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111 後悔する


 ………………


 …………………………


 ああ……


 最悪……


 ああああああああああああああ最悪最悪最悪…………




 目を覚ました時思ったことは“終わった”

 もう本当に何もかも、世界が終わったくらいの衝撃だった。



「……~~~ッ!!!」



 昨日のことを思い出せば思い出すほど本気で死にたくなる。



 なんで私……私……お酒なんて飲んじゃったのよ!?

 後悔してもしきれない。私は確かにお茶を飲んだはずだったのに!! なのになんであんなことになったわけ!? がっっっっっっつり記憶残ってるしもうほんと最悪なんだけど!? 何よあの気持ち悪い甘えたがりのクソ女は!? あんなの私じゃないから!!! あんな誰にでもニコニコニコニコニコニコ……あああああ思い出しただけで鳥肌ものなんだけど!? 愛想よくするのも計算の上でやってることならいいの!場を支配してるのが私なら!でもあれはもう完全に自分を見失って悪絡みしてただけじゃない!!しっかもあんなこっぱずかしい……!頭も口も悪い初期ほむらより黒歴史だわ!!!


 おかしい、絶対おかしい。

 ほむらの時の私だってお酒を飲めば酷かった。でもそれは笑い上戸になるって奴で、ただの陽気な馬鹿だった。……そう、キスをされても笑って受け流せるくらいの。

 なのに今回の私はそれの更に上を行くレベルでやばかった。14歳という年齢を考えれば痛々しいほどの甘えん坊で杏に至っては頬にキスまでしてしまった。ルベルの腕に絡みつきカノンを「やだ」と拒絶しシリウスの服を脱がそうとした。ルカにだっていろいろこっぱずかしいことを……お、お兄様て……ああああああああああああああああああやばいやばいやばい恥ずかしい死にたい!!!

 じんわり涙がにじんでくる。恥ずかしすぎて。もう当分顔は会わせられないし会わせなくても良いって事がどうしてこんなに安堵するのかしら。でももし次に会うのが数ヶ月先、もしくは1年後とかだったとして、私の最後の姿があれなわけ!? それはそれで嫌なんだけど!!?




 はあ…………最悪。

 ジークも会いたくない。でもきっと今日来るんでしょうね。なんとなくそんな予感がする。昨日のことを散々弄られるに違いない。うああ……もういっそ逃亡しようかしら。アクア家領内の罠についてはくぐり抜けられるかちょっと心配だけど、ゼファができるなら私だってできる気がする。……多分。


 窓の外を見ればまだ太陽は上がっていなかった。だいぶ早くに起きてしまったみたい。頭は痛くないけど体は重いしなんだか変な感じ。脱出なんてばかなこと考えてないで、取りあえず水でも飲もうと毛布を捲った。



「…………ん?」



 あれ……なんか………足、太くない? え、あれ? 見間違い……じゃないわね。どういうこと? 私こんなに足太かったっけ? お酒の飲み過ぎでパンパンになったとか? いや、でもちょっと変……あれ?




 足の間に…………何か、ある。




 冷や汗がどっと流れた。この違和感、でもそれを確認するのは怖すぎてできない。



「え? あれ? え? え?」



 声が……おかしい?

 ちょっと待って、どうなってんの? これ。おかしい、絶対これなんかおかしい。思わず胸を押さえた。それで……





 胸が、ない。





 冷水を頭からぶっかけられたような衝撃だった。

 飛び起きて鏡を探す。全身を映す鏡に勢いよく自分の姿を映して…………悲鳴を上げなかったことを誰か褒めて欲しい。





「う……そ…………」




 そこに映っていたのはどこからどう見ても男だった。

 髪は短い金髪で、ぱっちりと開いた目はどちらも青。胸は真っ平らでけっこう鍛えられていて、女物の寝衣を着ているのが違和感しかない。顔かたちはどことなく私に似ている気もするけれど……いやもう完全に男!! もうびっくりするくらい男でしかない!!



