84話 訪問 3
「カミーユ・シェイドさん……」
私は桜庭亭にズカズカと入って来た彼女に、冷たい視線を送っていた。24歳ということらしいので、表向きは敬語にしているけど、心の中では呼び捨てになってしまっている。
勝ち気なタイプの性格だと思うけど、私は彼女を好きになれそうになかった。
「なによ、その目は? お客様に対しての態度ではないんじゃなくて?」
すぐに私の心の声は看破されてしまった。洞察力がある、歴戦の冒険者……ではなくても、今の私の機械みたいに冷たい態度は誰でも看破出来ていたと思う。
「失礼しました。不快に思われたなら、謝罪します」
「まあ、別にいいわ。私も心の広い人間だからね」
どの口がそれを言うんだろう? 冒険者ギルド内では叫びまくっていたのに……。ライハットさんや、桜庭亭の方を経営しているアミーナさんも、訝しげな表情を見せていた。カミーユの後ろに居る同じ冒険者チームの二人も、考えていることは同じみたいね。
「チンケなアイテム屋に、このヘビーメタル様が来てやったんだから、感謝しなさい」
「は、はあ……」
私はどこまでも高圧的な彼女を前にして、乾いた言葉しか出て来なかった。しかし、周囲の反応は別だ。
「あれって、ヘビーメタルだよな?」
「すげぇ、初めて見たぜ……」
周囲の冒険者の視線は尊敬の眼差しそのものだった。カミーユは当然とばかりに、スタイルの良い身体を前に突き出している。男性からしたら、誘われていると勘違いしてしまうかもしれない。女の私から見ても、そのポーズは美しいと思えたから。
まあ、近づいた瞬間に八つ裂きにされそうだけど……。
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「ふ~ん、店の前にデカデカと表記していた内容は事実みたいね」
「うわ、カミーユさん……?」
カミーユはサイフォスさんの肩に手を置き、体重を掛けるようにして、店の品揃えを確認していた。体重を掛けられている、困った様子を見せていた。
「はい。店の前の看板に嘘を書くわけにはいかないので……」
「へえ、エリクサーや蘇生薬や万能薬もちゃんとあるのね。あの、シグルド・バーゼルが言うだけのことはあるってことかしら? まあ、価格が法外だけどね~」
価格については他と比べることが出来ないので、そう言われても仕方ないのかもしれない。オディーリア様は、この価格で問題ないって言ってくれていたけれど。それから、シグルドさんもだっけ。
カミーユはおそらく、自らの冒険の経験で語っているはず。魔物が落とすエリクサーや、宝箱から入手できる確率とを天秤に掛けているって感じかしら?
と、それはともかくとして……いい加減、体重を掛けられて困っているサイフォスさんが可哀想に思えて来た。
「あの、カミーユさん? サイフォスさんが困っているみたいですので、彼の肩に手を掛けるの止めてもらえませんか?」
「あ、アイラ……」
私の言葉にサイフォスさんは、嬉しそうな表情を見せていた。やっぱり、カミーユの行動は迷惑みたいね。
「ん~~? あんたって、サイフォスに気でもあるわけ?」
「どうしてそういう話になるんですかね? 別にそういうわけではないですけど、サイフォスさんが明らかに迷惑しているでしょう? それを注意しただけです」
「……」
私は中途半端に言っても意味はないと考えて、最後まで言葉を放った。怒涛の連続の暴言が返ってくることを想定していたけど、カミーユは意外にも無言状態だ。
「ま、分かったわよ。それから、あんたの実力をほんの少しだけ見誤っていたみたいね」
そう言いながら、彼女はサイフォスさんから離れた。それから私に睨みをきかせる。その蛇のような瞳が私を恐怖で縮こまらせていた。だから、こっちは一般人なんだから、いちいち威嚇しないで欲しい。
「ただし、アイテム士が冒険にとって足手まといという事実は変わらないけどね。例えば、私が攻撃魔法による最強の矛になって、そこに居るサイフォスが盾として活躍、オマケに回復魔法の支援を行えばあんたの出る幕はないわ」
いつの間にか、冒険者パーティの役割分担の話になっているのには驚いた。なぜか私がパーティメンバーに入っている前提で進んでいるし……それから、サイフォスさんが入っているのも可哀想だった。これは単純に、自分が一番優秀だと言いたいのかしら? 最高の魔導士である自分にはアイテムなんていらない……回復要員は特別に入れてあげる、みたいな?
「済まない、アイラ。失礼させてもらってもいいかな?」
「あ、クリフト様……!」
「えっ、クリフト……?」
カミーユとサイフォスさんと会話をしていた時、桜庭亭にクリフト様が入って来た。なんともすごいタイミングだわ、まさか、この状況でいらっしゃるなんて。
クリフト、という言葉と彼の格好にカミーユとサイフォスさんは驚いているみたい。おそらく、王子殿下だと気付いたんでしょうね。
「は、はい。如何なさいましたか?」
「ああ、実は東に位置する大森林に強力な魔物の姿が目撃されている。近くの村々に被害が出る前に、調査する必要が出て来た」
「それをクリフト様が行うのですか?」
「冒険者を雇う予定ではあるが、私も向かうことになるだろう。今はデリケートな時期だからな」
デリケートな時期……それは多分、ユリウス殿下のことが含まれているんだと思う。国民からの信頼失墜を避ける為に、クリフト様が向かうという手筈かな? 王族って色々と大変ね、本当に。
「それで……その為に、回復アイテムを売って欲しいんだが」
「はい、畏まりました」
「へえ、東の森の魔物ねぇ……それは面白そうだわ」
「君は?」
「私は冒険者パーティ、ヘビーメタルのリーダーであるカミーユ・シェイドよ。あなたはクリフト・ホーミング王子殿下よね?」
「そうだが……」
「やっぱり。なるほどなるほど、本命は彼ってわけね」
「? どういうことだ?」
カミーユは不気味に笑いながら、私とクリフト様を交互に見比べていた。なんか、ものすごい勘違いをしている気がする……本命、ていうのは正しいのかもしれないけどさ。
「クリフト王子殿下……」
「……?」
と、その時、サイフォスさんが一言、クリフト様の名前を呼んだ気がした。それから、私の方へと視線を向けている。そしてすぐに別の方向へと視線を移動させた。どういう意味があったのかは分からないけれど、少しだけ身震いをしてしまった……。




