9話 ユリウス殿下 2 (一人称ユリウス視点)
さて、あの女……以前の国家錬金術士、アイラ・ステイトは17歳だったはずだ。私の兄上であるクリフトが推薦し、1年ほど前に国家錬金術士になれたのだったか。
平民の分際で、かなりの才能を持っていたはずだ。貴族街や宮殿への出入りも許可された異例の存在……。将来的には伯爵などの貴族や王族との婚約も可能ではないかと言われていたか。ふん、忌々しい……。
「如何なさいましたか? ユリウス様……?」
眉間にしわを寄せている私を心配してくれたのか、侯爵令嬢のテレーズが私の顔を覗き込んでいる。平民出のあの女とは違い、やはり気品に満ち溢れているな。仕草からして、最早、違う雰囲気だ。下の階級の者では決して出せないオーラとでも呼べばいいのか……ぜひとも、このテレーズは自分の物にしたい。
「心配の必要はない、テレーズ嬢。私はお前が国家錬金術士として大成することを、心から期待しているぞ」
「……! ありがとうございます、ユリウス様! ああ、なんて勿体ないお言葉でしょうか……感動して涙が出てきそうですわ……!」
そう言いながら、彼女の目からは小粒の涙が溢れていた。私はそれを軽く拭ってやる。
「ユリウス様……」
「テレーズ、期待しているぞ」
「はい、ありがとうございます……!」
ふふふ、テレーズの心の中身が手に取るように分かるぞ……私に惚れ始めているはずだ。
「ところで、ユリウス様。1つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「どうした、テレーズ?」
「以前にこの場所で働いていらした方……国家錬金術士の方は、戻って来られないのですか?」
「ああ、それは……そうだな」
「左様でございますか……」
まさかこのタイミングで、テレーズからもアイラの話題が出て来るとは思わなかったが、まあいい。話が少しそれたが、確かアイラは……何種類の薬を調合していたか? まあ、深く考えたところで、時間の無駄かもしれんが……。
「私は調合の記録などを読ませていただいているのですが……」
「調合の記録か?」
「はい」
「うん、それがどうかしたのか?」
調合の記録か……私は見たことはないが、おそらくはアイラが書いていたものだろう。そう考えていると、テレーズがその記録している本を出してきた。ほう……1年間の歴史のようなものか、まあたかだが1年ではあるが、平民にしては上出来と言えるだろう。
「以前の国家錬金術士の方は……もしかして、とてつもない種類のお薬を調合されていたのではないでしょうか?」
「とてつもない種類……?」
そうだったのか? せいぜい数種類程度かと思っていたが……疑心暗鬼の私に諭すようにテレーズは本を開いてみせた。そこには……びっしりと埋まった、調合レシピのような文字が記載されていたのだ。