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23 肩を落とす


 誕生日にこんなにプレゼントをもらったのは初めてのことだった。

 多分この間のことがあるから気を遣ってくれたんでしょうね、ルカと奥様。2人からのプレゼントは正直まあまあ嬉しかったけど……ジーク殿下のは「嬉しい」より「何考えてんだ」ってのが先に来るから素直に喜べない。後で費用を請求……なんてことはしないと思うけど、ほんとあいつ何を考えているのかわからないのよ。


 農作業姿を大爆笑されたのは普通にムカついたし、正直会いたくない。今まで誕生日にプレゼントはおろか、会いに来ることさえしなかったくせに、今更なんなの? 一体何の思惑があってこんなことしてるんだか……。

 ま、この高級ドレスは一つの資産みたいなものだからありがたくいただくけどね。

 婚約破棄して地方に隠居する時、こういうのが少しでもあるだけで違うだろうから。公爵からお金を送ってもらってるから、畑だの節約だのしなくても普通に生きていけるくらいはあるけれど、できるだけ節制してコツコツ貯めて、隠居後の生活の足しにしようと思ってる。別に身一つで放り出されても生きていける自信はあるけど、お金はできるだけあった方がいい。

 人生、いつ何があるかわからないからね。

 

 

 そう言えばこの前、私だけ毎週の家庭教師をやめてその分浮いたお金が欲しいって手紙で伝えたらすごく怒られたっけ。奥様やルカも大反対で大変だった。はあ、どうせ王妃になんてならないんだから、教養は必要最低限でいいんだけど。勉強は昔っから苦手だわ。



「お嬢様、大変素敵でございます!」



 店員の甲高い声ではっと我に返る。

 

「よくお似合いですよ。このネックレスもドレスに大変似合っております!」


 鏡に映った自分をまじまじと見つめる。



 ……ふ~ん

 うん、なかなか良いんじゃない? やっぱり元が良いからね、どんなドレスも着こなしちゃうっていうか。……まあ、前世の頃の着物は悉く似合ってなかったけど。ドレスはなかなか良い感じじゃない。この派手な顔にはこういう服が似合うみたい。


 ドレス自体もけっこう気に入った。

 ジーク殿下からもらった、ていうのを除けば完璧。色も綺麗だし、デザインも可愛いし、宝石やら金の刺繍やらがなかなか豪華で私好みだ。

 奥様からもらったネックレスもすごく合ってる。屋敷に来てからは貴族の生活とはかけ離れた地味な生活続きだったから、たまにはこういうのも悪くない。


「ありがとう。これお礼ね」

「! あ、ありがとうございます!」


 代金はすでに払っていたけれど、お礼としていくらか渡した。店員は驚きながらも必死で頭を下げて喜んでくれた。今日は私の誕生日だから、特別よ。ちらっと見た感じ、ここの店のドレスは私好みだしね、これから購入することがあるかはわからないけれど、またここを使わせてもらおうかしら。


 いっそ、腕の良い店員を引き抜いちゃう……? いえ、給料を払えるだけの余裕はちょっとねー……別にない訳じゃないんだけど、必要なのってドレスを着せて貰う時くらいだし……意外にルベルが頑張ってくれてるから、わざわざ人を増やさなくてもなんとかなりそうなのよねー。

 いつもこんなドレスを着る訳じゃないしね。専用の侍女ってするなら、やっぱりそれ相応の待遇を考えないといけない。公爵家のメイドならある程度の教養も必要だし、ツテなしでそんな人材を探してくるのってすごく面倒くさいし、気が進まない。ただでさえ屋敷にいたときはメイドに酷いことばかりしていたから……。私の悪評って、メイド界隈にも広く広まってるのかしら? やれやれ……。


 めんどうだけど、こういうドレスを着る時はここに来ることにしましょう。結局それが経済的だもの。別に社交界に出る年齢でもないし、出たくもないし、侍女のことは今は考えなくて良いわ。

 


 待たせている場所に戻ると、なぜかカノンの姿だけなかった。


「フ、フレア、すごくその、似合ってる」


 ルカがお世辞を言ってくれるのはなんとなくわかってたけど、滅多に言われることでもないから良い気分。ま、今日は誕生日だしね! 素直に喜んでもバチは当たらないでしょ! 私、こう見えてまだ十一歳だから!


