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397 遊ぶ

乱蔵が必死でお菓子を量産している一方、当のほむらはのびのびと朝を迎えていた。




「おっはようおじさん!!」



 朝が来た。どんよりした曇り空だ!

 別の屋敷に移動した後は結局ほとんど寝なかったけど、俺はその前に充分寝てるから元気いっぱいだった。あまりに暇だから屋敷の中を探索して出来る限り掃除して偶然見つけた服を洗って干しまくったけど、それでもまだ元気いっぱいだ。



「おじさん朝だぜ~、朝、朝……あれ?」

「………………」


 おじさんの部屋の扉を開けて中を見ると、おじさんはまだ寝ているみたいだった。壁に背中を預けて項垂れている。

 多分昨日相当疲れちゃったんだろう。朝の分のパンも昨日俺が食べちゃってないはずだし、それなら俺が食料調達して、おじさんに食わせてやらなきゃな。きっと喜ぶぞ~。




 俺は外に出た。

 ちゃんと顔も髪も布で隠してる。

 ウキウキしながら人通りの多い街に向かうと、早速子ども達に囲まれた。



「頭に布ぐるぐる巻き……変なのー」

「変なのー」

「怪我してるの?」

「痛いの?」

「旅の人?」

「面白いことする人?」



 わあ……す、すっげええ……。

 この街の子たち、皆色とりどりの髪の色をしてる。目の色も肌の色も、ほんとにいろいろだ! 黒もいれば茶色、橙、黄色、青…………俺のいた世界とは全然違う!


 昨日は青髪の美人さんに出会ってビックリしたけど、どうやらここではそんなに驚くようなことじゃないらしい。こんなにいろんな色があったら、俺の金の髪も青い目も、鬼って呼ばれる程気持ちの悪いものじゃないかもしれない。



「すごいなあ……。生まれるならこんな場所がよかったな……」



 思わずぼそっと呟いていた。

 もしこの世界に生まれたら、俺はどんな人生を歩むことになったんだろう? 想像もつかないな。この世界に生まれたら、俺は父親にも母親にも愛されていたのかな?


 でも、そしたら先生にも心桜にも会えないってことだ。刀士郎や……あいつにも会えない。それはすごく寂しいことで、それこそ想像もつかないことで……だから、やっぱり俺はあの国に生まれてよかったんだと思う。



「ねえねえ、何か面白いことしないの?」


 幼い男の子に袖を引っ張られる。

 期待に満ちたその顔を見て、ぴん、と良いことを思いついた。


「そうだ! 俺は面白いことする人だぞ! でもタダじゃない。美味しいパンかお金。それを持ってるなら面白~いものを見せてあげよう!」

「えっ……」

「うーん……持ってない」

「僕も……」


 子どもたちは顔を見せ合って、しょぼん、と肩を落とした。

 何か可哀想なことしたかな?

 お金はいいからちょっとくらい何かやってあげようかな。


 そう思った時だった。一人の子が、パッと顔を上げてキラキラした目を俺に向けたんだ。


「持ってないけど、ある場所なら知ってるよ!」

「ん? ある場所?」

「その場所教えてあげる! あのね、無料でパンが貰えるんだよ! おうじさまが配ってるんだって!」

「え? 無料でパン?」

「ほんとだよ! さっき貰ったもん。その場所教えてあげるから、面白いことやって!」


 無料でパンが貰えるなんてちょっと信じられないけど、この顔は嘘を言っているようには見えない。

 俺は大きく頷いた。


「よおし、いいぞ! じゃ、後でちゃんと教えてくれよ?」


 俺はその場で勢いよく逆立ちした。指一本でぴょんぴょん跳ねると、「うわあああ!」「すごい!」とまずまずの反応。

 今度はバク転しながら壁の方へ。おーっと歓声を聞きながら、そのまま調子に乗って壁を駆け上がり、戸建ての屋根まで上ってそこから地面に飛び降りた。



「あっ、あぶな――――」

「ほいっとぉ!」



 パッと鮮やかに着地をきめれば、子どもたちは「すご~~い!」と興奮した様子で手を叩いて喜んだ。へへっ、これはなかなか気分が良いな。



「一緒に飛び回るか?」

「え?」

「俺が肩車してやるからさ。きっと楽しいぞ~」

「やる!」

「よおし任せろ!」


 男の子を肩車して、壁を駆け上がったり屋根を飛び回ったりぶんぶん振り回すと、「わあああああ!」と歓声を上げた。「すごいすごい! うわっ、たか~~い!」良い反応に気を良くして一人一人と遊んでいると――――……





「あの、昨日僕に声を掛けてくれた人ですよね?」



 突然、赤い服の兵士さんに声を掛けられた。

 女の子みたいにパッツンと切り揃えた短い黒髪に、くりくりした真っ黒な目の兵士さん。

 怒られるかなってビクついたけど、兵士さんはにこやかな笑顔だった。


「昨日はありがとうございます! あのお婆さんも一命を取り留めて、随分回復しましたよ」


 お婆さん、お婆さん……。

 ああ! 俺が道で拾ったお婆さんか! そうだ、この兵士さん、昨日突然苦しみ出したお婆さんを引き取ってくれた兵士さんだ! 俺の頭の布を「斬新なファッションですね」って褒めてくれた!


