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炎に焦がれる小さな星は⑫





 ――――――――――

 ――――――――――――――――



 朝が、来るはずだった。いつも通りの。



「――――――――カノンさんが、いない? どこにも?」

「ああ、夜中に突然、少し体を動かすと外に出たきり、まだ帰って来ていない」



 ルベルさんは眉間に皺を寄せて、苦しそうな表情で俯いた。

 食堂へ降りる直前のことだった。ルベルさんに呼び止められて聞かされた言葉は、私を心の底から冷たくさせた。カノンさんが、何も言わず朝になっても帰って来ないなんて、そんなこと今までなかった。



「医者もいねえ」

「!! アランさん……」

「カノンを追いかけてってそれきりだ。帰って来ねえから探しにいったが……代わりに、とんでもねえ墓荒らしに遭った墓地を見つけた」

「墓、荒らし……?」

「墓が破壊され尽くしてた。爆弾でも使ったみたいにな……。罰当たりな野郎もいたもんだ。犯人は見つかってねえとさ」


 そんな音はここまでは聞こえてこなかった。随分遠い場所で起きたなら、カノンさんたちが巻き込まれた可能性は低いと見ていいかもしれない。…………いえ、でも、本当に? カノンさんがいなくなった晩、爆発騒ぎが起きた。犯人もいない。巻き込まれた可能性は決して低くはない。


「ま、二人一緒なら問題ねえだろ。あいつらはそう簡単にやられるタマじゃねえよ」


 私とルベルさんがよっぽど酷い顔をしていたのか、アランさんは安心させるようにそう言うと、ルベルさんの肩を軽く叩いた。


「シリウスと交代で捜してる。あいつの鼻がありゃあそのうち見つかる。アグニもいるしな。大丈夫だ」

「ああ、……そう、だな」

「ステラも。そんな心配しなくても何とかやってるだろ、あいつらなら」

「……ええ。そう、ですね」

「さてと、お嬢には何て話すか……。医者の野郎は、あいつにだけは絶対話すなっつってたがな」

「それは…………こうなることがわかっていたということか!?」

「かもな」


 ちょうどその時、ルーク様がひょいっと顔を出した。


「皆集まってどうした? 何かあったか?」

「………………いえ」


 ルベルさんは一瞬の躊躇いの後、何でもないというように首を横に振った。

 その口元には、静かな笑みが浮かんでいる。


「今日の朝食は何かなと話していたところです」

「え、ちょうしょ……朝食? 三人で、朝食の話……?」

「ええ」

「へえ…………ええ…………何か意外だな。朝食がそんなに気になるタイプだったっけ?」

「ええ、俺は朝食にバナナがないと許せない派なんです」

「えっ、初耳っ……」


 話した方がいいのではないかとも思ったけれど、ルベルさんが咄嗟に言うのをやめたのにはそれなりの理由があるのだろうとも思えば、何も言えなかった。

 きっと、ルーク様は二人を見つけるためなら何でもする。どんな危ないことも躊躇わない。――――ルベルさんは、それを危惧しているのかもしれなかった。


「何か……大丈夫か? 顔色悪いみたいだけど」

「バナナがないと聞いて落胆しているところです」

「そっか……そんなにバナナ好きだったのか……?」


 ルーク様がルベルさんの肩をぽんぽんと叩く。「大丈夫、ここの朝食は美味しいから。元気出せって」そう言いながら、二人で食堂へ降りていった。



「……大丈夫かあれ」

「さあ……」

「言うべきだった、とは思うがな。まあ、あいつがそう判断したならそれに従うか。医者がそれを望んだっつーことは、狙われてんのはお嬢かもしれねえし。……俺は捜索に向かう。何かあったらすぐ連絡するから、お嬢のこと頼んだぞ」

「はい……」


 アランさんは窓から外へ軽やかに飛び降りていった。もう何度も思ったことだけど、本当に身軽な人だなと思う。……少し、羨ましい。アランさんはどんな場所にだって、一人で向かっていける強さがある。

 私には、ない。こんなに心配なのに、居ても立ってもいられないのに、私一人じゃどうすることもできない。昔フレア様がいなくなってしまった時もそう。私は、ただ待っていることしかできなかった。

 カノンさんもルベルさんも、シリウスちゃんも…………それに、サクラさんだって、フレア様を助けるために、果敢に戦場に旅立っていったのに。




『ステラ、ルーク様の傍にいてくれるか。――――俺はもうしばらくここにいる。他の飲み物にも何か混ぜられているかもしれないし。……気になることがあるから』


 ティーパーティーのあの時、カノンさんは一体何を気に掛けていたのか……結局、聞けなかったけれど、むりやりにでも話してもらうべきだった? そうすれば何か違っていたのかしら?

