89話 グリフォン 1
「シャアアアアアッ!!」
防御石のバリアによって、私はなんとか敵の攻撃を防ぐことが出来た。五芒星からの大きな声がなければ、確実に後ろからやられていたはずだ。それに、危機は去っていない。眼前にはグリフォンが二撃目を放つ動作を開始していたのだから。
防御石もおそらくは二撃目は防げない……そう直感した私の命の危うさは全く変わっていないと言えた。次の攻撃で終わってしまう……。
「フレイムショットッ!」
「ギギィ……!!」
そんな私の傍らを通り抜けて行ったのは、炎の矢だ。グリフォンに見事に命中し、グリフォンは少しばかり後退していた。
「アイラ・ステイト! あんたはすぐに、その場から離れなっ!」
フレイムショットを放ち、私を助けてくれたのはカミーユだ。彼女はすぐに私に指示を出していたけど、私の身体は恐怖のせいで、思うように動かなくなっている。ど、どうしよう……。
「アイラ様、こっちです!」
「エメルさんっ!」
五芒星の一人であるエメルという女性に、私は抱えられ、その場を離れることに成功した。体重50キロの私を難なく抱えたエメルさんは凄い。しかし、目の前の魔獣はそれとは比較にならないくらいに強力な存在だった。
五芒星3人の攻撃をほとんど無傷でやり過ごし、私への攻撃を開始。その後にフレイムショットの一撃を受けても、ピンピンしているのだから。戦闘なんて未経験の私でも、これが如何に凄いことかは理解することが出来ていた。
距離を離した私の前には、カミーユとサイフォスさんの二人が構えている。お花摘みなどの用事は完了したようね。
「これだからアイテム士は……! 世話が焼けるわね、本当に! 護衛に守られていたみたいだけど、それでもギリギリなんて……!」
「いえ、アイラを責めることは出来ませんよ。僕たちだって、グリフォンの接近には気付いていなかったんですから」
「何でもいいわ、とにかく私が矛になって全てを終わらせてやるから!」
そう言いながら、カミーユはフレイムショットの連続攻撃をグリフォンに浴びせて行く。グリフォンはその攻撃を受けながらも、カミーユに爪攻撃を繰り出す。彼女はその攻撃を身軽に避けていた。私ではほとんど反応出来ていなかった攻撃だけど、彼女からすれば見えているのね。
その後も、グリフォンにフレイムショットという矢を撃ち込んでいくカミーユ。でも、その身軽な動きとは裏腹に、そこまで余裕は感じられなかった。
「くっ! サイフォス、補助魔法を早くしなさいよっ! あんた、神官でしょう!?」
「す、すみません! ですが……!」
「シャアアアアアッ!!」
動きの速いグリフォンの攻撃が、サイフォスさんの補助魔法の発動を阻害していた。長い尻尾攻撃に悪戦苦闘している。
「くそっ! カイザーホーンクラスの強敵とは聞いていたけど……! やっぱり、チーム全てで挑むべきだったわね!」
「今更、そんなこと言っても仕方ないですよっ!」
「分かっているわよっ!」
不慣れな連携による二人の攻防……明らかにグリフォンに分がある戦いに変わっていた、グリフォンはあれだけの魔法を受けながらも、ほとんどダメージを負っていないのは怖い。
「大丈夫か、アイラ!」
「クリフト様……はい、私は大丈夫です!」
「そうか、良かった……!」
「ありがとうございます。でも、彼らが……!」
「ああ、わかっている……加勢したいところではあるが、私やロブトー兵士長ではかえって邪魔になってしまうな」
「くっ……悔しいことではありますが、私も同意見でございます」
クリフト様もロブトー兵士長も、前衛の攻防の凄まじさを見ながら、とても付いて行けるレベルではないと感じているようだった。五芒星の人達も同じ意見なのか、加勢する様子を見せていない。ロブトー兵士長も動かないところを見ると、クリフト様の警護に全力を当てるつもりなんだろう。
前衛のカミーユとサイフォスさんと、グリフォンの攻防はとにかく素早く、激しいものへと変わって行った。周囲の木々は何本もへし折れ、カミーユが撃ち出した炎系の魔法により、テントなどはとっくに焼け焦げてしまっている。
「大森林のグリフォンの目撃情報は正しかったか……しかし、これほどまでの存在だったとは……」
決して低く見積もった上での編成ではなかったはず。偶然にもカミーユとサイフォスさんという、冒険者の中でもトップクラスの人達を雇えた。それに、ロブトー兵士長というホーミング王国の中でも最高クラスの兵士長も連れて来ている。
私には五芒星という護衛が付いていたのだし、守りだって悪くなかった。それなのに……。
「ギシャアアアア!」
「うっ、加速した……!?」
「カミーユさんっ!」
サイフォスさんが叫んだ時には遅かった。カミーユはグリフォンの強力な爪……前足による一撃を受けていたのだ。その攻撃に気を取られたサイフォスさんも、尻尾攻撃により倒されてしまった。
「グルルルルルル……」
「がはっ!」
「くっ……!!」
圧倒的に強い……二人を打ち据え、重傷を負わせたグリフォンはその場で余力を残しつつ立っていたのだから。不味い、二人とも致命傷ではないだろうけど血だまりからも、ダメージは相当なものだ。上手く補助魔法を掛けられなかったことが要因になってしそうだけれど。
「エリクサーでは間に合わない。これしかないわねっ」
「アイラ……?」
私はすぐに動き出すことにした。グリフォンが勝利を確信し、ほんの少し、勝利の美酒に酔っている間しかチャンスはないだろう。
私は前に出ると、範囲指定の全回復アイテム、エリキシル剤を展開した。サイフォスさんは直接戦闘にも参戦している為、上手く補助要員にはなれない……そうなれば、補助の役目は私しか居ない! 私は自らの役割を強く意識し、動いていくことを決意した。




