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75話 アイラと言う才能 2


「では僭越ながら、私が錬金勝負の審判役をさせてもらおう」


 そう言いながら、クリフト様はやや照れながら咳払いをする。


「制限時間は30分、その間に作れたアイテムのレベル、数の総合で勝敗を決するものとする。異論はないな?」


「はい、私は大丈夫です」


「こっちも問題ないで」


「俺もだ、問題はねぇぜ!」


「よし、では早速、錬金勝負を開始して……ん?」



 キース姉弟の店は、現在は閉店している時間だ。大通りに面しているから人通りはまだ多いけれど……明らかに私達の存在に気付いて歩みを早める人が居た。カエサルさんとシグルドさんの二人だ。


「カエサルさん、シグルドさんも……!」


 私は偶然のタイミングでの出会いに、ついつい声が裏返ってしまった。まさか、これから錬金勝負を始めようとしたところで会うとは思ってなかったし。


「薬屋キースファミリーの前で何をしているんだ? クリフト王子殿下まで……」


 カエサルさんは不思議な表情になっていた。確かに、事情を知らないと訳が分からないと思う。


「ええと、実はですね」


 とりあえず、私は二人に錬金勝負について話すことにした。



------------------------------



「ほう……錬金勝負か。それはまた、血がたぎる名前だな」


 私が錬金勝負の説明をし終えると、明らかに食い付いたのはシグルドさんだ。毎日のように、危険なダンジョンから宝や素材等を集めている彼ならではと言えるかしら? その間にも、何体もの魔物を倒しているんだろうし、種類は違うけど「勝負」という言葉には興味があるのかもしれない。



 シグルドさん程ではないけど、カエサルさんも興味津々といった表情で私を見ていた。


「なるほど、では俺もここで見学をして良いかな? 君の店の顧客になって見えて来た、アイラ・ステイトという才能……君の錬金術を間近で見られるチャンスはそうないからな」


「いえ、そう言ってもらえるのは有り難いですけど……」


 カエサルさんもシグルドさんも、錬金勝負を見学していく気、満々のようだ。別にそれ自体は問題ないけど、なんだか顧客の二人に見られてると調子が狂うわ。そんな私達の会話を呆気に取られた表情で見ているのは、キース姉弟だった。そういえば、カエサルさんとは同じ国同士だっけ。



「カエサル・ブレイズさんやんな?」


「ああ、そうだが? キース公爵令息と令嬢、かな?」


 そういえばキース姉弟って公爵家系の人だっけ? 忘れてたわ……。不敬罪にならないといいけれど。


「そうやで、エミリー・キース言うねん。こっちがローランド・キースや。こうして話すのは初めてやな」


「確かそうだったか、以前にアイラの店で見かけたことはあったが」


「風来坊とは言われてるけど、あの伝説の医者とお近づきになれるのは、滅多にないことやで。今の内にサインでも貰っとこうかな」


「姉貴、俺のも頼むぜ」


 なんだか、キース姉弟が可愛らしかった。双性錬金を操るシンガイア帝国最高の錬金術師……そんな二人がカエサルさんにサインを要求している場面ほど珍しいものはないのかもしれない。シグルドさんはその光景には興味なさそうに、明後日の方向に目をやっていた。


「どうかしました?」


「お前、護衛でも付けたのか?」


「はい?」


 私の周囲に人影はないはず……事実、シグルドさん以外の誰にも指摘されたことはない。実際には五芒星の二人が守りに入ってくれてはいるんだけど、彼がそれを知っているはずはなかった。


「……どういうことでしょうか?」


「以前のダンジョン内に似たような透明化の魔物が居てな。俺の感覚は他の人間とは違うんだよ」


 あ、そういうことか。この人は常に死が隣にある状況で生き抜いてるんだった。インビジブルローブくらいなら、簡単に看破できるということか。カエサルさんとシグルドさんの凄さが改めてわかる状況になった。ていうかこの二人、結構、仲が良いんじゃないの? 二人一緒に私達のところに来たんだし。

 以前の会食が功を奏したのかもしれないわね。突然の有名人の登場に、錬金勝負の印象が弱くなっていた。


「とりあえず、錬金勝負を始めないか? 会話については後からでも可能だろう?」


「あ、そうですね」


「はいは~~い、ほんならやりましょか! カエサルさん、ウチらが勝ったら定期購入はキースファミリーに替えてや。シグルドさんも頼むで~~」


「ちょっと! 勝手に変な条件付けないでよ!」


 冗談だとは思うけど、エミリーはこの錬金勝負でカエサルさんとシグルドさんという、強力な顧客を奪おうとしていた。私は思わず反論してしまう。


「ま、俺は構わねぇが?」


「ちょっとシグルドさん……」


「そこのキース姉弟とやらが、本当にアイラ・ステイト以上なのだとしたらの話だがな」


「……」


 これは私の実力を買ってくれているってことかしら? 完璧な実力主義……最高クラスの冒険者ならではの言葉ね。


「俺は考えさせてもらおう。君たち二人が、アイラ以上に望むアイテムを作れるか次第だからな」


 カエサルさんも言い方は違うけれど、実力主義の一面を匂わせていた。


「姉貴、これは負けられねぇな!」


「ホンマやな……売り上げ勝負の逆転にも繋がって来る一戦やで!」


 売り上げ勝負の逆転にも繋がって来るという言葉に、私は警戒心を露にした。確かにその通りかもしれない……私のお店でもカエサルさんとシグルドさんは重要な顧客なんだし。その二人が丸々、キース姉弟の店に行けばどうなるか分からない。


 決して負けられない錬金勝負が開幕しようとしていた……と、格好つけて言ってみる。

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