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390 【ジーク】 言い聞かせる



――――――――

――――――――――――




 …………夜が、明けた。



 長い夜が、ようやく。



 カイウス・ファートゥム第一皇子は帝都を掌握した。

 自警団とアカツキ王国の騎士たちは、皇帝配下の兵士たちを制圧。

 それを受けて、皇帝派の貴族もあっさり皇帝を裏切り、第一皇子側についた。



 ノア・ファートゥム第二皇子が宰相始め有力者を周到に買収――もとい味方につけていたこと、あのサピエンティア侯爵が皇帝廃位に名乗りを上げたこと、自警団で押収した貴族間の手紙のやり取り、そこから弱みを握ったいくつかの有力貴族もむりやりこちら側に引き込めたこと……それらがもたらした効果も大きかっただろう。



 むしろ、あの状況で皇帝の味方を続けることの方が困難だったと思われる。

 そもそも皇帝の政治に疑問や恨みを抱く者は多かった。

 皇帝の側に立って甘い蜜を吸っていた輩もいたにはいたが、そんな輩が自己の保身より皇帝を優先する訳がない。



 アカツキ王国国境付近での戦闘も、アカツキ側が圧勝し静かに幕を閉じた。


 騎士団だけじゃない。リアン・マギーア王子率いるタソガレ王国……そして、ナギの民。

 女王の呼びかけて急遽集まった彼らが、力を貸してくれた。

 特にナギの民の族長率いる騎馬隊の戦い方は凄まじかったらしい。

 久しぶりに王国に帰っていたレイラ・セダム・ヴェントゥス……ヴェントゥス公爵とゼファの叔母にあたり、しょっちゅうあちこちを旅して落ち着くことのない竜巻の特殊能力者――――彼女との連携も奇跡的に見事だったとか。


 皇帝側の兵士たちはほとんどが捕虜となり、現在は一旦砂の地に移送、尋問を受けている。



 カイウスは帝都全土、そして同盟国に向けて通達を発令。

 シノノメ帝国が喧嘩を売っていたのは、何もアカツキ王国だけじゃない。いくつかの国へ進軍中だった。


 それを止め、ヴェントゥス公爵の力を借りて飛び回り、会談、停戦、和解――――……場合によっては賠償金を支払うことになったが、国庫ではなくカイウスのポケットマネーから出したらしい。兄さんも少し出したと言うが……あの兄弟はどうやってあそこまでの資産を増やしたんだ?


 聖騎士の力があったからこそ為せたことではあるが、カイウスの行動はとにかく早かった。

 諸外国にも貴族たちにも、皇帝につくか皇子につくか、まともに考える隙を与えなかった。

 もう長い間この日のために準備していたのではないかと思える程、カイウスと兄さんの連携プレーは見事なものだった。



 そしてその成果は早い段階で現れていた。

 皇帝を皇宮から追い出す。こんな大それたことをしたにも関わらず、街は急速に平穏を取り戻しつつあったのだから。



 騒動で破壊された建物はアカツキからも援助し――――僕のせいでボロボロになった例の酒屋は僕の財布から金を出し――――修復が始められていた。




「………………」



 僕はカイウスから提供された皇宮の一室で、静かに息を吐いた。



 上々、だろう。

 帝国は変わろうとしている。まずは帝都から。

 周辺の街や村が変わっていくにはもう少しかかるだろうが、カイウスならばきっと問題ない。

 これだけの行動力と人脈と、人を動かすカリスマ性を持ち、商才にも長けている。




 ただ、一つ大きすぎる問題が残っている。






 皇帝が逃走中だと言うこと。

 そして、フレアも……見つかっていない。






『申し訳……ありません。俺は……俺は、あの人を守れなかった…………。誓いを、立てたのにッ……!! 俺は……!!!』



 カノンはシリウスに治療されながら、ずっと己を責め立てていた。


 報告を受けたイグニス公爵は怒り狂い、サピエンティア侯爵は青ざめ、ローガンは怒りのあまり壁を叩き割っていた。


 そして、カイウスは…………






 何も、言わなかった。






 現状、皇帝に味方する者はいない。

 貴族にも諸外国の有力者にも、皇帝に味方して不利益を被るなんてことは誰もが避けるはずだし、あの皇帝はそれほどの人望もない。あいつはまさしく孤立無援だ。

 捕まえるのも時間の問題だろう。


 だが、今は一分一秒が惜しい。

 フレアがあの皇帝と行動を共にしていると、考えただけで気が狂いそうになる。毒ガスの件もある。一刻も早く彼女を救出しなければ、本当に取り返しのつかないことになるんじゃないか、と……不安で吐きそうだ。


