95話 ユリウス殿下について
「それでですね、クリフト様」
「どうした、アイラ? というより、食べながら話すとは器用だな君は……」
私は骨付き肉を頬張りながら、口元を隠してクリフト様に話しかけていた。クリフト様に話しかけたいけど、お肉が美味しくて美味しくて。最近出来たお店なので、クリフト様とのデートはここに決まった。
「ボジョレヌボ」という不思議なネーミングのお店だ。
「ユリウス殿下はまだ、例の王族御用達の牢獄に幽閉されているんですか?」
ホーミング王国の暗部……というより恥部かもしれない、あの牢獄は。ユリウス殿下はさぞ、後悔していると思うけど……もしかしたら、精神崩壊とか起こしてないわよね。流石にそんなところまでは望んでいない私は、思い切ってクリフト様に切り出していた。
「精神崩壊を起こしているとか……そういうことはないですよね?」
「ああ、大丈夫だ。そういうことはない……まあ、それなりに憔悴してはいるが、体調的には元気だよ」
「そうですか」
憔悴しているのは仕方ない。でもわりかし元気なのは良かった。まあ、あんまり復讐とか好きな性格はしていないし……。私がユリウス王子殿下の断罪を決めたのはケジメみたいなものだし。
「そういえば、テレーズ嬢が会いたがっていたぞ」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ、ユリウスの件とは関係なく、単純に会いたいだけのようだ。彼女は、家柄的にあまり市民街を出歩ける身分ではないからな。せっかく友人になれたアイラと話がしたいんだろう」
「なるほど……」
家柄的にと言うのは、結構厳しい家庭なのかな? それとも、貴族が無暗に首都とはいえ街に繰り出すのは危険と考えているのか……。まあ、確かに護衛を付ける必要はあるだろうしね。
でも、テレーズさんが会いたがっているか……なんだか嬉しいかも。彼女のおかげで貴族に対する偏見が和らいだというか、ある意味では恩人みたいなものだし。といっても、あそこまで真面目で良い貴族令嬢は珍しいと思うけどね。以前に私の店を訪れたお客令嬢は、なかなか高圧的な人だったし。
「ユリウスの件に話を戻すが……」
「はい……」
クリフト様は真剣な表情になっている。「ボジョレヌボ」内の雰囲気が一気に引き締まったかもしれない。
「ユリウスは王位継承権の剥奪で閑職に追いやられる可能性が高い」
「閑職……ですか」
「ああ、父上は他国の貴族と結婚させて繋がりを持たせようとはしているみたいだが」
まるで、王位継承権のない王女様みたいな取り扱いね……ユリウス王女殿下、と呼んだ方が良いのかもしれない。おそらく彼からすれば、これ以上ない罰になりそう。一般人からすれば、あれだけのことをしておいて、まだ王族で居られて良かったですね? という皮肉が飛んで来ても仕方ないところだけど。
そっか……ユリウス殿下の罰は決まりつつあるんだ。それをクリフト様から聞けたことで、私は少し安心していた。もしかしたら免罪とかになるんじゃないか? とか心配していたけど、その心配がなくなった安心感だ。
罰の重さについては、私が真剣に語る部分ではないと思うから、とりあえずの罰の方向性を聞けただけでも良かった。




