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90話 グリフォン 2 


「これは……!? ハイパーヒーリングの光?」


 ハイパーヒーリング? なにそれ? 良く分からないことをカミーユは言っていたけれど、みるみる内に彼女とサイフォスさんの傷は修復されて行った。


 エリキシル剤は実際に服用する必要はない。まき散らした雫がかかるだけでも効果はあるのだ。まあそれは、エリクサーや蘇生薬なども同じだけれど。ただエリクサーや蘇生薬は、単体にしか効果がない。それと引き換え、エリキシル剤は範囲内の全てに効果を及ぼす。


 正直、グリフォンに当たると別な意味で大変なことになるんだけど、私はそんなヘマはしなかった。


「エリキシル剤とハイパーヒーリングの起源はどちらも同じはずです! カミーユさん、僕たちの傷、完全に治ってますよ!」


「……!!」


 サイフォスさんの早口の言葉によって、カミーユは何が起きたのかを理解したようだ。正面のグリフォンに視線を合わせたままだけれど、軽く右手で合図を出していた。なんだか、素直じゃないわね。


「私が後方支援を担当します! お二人はグリフォンの討伐をお願いします!」


「素人のあんたなんかに言われなくても、分かってるわよ! あんたこそ、エリキシル剤の使いどころと範囲、絶対に間違えるんじゃないわよ!」


「は、はい! 分かりました!」


 少しでも隙を見せるわけにはいかない相手と対峙している関係か、カミーユは一切、私に振り返ることはなかった。サイフォスさんもこちらを向いていないから、おそらくはそうなんだと思う。


 今、私が行っているのは、カミーユが以前から言っていた「アイテム士」と呼ばれる職業の立ち位置なんだと思う。回復薬を選び、最適なタイミングで投擲する……時には、火炎瓶や雷撃札と言った攻撃アイテムを投げることもあるだろう。


 万が一、味方に命中したり、回復薬が敵に当たったりしたら大変だ。特に、私の持っているアイテムはかなり強力な物ばかりだから……私はカミーユに言われたことを胸の中に刻み、対処することにした。


「僭越ながら、アイラ様……私も加勢いたします」


「えっ……?」


 話しかけて来たのは、五芒星の一人であるエメルさんだ。


「私もオディーリア様の護衛を務める傍ら、アイテム士をしていた時期もございます。投げるタイミング、効果範囲測定など、お役に立てるかと」


「そ、そうだったんですね……よろしくお願いいたします!」


「はい、こちらこそ」


 五芒星という集まりだから、それぞれに役割があったということかな? 彼女がアイテム士で良かった、既に激しい戦いは再開されている。グリフォンの攻撃速度が速すぎる為、サイフォスさんはほとんど魔法を詠唱出来ていない。防御魔法や回復魔法は使えるんだろうけど、その隙を敵が与えてくれないといった感じかしら? おそらく、私達が後方に居るので、あまり後退できないのも理由にあると思う。


「フレイムウォール!!」


「シャアアアアアアッ!!」


 それとは逆に、カミーユの方は自分のことを最強の矛と称するだけあって、ほとんど詠唱破棄状態で連続攻撃を行っている。役割が違うから単純な実力差で比べるのは難しいけれど、これが4位と5位の違いなのかな?


「フレイムウォールで壁を作ったわ! 早く、エリクサーを!」


「は、はい!」


 炎による強烈な壁が、グリフォンを遮断した。私は急いで手持ちのエリクサーを彼女に渡す。しかし、グリフォンはその炎の壁を難なく突き破って来た。


「ひいっ!」


「アイラ様!」


 エメルさんの助けもあり、グリフォンの攻撃は私とカミーユの腕の間を掠める形になった。危なかった……もう少しで、腕が千切れていたかもしれない。まあ、防御石のバリアはあるんだけど。


「くそっ! 本当に邪魔な鳥ねっ! さっさと、死になさいよ!」


「キシャアアアアアアッ!!」


「よし、今なら行ける! ガードアップ! マジックアップ!」



 私達に向かって来たグリフォンは、その間だけサイフォスさんを見失っていた。彼の唱えた補助魔法が、カミーユに降り注いでいく。どうやら、単体効果みたいね。


「良くやったわ、サイフォス! 一気に決めるわよ、フレイムショット!!」


 サイフォスさんの補助魔法で、先ほどよりも破壊力が増したフレイムショットがグリフォンを襲う。劣勢状態から、盛り返した一撃となっていた。




-----------------------------------



 