「ありがと! 可愛いでしょ!」


 素直を爆発させてみると、ルカはおっかなびっくり顔を赤くしてふらついた。……今日のルカはしょっちゅう顔を赤くしているけどもしかして起爆能力でも使ってるの? それとも私のことが好きとか? うん、それはないわね、私のことは可も無く不可も無くってとこでしょう。プレゼントをくれたとこを見ると、多分嫌われてはいないはず。

 くるっと体ごとルベルの方を向いて


「ルカみたいに照れてもいいのよ、ルベ――」


 そこまで言って思わず口をつぐんでしまった。



 なんであんたは体ごと向こう向いてんのよ。

 さっきまでこっち見てたでしょうが。何全力で壁の方向いてんのよ。そんなに見たくないの? 私の可愛い姿が痛いって? 前世の年齢足したら軽く九十越えのお婆ちゃんだけど可愛いドレスが恥ずかしいなんて一切思ってないわよ。可愛い格好万歳! 年齢で云々言いやがったらぶっ潰してやるから覚悟しなさい。



「……下僕からも何か一言くらいないわけ?」

「……ッ、い、いえ……似合ってると、思います……」



 こっちを見ていないくせに言われてもねえ……。


 よくよく見ると、髪の合間から見えた耳が真っ赤になっている。

 ……照れてるの? いやーまさかね……ルベルがそれはないか。

 もし照れてるなら年相応で案外可愛いとこもあるなって感じだけど。そう言えば私の裸見た時びっくりしてたっけ。湯気でほとんど隠れてたと思うけどね。え、もしかしてほんとに照れてるの? 俄には信じがたいんだけど。あ、コルセットの時もそう言えば……。案外女の子慣れしてないのかしら。おませさんだと思ってたけど、まあ十二歳だもんね。子供は子供か。私のことは大嫌いでしょうけど一応女の子だからちょっと照れてるのね。なるほど理解。



「まあいいや。ところでカノンは? どこに遊びに行ったの?」

「ああ、急に飛び出して。すぐ戻ってくるとは言っていたけど……けっこう経ったね」

「市場の方へ行ったようです。俺が探してきましょう」


 カノンが突然突拍子もないことをするのは珍しいことじゃない。

 でもだいぶ経つってことは何か面倒ごとに巻き込まれた可能性もあるかしら……。ほっといてもいいかと思ったけど、もしほんとに面倒ごとに巻き込まれてたらそれこそ厄介だ。彼は私の下僕だから、私の名前に傷が付く。


「私も行くわ。もう帰るだけだし」

「その格好で市場に?」

「長居する訳じゃないし。いつもの市場よね? 道幅もあるし大丈夫よ」

「では、そのように」


 それにいつも地味めのドレスだから、これを着てキラキラした目で見られるのも悪くないわ。

 可愛い格好をしているだけで気分も上がるし。


 市場まではそんなにかからなかった。馬車から降りて石畳の上を歩けば、あっちこっちから視線を感じる。ふふん、と得意になって視線の方へ顔を向ければ、皆さっと顔を逸らした……。明らかに、面倒ごとに巻き込まれたくない、て顔になってる。……なんなのよ、一体。いつもならこんなにあからさまに視線を逸らされない。皆貴族が嫌いなの? 敵意すら感じるんだけど。何よ……いいじゃない、たまには自慢したって。一応公爵令嬢なんだから……。可愛いカッコに浮かれることだってあるわよ。






「ふざけんなよ!!!」




 怒号が響いた。ルベルの顔色がさっと変わり、「あのばか」と舌打ちする。顔を向けたけど姿は見えない。けっこう遠いところからみたいなのによく響くこと。向かえば、なんでそんなところまで行ったのって思うくらい奥まったところだった。けっこう貧困層の通りね。この格好でここは浮くこと浮くこと。


 カノンはうずくまる人影に向けて怒号を上げていた。事情は知らないけど、端から見ればカノンが貧民を虐めているようにしか見えない。


 ……こりゃ見事に揉め事を起こしてくれちゃって。

 あいつ、次やったらクビよ、クビ。

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