「ああ~~! よかったよかった。急に苦しみ始めたから焦って……。えっと、あんな時間に頼んじゃってすみませんでした。ありがとうございます」

「いえいえ、困っている人を助けるのが騎士の役目ですから!」


 おお……おじさんは、「兵士は皆ヤバい」みたいに言ってたけど、この人はすごく丁寧で良い人だよな。

 真っ黒な目に光がないのがちょっと怖いけど、見ず知らずの俺の頼みを聞いてお婆さんの面倒を見てくれたんだから、どう考えてもすごく良い人だ。



「あ、そうだ。人を捜してるんですけど」

「人?」


 兵士さんはごそごそとポケットを探った。


「ええ、確か似顔絵がここに……。フレア・ローズ・イグニス公爵令嬢という方なんですが」

「ふれあろーずいぐにすこうしゃく……?」


 ふれあ…………。

 あれ? 何かどっかで聞いたことがあるようなないような……。どこだっけ?

 思い出そうとうんうん頭を捻ったけど、全然出てこない。


「どんな人です……?」

「えっとそうですね……金髪碧眼で、背は貴方くらいあって、年は15歳くらいです。ストールをこう、たっぷり優雅に巻いてるらしいですよ。すごくお美しいご令嬢です」

「へえ、綺麗なお嬢さんかー……何があったんですか? 家出?」

「誘拐です。僕が尊敬する人でもあるので、早く保護したいのですが……あ、これ俺が描いた似顔絵です。参考になると思うんで!」

「…………!!!」



 そう言って手渡されたのは、輪郭がぐちゃぐちゃになった顔っぽいものに巨大な目っぽいものが描かれて口っぽいものが頬っぽいところについてて鼻っぽいものが飛び出た、何かよくわからない独創的な絵だった。

 全然わからない。て言うかこれ人間なのか……。

 綺麗かどうかはよくわからないけど、この世界ではこれが美しいってやつなのか? いやただ単にこの人の絵がもの凄くへた……いや、独創的なだけ、だよな? もし本当にこんな人がいて見つけたら俺、多分叫び声上げちまうと思うんだけど……。



「わ、わかった……。もし見つけたら教え、ます!」

「ありがとうございます! ご協力よろしくお願いします!」


 勢いよく頭を下げられてビックリした。

 ……すごいな。俺なんかに頭を下げる兵士さんなんて、この世界にはこんなに凄い人がいるんだな。


「あのー……」

「はい?」

「あの、貴方の名前は……? も、もし見つけたら、あなたに知らせたいなあと思って……その……」


 他の兵士さんはちょっと怖いし。

 昨夜は無我夢中で声を掛けられたけど、お婆さんの命がかかってなかったら、自分から兵士に声を掛けるなんて多分できなかった気がするんだよな。


 兵士さんは、にこっと笑みを浮かべたまま胸を張った。


「僕はネイサン・キニスです。第一騎士団七番隊隊長を務めています!」

「騎士団? 隊長? へえ、何かカッコイイ……」


 聞き慣れない単語がいっぱいでてきて面食らう。

 でも、そうか、ねいさんさんか……ねいさんさん……ねいさん…………もうねえさんでいいかな。お、これなら覚えられそう。


「勿論カッコイイですよ。なんせイグニスの騎士ですからね!」

「イグニス……?」

「ええ! じゃ、もしさっきの方を見かけたら教えて下さい! よろしくお願いします!」

「あ、はい」


 ねえさんは忙しいのか、風のように去って行った。

 俺はもう一度、彼に渡された似顔絵に視線を落とした。……うーん、ねえさんには悪いけど、ふれあさん? にはちょっと会いたくないかな。



「お兄ちゃん! ねえ! びゅーんってやって! びゅーんって!」


 子どもたちが待ちくたびれたように手を伸ばした。

 俺のこと男だって勘違いしてるみたいだ。まあこの喋り方じゃ仕方ねえし、顔も布ぐるぐる巻きだからな。いや、顔が見えたところで俺が女だとは思わないか。訂正するのも面倒くせえからやるつもりはない。



「おーおー、でもごめんな。そろそろ帰らねえと。無料のパンを貰って、おじさんに持っていってやらなきゃだからさ」

「え~! まだ遊びたい!」

「遊びたい!」

「ねえねえ、もっと面白いことやって!」

「え~? う~ん…………じゃあ……」



 俺が提案すると、子どもたちは顔を輝かせて頷いた。



――――――――

――――――――――――――



 それから数十分後……



「ここは託児所ではない!!!」



 おじさんの怒鳴り声が屋敷に響いた。


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