「ど、どう、な、て……」



 声も低い。喉を押さえると、の、喉仏があった……。



 つまりこの両脚の間にある違和感は間違いなく……



「~~~~~~~…………ッ!!!」



 口を押さえて必死で悲鳴を抑えた。今ここで悲鳴を上げたら間違いなくアクア家の使用人たちが殺到するはず。彼らは相手が誰であろうとしっかり業務を遂行する人間なんだから。今この状態の私を見られるのは間違いなくまずい!! 何よりこの姿を見て誰が私をフレア・ローズ・イグニスだと思う? 怪しい者として連行されるのが目に見えているじゃない!



「いっ……」



 その時指に激痛を感じて視線を落とし絶句した。

 今までなぜ感じなかったのだろう。そのことが不思議なくらい、私の左手の薬指が赤紫に腫れている。



「ゆ、指輪……」



 ジークからもらった婚約の証。こんな高そうな指輪を四六時中付け続けることには私だって抵抗があるけれど、ジークが外すなって言うんだから仕方ないと諦めてずっと付けていた。魔術も使っているとか言っていたしそのうち付けていることに違和感もなくなって存在すら忘れる付け心地だったけど、さすがに指の太さが変わっても自在に大きさが変わるようにはできていないらしい。

 指の付け根をぎりぎりと締め付けて鬱血している。


 このままじゃ……さすがにまずい。


 そう簡単には外れないとか言っていたけれど外さないと指を切断しなきゃいけなくなるかもしれない。何か尖ったものをと探して、咄嗟にペーパーナイフを手に取った。


 ゆっくり息を整えて、指輪に向かって思いきり振り下ろす。





 パキンッ……





 …………割れた。

 輪がパキっと割れて指がようやく自由になる。ペーパーナイフも壊れてしまったけど。



「ふっ……はあ……はあ……」



 なんだ意外に簡単に外れたじゃないと思ったけれどすぐにドッと冷や汗が流れた。だって今私が指輪を壊したことにジークはいつか気づく。簡単に壊せたのは運が良かったとして、いろいろ魔術が込められていると言ったのは嘘じゃないでしょうし。昨日の醜態を晒した上に指輪を破壊。…………私、殺されるのでは?




「正直に何があったか話せば許してくれる? いえでもそもそも今の私をフレアだってわかってもらえる? 私だって何がどうなってこうなってるのか……ああもう声が低い気持ち悪い!!」



 声を抑えながらぶつぶつしていたらますます頭が混乱した。

 普通に考えれば私がフレアだなんて誰も信じてくれない。ジークなら私の心を読んだりとかしてわかってくれるかもしれないけど……やだ、この姿をジークに見られるのもなんかすごく嫌なんだけど!? だって全然可愛くないのよ!? 男なのよ!? 髪だって短いし体は逞しいし……ああああもう!! どうしてこんなことになったの!?

 酒を飲んだら翌朝男になってましたって!? 笑えないんだけど!!!


 これは天罰なのかしら。昨日の私の醜態への神様からの罰。……恐る恐る窓の外を見たけれどまだ太陽は昇っていなかった。



 どくどくと心臓の音がうるさい。ここまで追い詰められるのは一体いつ振りかしら。前世の記憶を思い出した時? アグニと対決した時? 変態兵器にキスされた時? いえ、どんな時もやばいと思っていたけれど今が一番やばい。フレアとして生まれてから最大の危機に直面してる。だってこんな奇想天外なことは前世でだって起こらなかったんだもの!



「…………~~~~ッ、ああもう!!」



 クローゼットから服を引っ張り出したけれど当然女物しかない。聖騎士の団服は男女兼用デザインだけどサイズが合わないし……。取りあえずフード付きのマントと体型を気にしなくていいゆったりした黒いワンピースを着た。窓を開け、外の様子を探る。



「ほんと、最悪なんだけど…………!!!」



 窓から飛び降りた。

 頭がぐちゃぐちゃになった私は、とにかくこの姿を誰にも見せたくないって結論を出した。ジークならきっと私がフレアだって信じてくれる気がするし逃げ出した方が後々ヤバいかもしれないってことはわかってるけど、でもやっぱりこの姿は見られたくないしアクア家の人間に騒がれるのも嫌だし指輪を破壊した私にジークがどんな罰を下すのかとか考えたらもう体が動いていた。


 こうして私はアクア家の屋敷を脱走することになった。これからどうするのか、全く何の考えもないままに。


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