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39 脅す


 あーーーーーーーなんであいつがここに……!!!


 謎の男がまさかあいつだとは思わないでしょ!?

 まさか、まさか……



 前世で一緒に旅してた男だなんて!!



 私のことをババア呼ばわりしてたあの男との間にろくな思い出なんてない。あいつの風貌のせいで行く先々の村で怖がられたり、目つき悪いからすぐ変なのに絡まれるし絡むしでしょっちゅう面倒事に巻き込まれた。

 死んで離ればなれになれたと思ったのになんでまた出会っちゃうのよ!!!

 ていうかまた気持ち悪い糸吐いてたし。あの様子だと火吐いたり釘吐いたりできるんでしょうねどうせ……。髪は黒いけど見た目も昔とさして変わってないし、一体どうなってるのよこの世界は……まさかと思って目を合わせたら絶対こいつだってわかるあの感覚は何!? 向こうも私のお婆ちゃんの姿しか知らないはずなのに私だってわかったっぽいし、記憶があるみたいだしほんっっと嫌。またババアって言い始めるし……今は私の方がピチピチの年下よ!



 あいつが人身売買はあり得ない。それくらいにはあいつのことわかってる。シリウスたちが虐待を受けていたことと言い、バーバラが人身売買を行っているのはこれで確定した。崖崩落事件で発覚するよりずっと前から手を染めていたんでしょう。あれはそういうのに慣れている顔だったから。




 あいつと無駄な時間を過ごしてしまった後、私はイライラしながら殺気を追った。

 この町中だといつも以上に殺気がわかりにくい。あまり治安が良い場所じゃないし、そのせいもあっていろんな気が入り乱れてる。公爵邸の方がよほどわかりやすかった。しかも私が感じたのは孤児院からじゃなく、そこから離れた道の下だった。相当地下深く。黒々として禍々しい殺気が、地下から溢れている。血の臭いもした。目を閉じて、地面に体を押しつけて気配を感じ取る。







 ……複数の気配を感じる。気を失っている者もいるみたい。この感じ……ルベルとカノンもいるわね。それに、一番禍々しいのがバーバラ。異様に太った男と、屈強な男たちが数人。


 カノンが、怪我を負っている。


「……チッ」


 やっぱり任せるんじゃなかった。カノンはよほど酷い怪我を負ったと見える。ルベルの殺気が膨らんでいく。落ち着きなさいよ、と念じながら、私はゆっくり剣を構えた。




「私の従者を傷つけたこと……後悔させてあげる」



 鞘から剣を抜き、地面に向かって宙を切った。








 男たちが次々に倒れていく。悲鳴が聞こえてくるようだった。

 決して地面が斬れてる訳じゃない。地面には傷一つついていない。まあ、地面を直接斬ってる訳じゃないから当たり前なんだけど。ただ、この下にいる彼らにはしっかり届いたはず。


 刃の届かないものを斬る。

 斬ると決めたものだけを斬る。


 たとえそこに分厚い壁があろうと関係ない。壁の向こう側の物だって、壁には傷1つつけず斬ることができた。

 普通の理屈じゃ説明できない。離れていても、斬ろうと思ったものを斬れるなんて。そもそも刃の届かないものをどうして斬れるものか、世の理をまるっと無視した剣技だ。だけどできるのだから仕方がない。私の斬撃は特別らしい。さすがに地下深くなんて届くかどうか微妙なところだったけど。

 前世で剣術を習っていた頃、同じ門下でもこんなことができたのは私だけだった。……まあ、これが自在に使えるようになったのは私だってもう少し年を取ってからのことだけどね。

 剣が以前と違ってもあの頃のようにしっかり手に馴染むのは、エイトの鍛錬を引き受けたからかもしれないし、自分に合う物をと物色したおかげかもしれないし、ふつふつ沸き起こる静かな怒りのおかげかもしれなかった。いや、怒りに左右されるなんて愚か者の所業だからそこは認めないけれど。


 たっぷり斬撃をお見舞いしてあげたところで、ほとんどが孤児院でない方に走り出した気配を感じた。どうやら地下道はどこかに繋がっているらしい。

「逃がさないわよ……」

 そのまま彼らを追いかける。たどり着いたのは小さな教会だった。まさかこんなところを人身売買組織との繋がりに利用するなんてね。そりゃ誰も気づかないわ。こんな場所で犯罪の取引を行うなんて、それだけで十分不敬罪……王家への反逆とされてもおかしくない。なんせ王家は神の子孫、つまりここに祀られている唯一神は王家の祖先に当たるのだから。

 鍵を斬って中を開けた。これでもし私の勘違いであればしょっ引かれるのは私になるけど、今はジークに許可をもらっている暇はない。祭壇を抜けその裏に隠された地下へ続く扉を見つけるのも簡単だった。僅かに彼らの声も聞こえてきていたから。



「クソ……一体どうなって……」



 でっぷり太った男は貴族みたいだけど、私の記憶にはない。つまり大した身分の者じゃないってこと。伯爵以下の身分でしょうね。それに特に功績も何も無い。



「さて、私の可愛い下僕を虐めてくれたのはあなたたちかしら?」



 さっさと姿を見せて微笑み、彼らが返事をする前に斬りかかった。先ほどは容赦なく切り裂いたけれど、今回は意識を奪うためだから急所を打ち付ける。ものの数秒で全員の意識を奪うと、彼らの服を脱がしてそれで縛り付け転がした。出血の激しい者に関しては軽く応急処置をしてあげたから感謝してほしい。逃げられないように祭壇へ続く扉の前を塞いでから、地下道を通って孤児院へ急いだ。





