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炎に焦がれる小さな星は⑰




 慌てて馬車の方を見ると、まず助からねえだろってくらい馬車は炎上していた。

 通りから人が出て、消火が始まってる。でも勢いはなかなか収まらない。


「リリー・ハントがあの中にいるならそのまま天に召されてほしいけど」とレイン。

「ステラ、馬車で一緒にいたのはリリー……女の子か?十歳くらいの」

「ええ、間違い、ありません。リリー様と出かけることになって、そのまま攫われましたから…………ああ、なるほど、餌というのはカノンさんたちを誘き寄せるための、ということだったんですね」


 ステラは小さくため息を吐いた後、「召されているといいですねえ」と怖いことを言いながらにっこり微笑んだ。

 二人ともあの令嬢への殺意がとんでもねえことになってる。レインは前世の因縁があるみたいだし、ステラは今まさに騙されて誘拐されてたんだから、そりゃそうなるのは仕方ねえけど……うーん……。


「ま、まあ取りあえず助けに行くか。ステラ、ほんとに怪我はねえよな?」

「ええ」


 さっきまで真っ赤になってたのが嘘みたいに、ステラは涼しい顔で俺の手から離れようとして――――失敗、した。ガク、と崩れて、地面に倒れそうになったのを咄嗟に支える。


「やっぱ怪我してんじゃねえか! 足か!?」

「す、すみません。大丈夫です、この程度。全く問題ありません」

「大丈夫じゃねえだろ、無理すんなって」


 俺はステラを腕に抱えて、近くのベンチに下ろした。

 脱出する時に捻ったのか? 痛そうにしている足に触れ、靴を脱がしたところで頭に強い衝撃が走る。


「ててっ、手当くらい自分でできますからっ!!!」

「お、おう、悪い!」

「優しさには感謝していますがあっち向いててください!!」


 また真っ赤になったステラにぶんぶん頷き、跪いたまま体の向きを急いで百八十度変えた。


「騎士サマってデリカシーないよね~」

「わ、悪い……怪我が心配で……」


 失敗したし思い出した。真っ赤な顔見てると、さっき告白された言葉がぐわんぐわん頭の中で木霊する。そうなるとほんと自分でも情けねえくらい目の前のことに集中できねえ。だめだだめだと頭を振って、一旦さっきのことを頭の片隅に追いやる。

 レインはそんな俺の頭にぽすんと手を置いた。


「でどうすんのあれ。取りあえずもっと炎上するように薪でもくべた方がいい?」

「レイン、あのさ、何を言われても俺はやっぱり――――」


 その時、炎上した馬車の近くで、小さな影がむくりと起き上がった。街の人もそれに気づいて、慌てた様子で影に駆け寄る。


「…………よくも」

「おい嬢ちゃん大丈夫か!? 早く手当しないと――――」

「煩い私に触れないで!! 穢らわしい!!」

「えっ……だけど嬢ちゃん……」

「煩いって言ってんでしょ!? 小汚いゴミはあっち行ってて!!」


 きゃんきゃん甲高い声だった。街の人の手を払いのけながら馬車から逃げるように離れた彼女は、キッと俺たちを睨んだ。

 リリー・ハント男爵令嬢……だと思うけど、まるで別人だ。

 頭のてっぺんから足のつま先まで、煤で真っ黒。ドレスはボロボロだし髪はチリチリだし、さすがに可哀想になってくる。彼女はゴホゴホ苦しそうに咳き込んだ後、「もう最悪!」と枯れた声で叫んだ。


「あっはっは!! いい気味だねえ女王サマ!」

「!! ソルっ……あんた……!!」

「あなたにはその格好がお似合いですよ。そのまま息の根を止めてあげましょう」


 レイン、その顔はだめだって。怖いって。これじゃどっちが悪役かわからねえって。

 どっからどう見ても、レインがちっこい女の子を虐めてるようにしか見えねえ。


「取りあえず、なあ、どっちも冷静に――――……」

「この穢らわしいドブネズミ!!」

「キヒヒッ、褒め言葉として受け取っておきますよ燃えカス女王サマ」

「誰が――――――!!」


 激昂した令嬢が今にもレインに掴みかかろうとした、その途端レインも懐からナイフを取りだして切りかかろうとしてああこりゃレインが一発であの子殺しちまうって間に入ろうとしたその時――――……



 ザッバアアアアア!!!



