78話 冒険者ギルド 1
私はその日、冒険者ギルドを訪れていた。ちょうど、ユリウス殿下が幽閉されてから1週間が経過している。まだ、罰については公表されてはいないけど。
「というわけで、アイラちゃん! 従業員の件なんだが!」
「は、はい……」
ギルドマスターのサイモン・デュエイさんは、張り切った雰囲気で私に話しかけていた。以前にお願いした従業員募集の結果発表をされているけど、妙にテンションの高いサイモンさんに若干付いて行けていない。
「4人からの応募があったよ。簡単に身元のチェックはしているが、4人とも特に問題なしと言えるだろう」
「なるほど、4人ですか」
サイモンさんはどうやら、身元チェックまでしてくれたみたい。まあ、オディーリア様が言っていた、私にも護衛が必要だという言葉は気になるから、従業員を選ぶにしてもちゃんとした身分であった方がいいものね。基本的には全員採用する予定だけれど。
「しかしまあ、薬屋エンゲージで働いた経験があるってのは、相当な箔になるだろうな。4人ともその辺りを狙っているようだぜ」
「ていうことは、将来は独立してお店経営とか考えている人達なんですか?」
「まあ、そうだろうな。将来の成り上がりの為の布石……まさに、冒険者と同じような考えの連中ってわけだ」
「冒険者と同じ考えなんですか?」
私の質問にサイモンさんは大きく頷いていた。どういう意味か興味が出て来る。
「冒険者ってのは、個人にしろパーティにしろ、より高ランク……冒険者序列の上位を目指すのが基本だからな」
「私は冒険者のことは詳しくないですけど……序列とかあったんですか?」
「まあな、細かく順位で決まってるぜ? そうすることで、冒険者にとってもやる気に繋がるんだよ。もちろん、月々の給料にも差が出たりするからな」
「えっ? 冒険者って給料制なんですか?」
意外な事実に私は驚いた。
「いやまあ、固定給も存在しているってだけだ。実際には、直接の依頼等で稼ぐのが基本ではあるな。あとは、希少な素材や鉱石の類いを売ったりして稼ぐ連中も居る」
「なるほど……色々な稼ぎ方法があるんですね」
「そうだな、強力な魔物を倒すだけでも、その毛皮などで相当な稼ぎになるからな。冒険者ってのはまさに一攫千金、夢の仕事ってわけだ」
なるほど、そんなに夢のある仕事なら、冒険者序列というものが存在しても不思議ではないのかもしれない。自分の位置を把握して優越感に浸ったり、さらに上を目指せる指標は確かにあった方がいいわよね。私は今更ながら感心していた。
まあその分、危険な職業ではあるんだろうけど。
「例えば、レッグ・ターナー氏の所属している冒険者パーティのランクは、14位だ! 大陸中で何十万人居るかわからない冒険者の中で14位と言えば、どのくらいの領域かはよくわかるだろう?」
「確かに……14位は凄いですね」
レッグさんは剣士として切り込み隊長をやっていると、本人からも聞いたことがある。あの人一人の力ではないだろうけど、それでも14位の冒険者パーティで切り込み隊長が出来るというだけで凄いと思えた。
そう考えると、シグルドさんの順位が気になって来るわね。ちょっと、サイモンさんに聞いてみようかな。私はサイモンさんにシグルドさんの順位について尋ねようとした、と、その時……冒険者ギルドに入って来る複数の人々。かなり荒っぽい気質なのか、扉の開け方が乱暴だった。
「しまった……そういや、序列上位5位以内の連中で行われる冒険者会議の日程は明日だったか」
ギルドマスターであるサイモンさんが、入って来た人々の顔ぶれを見ながら、明らかに険しい顔つきになっていた。入って来た人々は3人……同じ冒険者パーティみたいだけれど。真ん中に立っている女性はピンク色の短い髪に十字架のピアスが特徴の美人……だけれど、煙草を吹かしながら乱暴に近くのソファに腰を掛けていた。両側に大胆なスリットが入ったドレス? を身に着けている。
オディーリア様とは違って生足だから下品なほどに肌を露出していた。でも、男性の視線を釘付けには出来ると思う。すごく美人だったから。
「はあ~~あ、なんでこの私が冒険者会議になんて出ないといけないのよ? あんた達二人だけで出れば良いじゃない」
「いや、カミーユ。そうもいかねぇんだよ……冒険者会議はパーティのリーダーが出る決まりだからな」
「はあ……面倒ったら、ありゃしないわ」
他の二人はカミーユと呼ばれた女性の部下? に該当するのか、明らかに腰を低くして彼女の機嫌をとっているようだった。
冒険者ギルド内の雰囲気が明らかに変わってしまった。それだけ、彼女たちの存在感が強いことを意味しているのだけれど。サイモンさんの言っていたことが本当なら、彼女たちは冒険者序列5位以内に入っているってことよね? 冒険者会議っていうのが、そもそも何なのかわからないけど。
私は遠巻きに彼女たちの様子を伺っていた。まあ、冒険者序列が高かろうと、一介の薬屋でしかない私には縁のない人物だろうから。そんな風に考えていると……。
「ん? あんたって、アイラ・ステイトでしょ?」
「えっ……!?」
いきなり、カミーユという人物に話しかけられてしまった。彼女は座っていたソファから立ち上がると、ツカツカと威圧感を放ちながら私に近づいて来た。
「確か、奇跡の錬金術士とかって言われている……薬屋だったっけ?」
「そ、そうですけど……あなたは?」
「私の名前はカミーユ・シェイドよ。私の名前を知らないなんて、随分と世間知らずな小娘なのね」
なんだか、あんまり好きになれそうにない性格かも……こういう強気な女性は好きな方だけど、この人はちょっと違う。なんだか、差別意識が強いように思えたから。
「まあ、アイテム士なんて所詮はアイテム製造しか出来ない役立たずだしね。私みたいな一流の魔導士の前では、全て二流に成り下がる……みたいな? きゃはははははっ!」
「……」
なんだか、物凄く失礼なことを言われている気がする……この人は魔導士なのか。アイテム製造しかできない……私はその言葉になぜか、強い反発感を覚えてしまっていた。