 案の定、血まみれのバーバラが彼らを脅しているところだった。さっきこいつだけいなかったのよね。痛みのせいでまともな思考ができないのか、血唾を飛ばしながら醜く吠えている。



「――――――全員ぶち殺す、このガキどもを押しつけたお嬢様も、お前らも全員嬲り殺して……!!」







「お呼びかしら?」




 にこ、と微笑み、振り向きざまのバーバラの頬に張り手を食らわした。



「げふっ!!」

「あら、ごめんなさい。手が滑っちゃった」


 跪いた彼女のことは無視して、カノンとルベルに目を向ける。……カノンは意識を失ってる。早く処置しないとまずい。ここから見ただけでもかなり血を流したのは明らかだった。

 ルベルは驚きに目を見開いていた。

「フレア様……なぜ……」

「ちょっと嫌な予感がしたから来てみたら、ここまで酷いことになっているなんてね」

 私は屋敷で待機のはずだったから驚かせてしまった。前回のことがあるからひそかについてきてたんだけど、まさか前回より酷い結果になるとはね……。



 バーバラの背中を踵で思いきり踏みつけた。




「ぎっ」






「乱蔵」




 名前を呼ぶと、あいつが僅かに動揺したのがわかった。

「まずはカノンの手当をして。それから医者の場所へ連れて行って」

「フレア様!」ルベルが抗議の声を上げるけど「大丈夫だから」と返す。

「そいつには多少医学の心得がある。応急処置をしてから町医者のところへ運ばせた方がいい。ここには包帯や薬もあるから。場所は――」

「――すぐに取ってまいります」

 ルベルが駆け出した。もうすでに孤児院の中を完全に把握しているらしい。つくづく優秀な子よね。床に横たわったカノンの状態を見て、乱蔵は顔をしかめた。

「別に手当するのは構わねえけど、金はどうするんだ。医者は金のねえ奴は診もしないぞ。大体俺は嫌われてるから門前払いも――」

「聞かないなら無理矢理聞かせて。得意の糸でぐるぐる巻きにしてもいいから」

「……お前本気で言ってんのか」

「私が後でお金握らせれば黙るわよ。言っとくけど、今の私とあんたじゃ天と地以上に身分が違うから」

 嫌味たっぷりで言ってあげたら、あいつは案の定目を白黒させた。

「お前性格変わったな」

「いいからさっさとやって」

「へーへー」

「アランさん! ど、どういうことだよ!?」

 シリウスが驚いているけど、乱蔵は肩をすくめた。こいつ、アランって言う名前なのね、今は。

「取りあえずそこの死にかけのガキを助ける。職員は拘束済みだし、逃げる必要はなくなったから問題ない」

「け、けど――」

「それに、何とかしてくれるんだろ? お嬢様?」

 乱蔵はニヤつきながら私を見た。


 ……ムカつく。


「ええ、私を誰だと思ってるの?」

「クソババア」

「あ?」

「――ッの、田舎貴族風情が……!!! 黒幕はあんたね!? あんたが全部仕組んだんでしょ!! 私を敵に回したらどうなると――」騒ぎ始めたのはバーバラだった。ああ、うるさいわねえ。

「あら? そう言えばあなたには家名を伝えていなかったわね」

 顔を近づけて、にこっと微笑む。

「イグニス家ってご存じ?」

「は……?」

「四大公爵家の1つを田舎貴族呼ばわりなんて、本当に失礼な方よねえ」

「う、嘘……」

「私の名前はフレア・ローズ・イグニス。第一騎士団所属の聖騎士なの。名前くらいは聞いたことがあるかしら?」

 バーバラの顔がみるみる青ざめていくのを、じっくり楽しんであげた。

「よくも私の可愛い下僕2人を虐めてくれたわね? 見学に泊めただけでまさかこんなことになるなんて。おっそろしいわあ、バーバラってそんな裏の顔をお持ちだったのねえ?」

「ち、ちがっ……そのガキどもが勝手に孤児院の中を荒らして……それで……」

「いいえ、ルベルたちはトイレに起きただけ。たまたま見てはいけないものを見てしまって、それであなたにこんな目に遭わされてしまった。……それって、イグニス家に反逆の意志あり、てことでいいかしら」

「そんな……ことは……」

「あなたの悪事を一つ一つ明らかにすれば……命がいくらあっても足りないでしょうね?」

「ち、ちがいます!! 悪いのは全部ガキどもで――」




 髪を掴み、顔面を床に叩きつける。それからゆっくり顔を上げさせて、その耳元に囁いた。








「死ぬより酷い目に遭わされたくなかったら黙ってろ。てめえに残されたのはただ無様に命乞いする道だけなんだよ。それ以外のこと喋るんじゃねえ。わかったらその汚えお口を閉じて静かにしてな。くれぐれもてめえの立場を忘れんじゃねえぞ」








 最後ににこっと微笑んだ。



 ……おっと、つい口調が汚くなってしまったわ。まあいいか、相手がこれだし。

 バーバラは鼻血を流しながら固まっていた。よしよし、静かになったわね。

 ふと子供たちの方を見ると、完全に皆固まっていた。あら、私の囁きが聞こえてはないと思うけど、どうやらやっていることが悪役じみているせいで怖がらせてしまったみたい。

 と言っても気を遣っている暇は無い。やるべきことが、まだまだあるから。


 そう思ったのと、ステラが倒れたのはほとんど同時だった。


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