86話 冒険への同行 2
「なるほど、東の大森林への魔物調査に同行することになったのか」
「申し訳ありません、オディーリア様……」
その日は解散となり、調査の日付については追って連絡するということになった。私はそのままの脚でオディーリア様のお店に来ている。勝手に私の好奇心で五芒星の人々も付き合わせてしまう形になったことを、私は彼女に謝罪していた。
オディーリア様は全然気にしている様子がなかったけど。インビジブルローブを外している5人の五芒星も同じ気持ちなのか、皆、平然としていた。
「いや、責めてはおらぬよ。錬金術士たるもの、偶には現地へ向かい素材調達をするというのも重要じゃからな。芸術家も山籠もりをして、自らの作品を書き上げるじゃろう?」
「は、はい……確かにそうかもしれませんが……」
「わらわとしては、アイラがそのような経験をするのは、非常に喜ばしいとさえ思えるの。冒険というものの大変さ、素材調達の難しさ、そして魔物との戦闘の困難さ……それらを味わうだけでも、お主の今後にも活きてくるじゃろう」
「オディーリア様……ありがとうございます」
私は感謝の意を示しながら、オディーリア様に深々と頭を下げた。
「アイラ様の身は、我々五芒星の3名がお守り致します。どうぞ、ご安心ください」
「は、はい……ありがとうございます」
オディーリア様の計らいで、護衛を1人増員してもらっている。つまりは、彼女の守りは2名というわけで……なんだか、非常に申し訳ない気持ちになってしまう。
「しかし、大森林で見かけられた魔物が本当にグリフォンであった場合……注意をした方が良いの」
「やっぱり、そんなに危険な魔物なんですか?」
「そうじゃな、確かAランクに属している魔物のはずじゃ。これを討伐出来る者は、大陸全土に数十万人居ると言われておる冒険者の中でもごくわずか。心してかかるようにの、お前たち」
「はっ、畏まりました」
3名の私を守護してくれる五芒星は、オディーリア様に敬礼をしていた。
「しかし、冒険者ランキング4位と5位のチームのリーダーが同行してくれるのは有り難い話じゃな」
「そうですね、それは本当にありがたいです」
カミーユのことは第一印象が悪いので、好きにはなれないけれど、頼りになるのは間違いないと思う。携帯用の錬金セットも貸してくれたし、そういう面ではとても感謝している。
「それからお前たち……サイフォスとカミーユと言ったか? その者達には存在を知られるでないぞ? 以前に、シグルドとかいう冒険者にバレておったそうではないか」
「も、申し訳ありません……あれは、私達も驚きでした……」
「あの者はおそらく、早い段階で私達の存在を看破していたのだと思います」
「ふ~む、冒険者の中には凄い者も居るんじゃな、やはり」
あの時は私もビックリしたけど……まあ、ライハットさんの評価等もあるし、シグルドさんそれくらい出来ても驚かないかな。なんせ単独で2位にランクインしている人だしね、個人の実力なら1位のチームの人達よりも強いかもしれないんだから。
「カミーユとサイフォスか……その者達にはバレぬようにな」
「はい、細心の注意を払って警護に当たります」
五芒星はやっぱり隠密チームの性格が強いみたいね。だから、存在に気付かれるのは沽券に関わるというわけか。あ、ちょっとワクワクしてきたかも。カミーユやサイフォスさんが看破するのかどうか。
個人的には冒険者間の実力差? みたいなものはとても興味があるわ。錬金勝負とか売り上げ勝負とはまた違うベクトルだけれど、どんなジャンルでも勝負事や切磋琢磨して上位を目指すというのは重要なことだしね。それがなければ、人間としての成長が遅れてしまうし。
「念の為、アイラにはこのレシピを授けておこうかの」
「これは……?」
「お主の身を守る防壁を展開してくれるアイテムじゃ。出発前には作っておくようにの」
「は、はい」
まるで私なら即座に作れると言わんばかりに、オディーリア様の表情はそれを物語っていた。作る自信は確かにあるけれど……そこまで期待されると、逆に緊張してしまう。
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それから数日が経過した。私はエンゲージの店で雇う人達と面接をし、4名全員の採用を決めた。16歳~22歳までの人達で全員女性だ。男性が来なかったのは、小娘に雇われたくないというプライドがあったのかな?
いや、違うか……4名とも将来は錬金術士や薬屋の経営を考えていると言っていたし、16歳の子は私に憧れて応募したと言ってくれたし……。男性は多分、別の道を考えている人が多いんだと思う。
でもこれ、ライハットさんのハーレム状態になるんじゃないかしら? 大丈夫かな、彼が働きにくくならなければいいけど。
それからさらに少し月日が経過し……いよいよ、大森林への調査の日となった。それぞれの人達が、各々準備を完了させ、首都カタコンベの正門へ集結していた。私もそこへとても緊張しながら混ざって行く。人生初めての冒険……私はそれを体験することになるのだった。