 カイウスにとっても、早く奴を捕まえて正式な皇帝廃位の手続きも進めなければ、いつまで経っても正式な皇帝とは認められない。

 実質的には現時点でカイウスが皇帝のようなものだが、一応手続きというものを踏まねばならない。それを無視して皇帝を名乗っても、人民や諸外国が納得しないだろう。



 皇帝には懸賞金もつけられた。だが、未だ何の情報も得られていない。




「殿下、女王陛下から、一度ヴェントゥス公爵と一緒に王宮に戻るようにと。同盟の締結について――――……。殿下、やはり少し休まれては?」


 部屋に入ってきたエイトが、不安げに僕を見つめた。


「休むと言うなら、お前の方が少し休んだらどうだ?」

「いえ、自分は……」

「ここに来た時のあの取り乱しようはすごかったぞ。不安になった」

「う……た、大変申し訳ありません」


 まあ、一番情緒が不安定だったのは、僕とはぐれた後に再会した時だったが。

 エイトが忘れな人の失敗作と戦い、その間に僕はその場を離れ、皇帝と兄さんに遭遇した。

 傍を勝手に離れたのは僕だし、あれはどう考えても僕が悪いのに、エイトは自害でもしそうな勢いで謝ってきた。「お傍を離れて申し訳ございません、かくなる上は……」と。正直かなり焦った。



 その時、またドアがノックされた。



「誰だ」

「ルカ・ローズ・イグニスです。殿下にご報告――――」

「入れ」

「殿下!! 失礼します!!!」


 なぜか一番に入ってきたのはルカではなくレオンだった。

 ルカはその後ろから、困った顔で「失礼します」と中に入る。


 二人はあの夜、ヴェントゥス公爵の力で誰よりも早く皇宮に到着し、カイウスを守りながらあの場所を制圧した。

 圧倒的な二人の力を前にして、皇宮の兵士は早々に戦意を喪失したらしい。

 その後も夜が明けるまで、二人は皇宮を守り続けた。


 

 レオンは勢いよく僕の前に来ると、「アクア家の騎士を数名、派遣させてください!」と頭を下げた。



「優秀な人材が大勢います。王都の方では混乱はないと聞きますし、それならこちらに回したい。人手はいくらあっても足りないはずです。イグニス家の者にだけ任せる訳にはいかないですから」

「カイウス殿から許可があれば問題ない」

「ありがとうございます! では――――」


 レオンはまた飛ぶように外に出て行った。

 ……恐らく、焦っているのだろう。フレアのことだけじゃない。

 皇宮に囚われていた人々は解放された。なのにそこにルークの姿はなかった。もちろん当然の話ではあるが、レオンはルークの正体を知らない。かと言って、今あいつの正体を明かしたとて、その気持ちを払拭させてやることもできない。



「……ルカ。用は何だ」



 疲れた顔のルカが、「すみません」と苦笑いを浮かべた。



「フレアのことで……」

「! 進展があったか!?」

「いくつかそれらしい目撃情報が得られました。貧民地区の方で怪しげな男を見たと。どこまで信憑性があるかはわかりませんが、シリウスが、匂いが途切れていると言った場所に近いです。目撃証言があった場所からその周辺を聞き込みしていますが、今のところ成果はありません。そこで、誰も使っていないと思われる屋敷やアパートもしらみつぶしに調べていきたく、殿下のご許可と、カイウス様のご許可、ご協力を得たいと思って参上した次第です」

「許可する。今すぐカイウス殿の元へ行ってくれ」



 ルカは頭を下げ、レオンと同じように部屋を出て行こうとして、ふと足を止めた。

 ゆっくりと、僕の方を振り返る。



「ルークさんは……どういう、御方ですか?」



 不安そうな顔だった。



「大丈夫、でしょうか? 皇帝に……唆されていたと……」

「…………大丈夫だ。何も問題ない。ルークは、絶対に悪いことに力を使う人間じゃない。強い意志を持った奴だ。何があったって、大体切り抜けられる。問題ない、絶対に」



 自分に言い聞かせるように、必死で口を動かした。



 ルークの、最期については考えない。

 いつも飄々として、大抵のことには動じない図太さがあるのに、ふとした時に折れてしまう。自分で自分を追い詰めてしまう。……そういう繊細なところが、あいつの中には確かにある。


 本当は…………恐ろしい。

 兄さんの毒よりもっと恐ろしいものが、あいつを蝕んではいないかと。




「……大丈夫。大丈夫だ、絶対に」



 ルカは、僕の言葉に、ふっと目を細めた。



「よかった。それが聞きたかったんです」



 泣きそうな顔で微笑み、もう一度頭を下げて、部屋を出て行った。



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