92話 グリフォン討伐後の後日談 2
「落ち着いて欲しい、サイフォス殿」
「クリフト王子殿下……」
身長で勝っているクリフト様は、サイフォスさんの両肩を掴んだ。そのしぐさも優しく、美男子同士の邂逅を匂わせる雰囲気すら、漂わせている。
キリっとした視線が魅力的なクリフト様は当然、二枚目だ。サイフォスさんも性格が弱気な印象を受けるだけでとても強いし、顔は中性的な顔立ちの二枚目と言える。一部の女性が見たら、歓声を上げるのではないかという距離に二人は立っていた。
「私とアイラは現在のところは、そういう関係ではない。これは事実だ」
「現在のところ……? そういう言い回しをされるということは……」
「今後のことは、誰にも分からないということだよ。もちろん、私自身にもね」
物凄く意味深な発言をクリフト様はしている気がする……私に対しての意味合いなんだろうけれど、聞く方向によっては、様々な意味に捉えかねないところが流石だ。
「え、ええ……!? それって一体、どういうことですか……!?」
「ん? ああ、アイラは気にしなくても問題はないさ。あくまでも、私達の中での約束……契りのようなものだから、なあ? サイフォス殿?」
「確かにそうですね。僕もアイラに迷惑を掛けるつもりはないから、安心して。今まで少し、君を見過ぎていたことは反省してる」
反省? 見過ぎていた……? ああ、確かにそんな場面が何度かあった気がする。多少、身震いをした記憶もあるけど、あれってそういうことだったの? 私のことを気にしてくれて見ていた? ヤバい……なんて反応すれば、いいんだろうか。
それはともかくとして、クリフト様も上手くはぐらかしているようだし、サイフォスさんも納得したみたいだし……クリフト様は、恋愛? 話に関しては一枚も二枚も上手のお方なのかもしれない。私は第一王子殿下という肩書きの実力を改めて思い知ったような気がした。
もしかしてこの流れは、私の与り知らぬところでバトルが繰り広げられることを意味しているのでは? バトルって言っても、直接戦闘っていうわけじゃないだろうけど……。
「あはははははっ、これは大変ね、アイラ・ステイト! 酒の肴にはもってこいの案件だわ!」
「カミーユ……あの目は絶対に楽しんでる……」
以前よりも嫌な感じはしないけれど、彼女と打ち解けるのはまだまだ時間がかかりそうだ。
「なるほど……よく見たら、クリフト・ホーミング王子殿下もいらっしゃるじゃねぇか。それに加えて、冒険者ランキング5位のサイフォス・マッケンローが参戦かよ……これは強敵過ぎるぜ」
「確かにな……」
なんだか分からないけれど、ギャラリーの冒険者たちは私をダシにして楽しんでいる雰囲気だし。全く、困ったものね……どんどん、冒険者内での知名度が上がって行ってる気がする。私は冒険者でも何でもないんだけどね。
私のお店の売り上げに直結することだから、悪い話ではないけどさ。
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私はその後、エンゲージへのお店へと戻った。既に4人の従業員やライハットさんは、私がグリフォン討伐に参加したことは知っている。戻って来た当時のライハットさんの私を見る表情は常軌を逸していたけれど……。
「アイラ殿! グリフォン討伐、お疲れ様でございました……そして、ご無事で何よりです……!」
「はい……ご心配おかけいたしました、ライハットさん」
その時の情景は隣で働いているライハットさんを見るだけで、すぐに思い返すことができる。他の従業員の人たちは、イマイチよく分かっていない反応をしていたけれど、ライハットさんはどのくらいの修羅場から帰って来たのか、詳細を語らなくても、大体想像が付いたんだと思う。
それから1日、2日が経過し現在に至っているわけで……特にその間、グリフォン討伐の話は出ていなかったのだけど……。先ほどまでごった返していたお客さんの流れが少しだけ止んだ状況を見たのか、ライハットさんが話し出した。
「そういえば、アイラ殿がグリフォン調査に向かっている間に、シグルド殿がお越しになっておりました」
「……シグルドさんがですか?」
「はい、グリフォン調査に向かっている件をそれとなく伝えたのですが……珍しい表情をしておられましたよ」
珍しい表情……どんな表情だろう? あの人の珍しい表情には興味があるかもしれない。いつだって、鬼のように怖い顔つきをしているから。
「アイラ殿を心配しているような……そんな表情、顔つきと言えば分かりますか?」
「シグルドさんが心配……?」
あんまり予想しづらいんだけど……どんな感じなのかしら? と、いうよりもシグルドさんが私を心配することが、あんまり信じられないというか。グリフォンという獲物に闘争心が芽生えて、それが珍しい心配している表情に見えたと解釈する方が、あの人の性格的には納得できる。
「シグルドさんが心配……あんまり、ピンと来ないですかね」
「まあ確かに……あの方の性格を考えれば、あまり想像は着きませんね。まあ、そういうことがあったというご報告ですので、あまりお気になさらず。報告が遅れてしまったことは申し訳ありませんが」
「はい、いいえ。ご報告、ありがとうございます」
私達はそんな会話を楽しみながら、その間にも来ていたお客さんに商品を売っていた。グリフォン討伐を通して、商品のラインナップが増えていた。
醤油やソースといった調味料を、とりあえず5種類追加している。通常の薬屋では、あまり売っていない商品だけに、この2日くらいを見ても、明らかに人目に付いていたように思える。今後の売り上げ増加にも期待が持てそうね。
さらには、オディーリア様からもらったレシピにはなるけど、防御石も商品のラインナップに加えている。私の店での商品の種類は50種類を超えている。
エリクサーなどの一部の高額アイテムを除いたとしても、お店の売り上げは相当な額になりつつあった。今後は来てくれるお客さんの傾向も変化していくかもしれない。変化していくというより、より広範囲のお客さんを呼び込めるといった方が良いかな。
グリフォンは今思い出すだけでも、夜も眠れなくなる程に目に焼き付いており怖い……ホーミング王国は近く、東の大森林に大部隊を送り込んで他のグリフォンが居ないかを調査するらしいけど、もしも他にもグリフォンが居た場合、その作業でどれだけの人が死んでしまうんだろう? そもそもの問題として、その大部隊で勝利は可能なんだろうか?
そんな予感さえよぎってしまう程に、衝撃的な冒険だったように思える。
「アイラじゃねぇか。ふん……どうやら、幸運としぶとさだけは人一倍の能力を持っているようだな」
「あれ、シグルドさん……」
そんな時だった、タイミング良くシグルドさんが、ぶっきら棒な言葉と共に店を訪れたのは。