「はあ……はあ、なんとか……倒したわね」


「ええ、なんとか……」


 前衛の二人、カミーユとサイフォスさんは肩で息をするほどに消耗していた。マジックアップやガードアップによってカミーユの魔法や防御が強化されてからも、グリフォンを仕留めることは困難を喫したのだ。


 結局、手持ちのエリクサー4個とエリキシル剤3個のすべてを使い果たすことになった。彼らが疲れ果てているのはその為である。私は体力を回復させる薬を即興で作ることにした。


「ごめんなさい、エリクサーほど回復はしませんけど……スタミナ回復薬です」


「……ありがと」


 ぶっきら棒ではあったけど、私が作ったスタミナ回復薬を手に取り飲んでくれた。サイフォスさんにも渡してあげる。


「ありがとう、アイラ……君が後ろから支援してくれなかったらって思うと……僕たちの命の恩人だよ」


「い、いえ……そんな大層な……」


 サイフォスさんは、まるで自分のことのように喜んでくれている。流石に命の恩人というのは言い過ぎだとは思うけど、なんとか役に立てたようで安心した。


「そうよっ、そいつはあくまでちょっと役に立っただけ。最後は私の矛……炎系魔法の乱打で打倒したんだから」


 カミーユはスタミナ回復薬を全部飲み終えると、ズタボロになっているグリフォンの亡骸に目を通していた。


「ったく……本当にヤバい相手だったわ。こいつの素材とかドロップアイテムとか売って、今の戦いの元が取れるかしら?」


 カミーユは何か勘定のようなものをつけていた。大体、いくらくらいの儲けになるかを考えているのかな? 幾つか宝石みたいな物が落ちてるけど、あれがドロップアイテム? 薬の使用量だけで考えても、エリクサー4個で4万スレイブ、エリキシル剤3個で6万スレイブが飛んで行っている。


 10万スレイブ……物凄い額が一瞬にして消えたことを意味していた。


「今回のグリフォンは特別なのだろうが、冒険者チームの必要性が良く分かる結果というわけか」


「確かにそうですな……命は勿論ですが、費用面も非常に重要だ」


 クリフト様とロブトー兵士長は、私が青い顔になっているのを見て、強く頷きながら話していた。そうよね……10万スレイブは一般家庭の10か月分の生活費に相当する金額。こんな出費を毎回していたんじゃ、いくらトップクラスの冒険者達でも厳しいでしょうね……。


 私もカミーユと同じく、グリフォンの亡骸に目をやった。Aランククラスの魔物……本当に怖い相手だったわ。


「カミーユ、サイフォス……本当にありがとう。アイラを、私達の命を守ってくれて……本当に感謝する」


 中腰になっている二人の前に立つと、クリフト様は頭を90度に下げてお礼を言った。王族としては、通常はあり得ない行為だ。カミーユもサイフォスさんも少し驚いていた。


「お、王子様……僕たちは雇われた冒険者なんですから……! 王子様たちの命を守るのは当然のことで……!」


「いや、私がグリフォンの能力を甘く見過ぎていたのが原因だ。アイラが背後を取られた時……君の助けがなければ、二撃目は防げなかっただろうからな」


 そう言いながら、クリフト様はカミーユに視線を合わせた。それは確かに……私はカミーユに命を助けられたも同然なのかもしれない。あの後の攻防が激し過ぎて忘れてしまいそうになるけど。


「別に助けたつもりはないけど……私はただ、グリフォンを攻撃しただけだし」


「それでもだ……ありがとう、アイラを救ってくれて」


「はいはい、お熱いことで」


「ん?」


 カミーユの言葉にサイフォスさんの顔色が変わった。クリフト様や私が変わるなら分かるんだけど……あれ?


「や、やっぱり、そうなんですか……? 王子殿下と奇跡の錬金術士とはいえ、一般人のアイラが……!」


「ま、待て! 落ち着くんだ、サイフォス! 話が進み過ぎているぞ……!」


 先ほどまで命のやり取りをしていたとは思えないほど、サイフォスさんは潤んだ顔を見せながら取り乱していた。そのギャップがなんだか可笑しくて、私は笑ってしまった。それにつられるように、五芒星の人達も笑い出す。


 辺りは一気に陽気なムードへと変わって行った……。グリフォンの死体はまだすぐ近くにあるんだけどね。

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[一言] 冒険者の噂話は光よりも速いんですかね
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