俺は、結局彼女を説得することができなかった。

 翌朝、フレアはシドと一緒に旅立った。


『またしばらく国境付近を回ってみる。ローガンも、気をつけて』

『…………ああ』

『何かあったらすぐ連絡して。じゃ、また』


 俺が何を言っても、彼女は止まらなかった。早く伝染病を何とかして、ジークとデートしたいから、と。遠距離もなかなか楽しいと言っていたけれど……本当だろうか。俺には、とても寂しそうに見えた。





 ……酷く胸騒ぎがする。

 今も、どこかでフレアが熱を出して倒れているんじゃないのか。心ない言葉を投げつけられて傷ついているんじゃないのか。

 そんな事ばかり考えてしまう。



 義勝にだけはこのことを伝えておいたが……あいつにフレアを説得する時間がないことはわかっている。あいつも今は国境付近を町から町へ回っているはずだが、どこにいるかまでは俺も把握していない。各所を回りながら公務をこなす日々は、相当厳しいものだということは明らかだった。


 だが、やはりフレアを説得するならあいつしかいないんじゃないのか。義勝の言葉なら、ほむらは、いやフレアは耳を傾けるかもしれない。もしかしたら……。本来ならジークの役目としたいところだが、俺はやはりフレアに必要なのはあいつだと――――――――……





「クソッ、だから言ったんだ。あんなガキの言うことを聞くなんてどうかしてるって」

「はあ? お前だって乗り気だっただろうが!」

「うるせえ! 俺は反対してたんだよ! あんなうまい儲け話があるかよ! ……チッ、ふざけやがってクソが!」


 黙々と歩いている途中、物騒な会話が聞こえて思わず立ち止まった。

 気配を殺し、会話のする方へ近づく。薄暗い狭い路地裏で、男が二人悪態を吐いていた。


「なあ、あのガキはどこに行きやがったんだ!? あいつの親は!? 金持ってんだろ!?」

「知るかよ! とにかくさっさと逃げるぞ! クソ自警団が。国に雇われた途端調子に乗りやが――――」



「詳しく話を聞かせて貰おうか」

「んなッ!?」

「ヒッ――――! こいつ、自警――――――」



 バキ、と嫌な音がした。

 二人纏めて地面に叩きつけてから、うっかり力を入れすぎたと慌てて確認すると、二人とも気を失っている。……面倒くさい。ディランに引き渡してもいいが、それよりもっと気になることがあった。



 “あのガキ”――――――……こいつは確かにそう言っていた。


 今回取り締まった連中は、伝染病の薬と称してただの粉に法外な値段をつけ売り払っていた。どうやら組織的な犯行らしいと言うことはわかっているが、まだその全貌は掴めていない。ただ、その背後に“幼い女の子”がいるらしいことはわかっている。別の町で捕まえた奴らも、元々は幼い子どもに唆されたことだとか何とか言っていた。キャサリンだか、ナタリーだかリアンヌだかハンティングだか名前はバラバラだが、恐らく偽名で渡り歩いているんだろう。年端もいかない子どもが、裏でこいつらを操り、あちこちの町で犯罪を繰り返している、らしい。


 本当に幼い子どもがそんなことをやってのけているとは思わない。その子の親か誰かが、安全な場所からその子に指示を出してやっているんだろう、が…………




 許せない。

 フレアがあんなにも身を削って人々を救っているのに。

 それを嘲笑うかのようなふざけた真似をするクソ野郎共は、俺が叩きのめして後悔させてやる。




 俺は男たちの首根っこを掴んだ。休んでいる暇なんて、一瞬たりとも必要ない。


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