73話 ユリウス断罪 5
ユリウス殿下はその日の内に、地下牢へと幽閉されることになった。何か緊急事態がない限り、いくら王族とはいえ自由に出ることはできないみたい。彼は結局、謝罪の意を表明することなく肩の力を落としたまま地下牢へと入って行った。
それにしても、王族御用達の地下牢とはね……。
「見た目はほとんど客室と変わりなかったですね」
「それはそうだな。元々は宮殿を設計した人物が作った代物だからな。デザインを新しく考えるのが面倒で、王族御用達の地下牢は同じような間取りにしたのかもしれん」
そう考えると、可愛い理由な気もする。本当に鉄格子が付いている以外は「王族御用達」の部屋って感じだったし。過去の歴史の中で何人くらいが、あの地下牢を使ったんだろうか?
「ユリウス殿下……」
「オーフェン様、お気を確かに」
「いえ、テレーズ殿……私は大丈夫です。ただ、ユリウス殿下は最後まで謝罪をすることがありませんでしたから」
「それは私も残念に思っています。一時期は、彼に好意を抱いていましたから」
テレーズさんは大胆な発言をしていた。本来なら、野次が飛ぶのかもしれないけど、とてもそんな雰囲気ではない。二人とも本当に残念そうにしていた。
「二人の気持ちはとても良く分かる。兄である私も残念で仕方ない程だからな。だが、とりあえずこれで、一件落着といったところか」
「はい、そうかもしれませんね」
まだ、ユリウス殿下への罰などは発表されていないので、先走りが過ぎるかもしれないけど、一件落着と言ってしまっても良いと思う。もう、ユリウス殿下は勝手な暴走は不可能なんだから。
それから……。
「あの、クリフト様」
「どうした、アイラ?」
「キース姉弟に何か罰が下るなんていうこと……ありませんよね?」
念の為、私は尋ねてみることにした。あの二人はユリウス殿下の協力者だったわけだから。いや、ユリウス殿下を利用していただけかもしれないけど。
「キース姉弟に関しては、特に罰を与えることは考えていない。そんなことをすれば、シンガイア帝国との摩擦になりかねないからな」
「でも、ユリウス殿下は確か、彼らにホーミング王国の錬金設備の秘密を話すと言ってませんでしたか?」
確か以前の錬金勝負で、そんな約束があったと聞いているし。
「そういえば、そんなこともあったか。まあ、あの二人になら多少の秘密を漏らしても問題はないだろうが……そうだ、アイラ。よければ協力してもらえないだろうか?」
「えっ、協力ですか?」
「そう、協力だ。ホーミング王国が錬金勝負で負けたままなのは、やはりあまり好ましいことではない。そこでだな……」
なんていうか、先は見えて来たけど。この時のクリフト様の表情はいたずらっ子のそれになっていた。クリフト様もまだまだ少年の心をお持ちなのかしら?
つまり、クリフト様は私とキース姉弟の錬金勝負を考えていたわけで……あわよくば、シンガイア帝国の秘密を手に入れようと考えていたんでしょうね。




