8話 ユリウス殿下 1 (一人称ユリウスに変更)
「首尾はどうだ?」
「これはユリウス様……おはようございます」
「ああ、おはよう」
私は朝早くに、宮殿内にある錬金施設を訪れていた。この場所は、錬金術士が薬などを調合する際に必須の物が用意されている。そして、宮殿内の施設設備は最新鋭と来たものだ。王国中は当然として、周辺国家と比較しても、ここまでの最新設備はないかもしれない。
それだけ、私はこの設備に自信を持っていた。少し前までは、アイラという平民出の錬金術士が利用していたが、現在はそれに代わる3名の貴族令嬢が利用している。宮殿内や貴族街は神聖不可侵の場所だ……そこを通る者も、それに見合った者でなくてはならない。
国民や周辺国家にも示しがつかないからな。
「はい、まだ全ての機能を使えているわけではありませんが、幾つかの回復薬の量産体制には成功しています」
私に話しかけて来ている錬金術士は侯爵令嬢のテレーズだ。3人の錬金術士の中では一番位が高い。器量も良いので、将来的には私の妻に、とも考えてはいるのだが……。
「幾つかの回復薬だが……具体的には?」
「はい、毒消し薬と初級回復薬になります。あとは……目薬の調合に関しても、もう少しかと」
「……そうか」
「はい。このテレーズ、ユリウス様のご期待に添えるように、精一杯努力して参ります。他の2人と共に」
「そうだな……頑張ってくれ」
ふむ、精一杯努力して参ります、と来たか。3人の錬金術士が最新設備のある、この施設を利用している。最初に利用をしてから既に10日以上だ。私は何か、わだかまりのような感情を抱いていた。
「テレーズ」
「はい、なんでしょうか? ユリウス様」
「お前たち3人で調合できる薬の種類は何種類だ?」
「はい、私が初級回復薬と目薬の2種類です。あとの二人は毒消し薬と初級回復薬でそれぞれ1種類ですね」
この者達に錬金術士という肩書きが付いたのは最近のことだ。それ相応の才能を見出したからだが。いくらなんでも少なくないか? これでは錬金術士ではなく、ただの薬士ではないのか? いや、ここにある最新設備と組み合わせれば、どんどん種類を増やしていくことは出来るだろう。まだ、焦る必要はない。
「テレーズ……しっかりと、錬金術士として頑張るようにな」
「畏まりました、ユリウス様」
大丈夫だ、特に問題などない。だが……あの小娘、アイラはどの程度の種類の薬を作っていた? 目の前に居る侯爵令嬢にして、私の運命の相手になるであろう美女と比べるなど、いささか腹立たしいものではあるが……。
私は内心では癇癪を起こしながらも、アイラ・ステイトについて考えを巡らせることにした。