 バケツをひっくり返したみたいな大量の水が降り注いだ。……男爵令嬢の、頭上に向けて。

 びしょ濡れになった彼女は、水を滴らせながらぷるぷる震えている。俺たちも彼女も、何が起きたのかすぐにはわからなかった。


「な、に……」

「? 燃えてるように見えたが違ったか。悪かったな。怪我はねえか?」


 聞き慣れた声が空から掛けられる。見上げると、空っぽのバケツを手に背中から翼を生やしたアランが、悠然と俺たちを見下ろしていた。


「アラン!? どうして――――」

「お前こそどうしてこんなとこにいんだ? ったく、心配かけさせやがって」


 アランはステラやレインの姿を見て、ほっとしたように笑みを浮かべた。


「ルベルから連絡があってな。一応ステラの後を追ってほしいって。つっても聞いてた店の周りにはいねえし馬車も見当たらねえし、どこにいるかわかんねえから目星つけて捜してたら、赤い煙が見えて飛んできた。なんでこんな通りにいんだよ」

「ゼファ様もいるのか?」

「あの坊ちゃんはわかんねえ。俺に翼つけた後どっか消えた。元々お前と医者を探してるとこに出くわしてつけてもらってたからな、これ」


「ちょっと!! 人に水ぶっかけといて何暢気に喋ってんのよ!? あんた頭おかしいんじゃない!?」


「お前ら怪我はねえのか」

「ステラが足捻って……あとレインの背中が――――」

「ああ大丈夫大丈夫。私は別に怪我とか全然してな…………ちょっと! 背後に回らないでよ!」

「また強がりかばか医者。見事に怪我してんじゃねえか。おら、さっさとお嬢のとこに――――」


「だから無視すんなって言ってんでしょうがぁ!!!」


 令嬢の渾身の怒鳴り声を受けて、アランはようやく彼女の方へ顔を向けた。

 バケツの水でだいぶ煤の落ちた彼女を見て、「悪かったって言ってんだろ。ま、そこまで怒鳴れるなら大丈夫だな」と笑った。


「何笑って――――!!」

「取りあえず消火するわ。この嬢ちゃんのことは任せた。お嬢への連絡はこれでも使え」

「ちょっと!!!」


 ぽいっと俺に何か放り投げたアランは、令嬢を無視してあっという間に馬車の方へ飛んでいった。アランの態度がよっぽど苛ついたのか、令嬢はその背中に向けてきゃんきゃん文句を言っている。……多分アランの事だから、大体の事は察してんじゃねえかな。だから令嬢にもあんな態度なんだと思う。普段のあいつは子どもに優しいから。

 俺は手のひらの中のものを確認した。アランが放り投げていったのは作り物の鳩だった。

 確か、高速伝書鳩……だったっけ? サクラの発明品。伝書鳩よりよっぽど早く連絡が取り合えるもので、多分ルベルからアランへの連絡ってのもこれを使ったんだろうなって思う。



 怒りでぷるぷる震える令嬢を見て、どうすんのが正解なんだって頭を捻る。

 ちょっとでも油断したらレインは令嬢をグサッと刺しちまうだろうし、レインにばっかり集中してたらあの令嬢がまた何かやらかすかもしれねえし……爆弾とか銃とか、何を持っててもおかしくない。取りあえず身柄の拘束か。騒ぎを聞きつけて騎士も駆けつけてきたから、彼らに任せるか? でもなあ……。

 とにかく、ステラもレインも、ちゃんと手当を受けなきゃな。

 ルーク様への伝言をぱぱっと書いて、鳩にセットした時だった。



 炎上していた馬車が、一気に凍り漬けになった。

 火が消えたんじゃない。一瞬で、氷に覆われたんだ。



「え……?」

「探したぞ、リリー・ハント……!!」



 ぞっとするような冷気を漂わせながら現れたのは、怒りに燃えた氷の公子だった。


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