91話 グリフォン討伐後の後日談 1
「ぐ、グリフォンだって……!? あの凶悪魔獣が東のエコリク大森林に居たのか!?」
「しかし、そんな凶悪な魔物を倒せるなんざ……流石はカミーユさんだぜ。その美貌と確かな強さ……惚れるぜ」
「当たり前でしょ? 私クラスの天才魔導士の手にかかれば、グリフォンくらい余裕なのよ」
グリフォン討伐の一夜から3日、カタコンベの冒険者ギルドはその噂で持ち切りになっていた。証拠という意味合いではないんだろうけど、グリフォンの頭部と心臓部分はギルドの隅に剥製状態になって置かれている。
それ以外の使える素材やドロップしたアイテム類は、ギルドが高額で引き取ってくれるようだ。それから……超上級回復薬が7個ドロップしていた。それが超上級回復薬であると一番に理解したのは私だけど、カミーユ達も特に驚いている様子はなかったみたい。
「この世界は太古の神々の作りだした箱庭と考える連中も居るしね。主に南のロンバルディア神聖国の連中なんだけど」
冒険者の間では魔物が宝石などをドロップしたり、回復薬をドロップする可能性があるのは周知の事実だ。その理由はよく分かっていない。1000年前にはこの大地は錬金術の国家が栄えていたとされるけど、それよりもさらに以前まで遡らないとその秘密は分からないのかもしれない。
魔物自体が今は亡き神々が作り出した永続的に発生するオモチャであり、そのオモチャを倒した報酬という意味合いでドロップアイテムが存在する……そうやって考えを膨らませると、色々な話が作れそうね。実際に、数々のお伽話という枠組みで無数の話は作られて行き、私も昔はそれらを楽しんでいた。今はそこまで興味はないけど、冒険者にとっては興味深いことなのかもしれない。
錬金術の世界もまだまだ深淵なんて見えないくらいに広いけど、冒険者という世界も同等以上に広いんでしょうね。
「しかし、カミーユさんは一人で倒したんですかい? あのグリフォンを?」
「いいえ、流石にそれは厳しいから、ちょっとだけ手伝ってもらったわ。最優秀賞は私だけどね」
カミーユは数多の男を虜にするだろう露出の高いドレスで、座っているソファで大胆に脚を組み替えていた。その大胆なしぐさに、冒険者の男性陣は高らかな歓声を上げている。最早、一種のショーみたいなものだ。ちなみにカミーユは、見えても問題のないマイクロミニのスパッツを穿いていたりする。マイクロミニ……というのがちょっと狙ってるけど、冒険者としての戦いの際にドレスが破かれた場合のことを考えているんだと思う。
つまり、冒険者の男性陣が期待するものは絶対に見えないようになっていて……その辺りもあざといわよね。冒険中にお花を摘みに行く野性的? なところは当然あるわけで、その辺りを男性陣はどう考えているんだろう?
私は隅の方で、クリフト様とギルド長のサイモンさんと一緒に居た。冒険者ギルドの高揚ぶりを見るに、手柄のほとんどは彼女に持っていかれそうだけど、あの活躍を見た私としても仕方ないと思う。
「やれやれ、彼女も素直じゃないな」
「どういうことですか、クリフト様?」
クリフト様は軽く笑みを浮かべながら、ため息を付いていた。私はその理由について質問する。
「まあ、見ていれば分かるさ」
「はあ……?」
クリフト様の言葉には疑問符が出ていたけど、私はすっかり話題の中心になっているカミーユに注目することにした。
「私は一人で単独で大森林に向かったのが不味かったわね。その他には、サイフォス・マッケンローや錬金術士のアイラ・ステイトも同行していたのよ。悔しいけれど……二人の働きもなかなかだったわね。まあ、私ほどではなかったけれど」
「なんと……! 冒険者ランキング5位のアルデバランのリーダーも一緒だったとは!」
「というより、アイラちゃんが一緒だったのが驚きだぜ!」
さりげなく、私やサイフォスさんも褒めてくれたカミーユ。なるほど、確かに素直じゃないわね。冒険者達の注目は私に注がれていく。
「なるほど……奇跡の錬金術士、アイラ・ステイトは優秀なアイテム士でもあったのか!」
「これはすげぇ情報だぜ! 本当に天才じゃねぇか!」
なかなか照れ臭いわね……嬉しいし、光栄なことなんだけど。正直、アイテム士という職業の難しさは想像を絶するものだと、あの1回の戦闘だけでも身を持って感じさせられた。
カミーユ自身の詳しい事情等は分からないけれど、半端な気持ちでアイテム士なんてなるものではないと思う。過去にそう言った人物が居たからこそ、彼女は私に辛く当たっていたんじゃないだろうか……そう思えるほど、グリフォン討伐で実感させられた。
単体アイテム、範囲アイテムの使用タイミング、攻撃と防御、回復と分けるだけでも習得することは非常に多い気がする。あの時、五芒星のエメルさんの手助けがなければ、グリフォン討伐まで、的確に回復アイテムを行使し続けられたかは分からない。
興味がない、というわけじゃないけど、やっぱり私はアイテム屋の経営が性に合っている気がする。どの年代のお客さんとも、世間話で盛り上がれる自信くらいはあるし、何よりも人生経験値が上がっているという実感が一番得られるしね。
冒険者活動は私程度の身体能力の持ち主では、先に命が無くなりそうだしね。そんなことを考えていると、隣に立っていたクリフト様が私の肩に優しく手を置いてくれた。
「大分、今回の冒険で学んだことがあるようだな?」
「クリフト様……そうですね、学んだことは多いと思います」
「そうか、それは私としても嬉しいよ。実は私もなんだ、グリフォンという化け物の強さを完全に見誤っていたといえるだろう。あそこまで想像以上だとは思わなかった。今後、こういう調査をする場合は高名な冒険者の意見をしっかりと聞く必要があると、実感させられたよ」
「では、私たちはお互いに良い勉強が出来たということですかね?」
「そのようだな、はははは」
グリフォンていう怪物が強すぎた……それも学んだことではあるけど、個人的にはカミーユのことが気になってしまっていた。まあ、その……ほら、色々と助けられたりしたし? 別に彼女のことを見直したとかそういうことではないんだけど……そ、そうよ! 彼女はトップクラスの冒険者の1人なんだから、顧客として私の店に引き入れたら、かなりの売り上げ向上になりそうだしね!
うん、それ以外に意味なんかない意味なんかない……と、私の頭はぐるぐると妙な思考を繰り返していた。
「じ~~~~~~~」
そんな私を見つめる視線が一つあった。サイフォスさんだ。
「あれ、どうしたんですか、サイフォスさん?」
「やっぱり、おかしい……最近のやり取りを見て思っていたけど……アイラとクリフト王子殿下は……」
えっ!? この状況でそっちの話にシフトするの? この前の段階ではなんとか宥めることには成功したけれど……今回ばかりは、聞いている人も多いし、有耶無耶にするのは難しい状況のような気がしてきた……。
ていうか、サイフォスさん……「じ~~~~~~」って言葉にして言ってるし、彼自身もパニックになってるのかもしれない。