 カノンさんはすぐ無茶をする。一人で突っ走って、怪我ばかりしてしまう。それがわかっていたのに、どうして私は何もできなかったの? どうしてこんな意気地なしなの? どうして――――――……



 パンッ!!!



 思考がぐるぐるとぐろを巻き始めたところで、自分の両頬を勢いよく叩いた。

 過去を悔いていたって何も始まらない。今は、とにかく二人を捜すことに集中しなければ。


 考えられるのは、あのティーパーティーの参加者の誰かが、カノンさんを呼び出したということ。そして爆破事件に巻き込まれた。

 カノンさんはあれだけ人気者でいらっしゃった訳だから、誰が呼び出していても不思議じゃない。クリスタ様と一緒にあの場を離れた時、お一人だった時に何か言われたというのが一番可能性としては高いと思うけれど…………カノンさんが呼び出しを断り切れなくて、かつ爆発騒ぎなんてあんな大それたことをできる資産と権力の持ち主と言えば…………





「…………アレクシア殿下」





 確か彼女は、カノンさんの事もレインさんの事も気に入っていた。






 ――――――――――

 ――――――――――――――――



「あ~あ、ほんと嫌になっちゃう! 折角ティーパーティーを準備してあげたのに、クリスタのせいであ~んなことになるんだもの! しかもレオンの奴、私がやったんだとか思ってるみたいだし……ああほんと腹立つ!」

「この茶美味いな! どこの?」

「あんた全然聞いてないわね!?」



 アレクシア殿下の宮殿、その一角。彼女の所に行くと、そう言ったのはルーク様だった。

 殿下が犯人である可能性が一番高い今、ここに来ることは正直賛成できなかった。でも、ルベルさんとも話し合った結果、私と彼が同行することに。ジーク殿下はアランさんやシリウスちゃんたちと一緒に捜索の方に回っている。彼がいると、アレクシア殿下は緊張してあまり喋らなくなる。そう思ったから。


 ルーク様がどうしてアレクシア殿下と話したいと思ったのかはわからない。「昨日はあんまりお茶を楽しめなかったから」と言っていたけれど、多分クリスタ様の事件があったからその真相を彼なりに確かめたいんじゃないかと思う。



「はあ、ほんとどいつもこいつも……」

「勉強はどんな感じ? 大変?」

「大変よ! 全く、急に王位継承権を譲られたってこっちは困るわよ! 大体今まで期待もしてこなかったくせに、周りの奴らも――――」


 アレクシア殿下は不満をペラペラ捲し立てて、ルーク様は「うんうん」とお茶を飲みながらそれを聞いている。

 何か隠しているような、そんな雰囲気はどこにもなかった。いくら注意深く観察しても。

 しばらく好きなだけ喋った後、アレクシア殿下は「そう言えば」とルベルさんの方へ顔を向けた。


「ねえ、あいつは?」

「あいつ?」

「ほら、赤髪の。……あいつは、いないわけ」


 彼女の方からその事を口にするとは思わなかった。

 頬を膨らませて「あいつよ、あいつだってば」と頬を膨らませて急かす彼女に、ルーク様が「カノンなら何か用事があるんだって」と、ルベルさんが伝えていた曖昧な理由を口にする。


「ふうん……。何、用事って」

「さあ? ルベルも聞いてないんだよな?」

「ええ」


 アレクシア殿下は「つまんないの」とますます頬を膨らませて、ぐびっとお茶を喉に流し込んだ。

 チラッとルベルさんを見ると、彼は小さく首を横に振った。


 彼女は、多分関わっていない。

 クリスタ様の事件に関してはわからないけれど、カノンさんたちの事は把握していない。




 じゃあ、誰が?

 あのパーティーの参加者を全員洗い出すには、いっそアレクシア殿下に協力を仰いだ方がいいのか、でもクリスタ様の事件に関わっている可能性が捨てきれない危ない人を協力者にしてしまっていいのか、それとも――――……




 いろんな方法を頭の中で挙げては削除していた、その時、




「あいつ、恋人でもできたわけ?」




 何気なく放り込まれた爆弾に、思わず体が固まった。


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