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21 【カノン】赤面する


 一目見た時からドンピシャだった。

 金色の髪も綺麗な顔も、誰もが憧れる発火能力っていうのも格好良い。何よりいつも堂々としていてはっきりと自分の意見を言うところに惹かれた。

 

 彼女の下僕になって二ヶ月近くが経とうとしていた。

 最初はポンコツだった俺も、最近は使用人の仕事が段々板に――



「カノン。埃が残ってた。隅々までちゃんと掃除しろ。雑なくせに時間もかかりすぎ。仕事舐めてんのかてめえ」



 ……ついてきたと思いたいんだけど。

 いつからか、いや最初からか? 姑みたいになったルベルにいびられながらもなんとかやっている。昔はここまで厳しくなかったと思うんだけどな。嫌だよ、こんな臣下。まあ、正直臣下とか思ったことないけど。だって友達だし。それにもう、俺は今下僕だし。


 初日になぜか凹んでいたルベルは、次の日から鬼のように仕事に取り組むようになっていた。覚えが早いしめちゃくちゃ気が回るし、やっぱりこいつは凄いと思う。フレア様もルベルのことは信頼してるのか、今となっては茶を淹れさせてるし。最初はちょっとピリピリ……ていうか、ルベルが一方的にフレア様に対抗しているというか……そういう感じがしたけれど、けっこう良い感じなんじゃないかと思う。一緒に暮らし始めて知ったけれど、フレア様はとてもお茶が好きらしい。そういうとこは女の子っぽくて可愛い。






 ただの憧れだった。

 でも、今は命の恩人でもある。彼女が俺とルベルを救ってくれたのは間違いない事実だと思ってる。ルベルが、あいつが俺の代わりに砂の地に送られなくて本当に良かった。めちゃくちゃ良かった。どうすればいいかわからなくて言葉を失った俺の代わりに、フレア様が声を上げてくれなければ、俺は一生後悔してた。

 ……嫌だよ、友達の人生を踏み潰して成り立つ幸せなんて。

 大切な奴を守れないのに騎士になったって、きっと何も守れない。

 

 ルカには簡単に許してもらえるとは思えねえけど……あいつは俺を許すって言った。はっきり自分の目標を口にした。それが純粋にすげえなと思った。いつもうじうじして、気弱で、だからってなんであんなに許せないくらいイライラしていたのか、今となってはよくわからない。ただ後悔しかない。酷えことばっかりした。フレア様に発火能力を使わせて虐めさせようともした。過去の自分に戻ったらぶん殴りてえ。




「ぼんやりしてないで手を動かせ。使用人は俺たちだけなんだぞ」

「わ、わかってるよ。よーし、頑張るぞー!」


 姑……じゃない、ルベルに怒られて急いで雑巾を手に取る。



 作業をしながら、ルベルが見ていない隙に俺はこっそりポケットの中を確認した。

 全財産を没収されたから自由に使えるお金なんてなかった。市場に買い出しに行った時に困っている人がいたら手を貸してて、そしたらたまにお小遣いを貰った。ほんのちょっとの額だったけれど、いつの間にかちょっと買い物ができそうなくらいにはたまっていた。



「……今日、だよな」

「ん? どうした?」

「あ、今日、ほら、フレア様の誕生日だろ?」


 こそこそと耳打ちすれば、ルベルはそこで初めて目を見開いた。


「た、んじょうび……!?」

「お前知らなかったの?」

「……失念していた」

「この前でっかい箱が届いてたじゃん。王太子からの」

「……そうだったか」

「そうだったよ。気づいてなかったのか?」


 眉間に皺を寄せて、ルベルが顔を逸らす。クールでかっこいいって、昔から女の子によくモテる奴だけど、モテる男故か女の子のこういうことにとても鈍感だ。まあフレア様に気があるとかそういうのはまずないだろうけど、主人なんだから誕生日くらい把握してると思った。


「だが、誕生日だからと言って特別なことをする必要はないだろう」

「え」

「それは使用人の仕事じゃない。……まあ、ケーキくらいはなんとかなるだろう。限られた食材で、いかに美味しいものを作るか――」


 ……それは十分特別なことだろ? 頭良いのに変な奴。




 チリンチリン。


 呼び鈴が鳴った。


「お、珍しいな。俺行ってくるわ!」

「ああ」


 フレア様が俺たちを呼ぶことはあまりない。

 俺はどこかわくわくしながら部屋へ向かった。

 そして……




 言葉を失った。




「ちょっとコルセットの紐を引っ張ってくれない? これ一人じゃ着られないの」



 扉を開けた瞬間、見えたのは、華奢で真っ白な肩と腕。

 理解する前に部屋から飛び出していた。



「わあああああああああああ!!」

「カノン!?」

「む、むむむむ、無理っす!!!」

「なんで!」


 なんでって……なんで!?

 そんなの無理に決まってるだろ!

 必死の思いで開けられないように扉を押さえる。フレア様の不満たっぷりの声が聞こえてくるけれど、今回はさすがに無理だ!!

 貴族の女性は子供だって肩や二の腕を露わにしたりはしない。ていうかあれじゃ下着姿みたいなものじゃないか! 近づくのだって無理なのに着るの手伝うって……!


「ほ、ほんと無理です!! ごめんなさい!」

「私は気にしないから」

「俺が気にするんです!!」

「子供の体見たって何とも思わないでしょ?」

「~~~~ッ、き、気にします! だから無理です!!」


 手が届かなくても今だって好きな人には変わりないのに!

 死ぬ!! そんなん間違いなく死ぬ!! フレア様に殺される!!


「もう! いいわ、あなたが無理ならルベルを呼んで!」


 はい! と返事して向かおうとして、止まった。


「……何してるんだ、お前。叫び声が下まで聞こえてきてたぞ」

「た、たた、助かった!!」

「はあ?」


 ルベルが首を傾げる。大丈夫、こいつはどんな時もクールだし、何より今は仕事の鬼。フレア様の頼みなら何でも完璧に――




「なッ……!?」


 ……無理だった。

 説明なしに部屋の中に放り込めば、次の瞬間には俺の隣でへなへなと腰を抜かしていた。


「こ、こ、これは一体どういうおつもりで!?」


 若干声を裏返しながら部屋の中のフレア様へ叫んでいる。


「だ、か、ら!! コルセットのドレスを着なきゃいけないのに一人じゃ着られないの!」

「い、今まではどうされていたのです!?」

「そういう必要のないシンプルなドレスを選んで着てたのよ!! ……あーもう、ほんと役に立たないんだから……」


 役立たずという言葉に胸はえぐれるが、正直こればっかりは無理だ。

 そう思っていると、門の方の呼び鈴が鳴った。来客だ。こんな時に!? と思ったけれど、ここを離れられるならこれ幸いと、俺は駆け出した。「ずるいぞ!」とルベルの悲鳴が聞こえるが無視。あいつにはここを守って貰おう。



 勢いよく門の方へ行けば、見慣れた優しい顔の少年がいた。



「やあ、カノン。そんなに慌てなくても良かったのに――」

「ルカ!!!」


 今度こそ助かった!!!


 何度かここに遊びに来ているルカとは、結局敬称もなしで普通に喋るようになった。ルベルは最初難色を示していたが、ルカに「そうして欲しい」と請われてからはあいつも普通に喋っている。


「良いところに来た!! 来い!!」

「え、何? 何があったの?」


 大丈夫、ルカはフレア様の義兄だ。

 妹の着替えなんてお茶の子――



「~~~~ッ!? 無理です無理です無理です無理ですっ!!」



 さいさいじゃなかった。


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