72話 ユリウス断罪 4
「ユリウス・ホーミング王子殿下は、アイラ・ステイト殿を不当に解雇し錬金術を私物化しようと企んでいたものであり……」
崩れ落ちたユリウス殿下を尻目に、議長は罪状を読み上げている。私を理不尽に解雇したのは事実だけど、錬金術の私物化……? 最初の方はともかく、他国のキース姉弟を切り札に据えたりしたのは、私物化と思われても仕方ないかもしれないわね。
さらに、罪状は私とキース姉弟の売り上げ勝負にまで進んでいた。崩れ落ちたユリウス殿下……放心状態であり、せっかく来てくれたテレーズさんとオーフェンさんはどうしたらいいのか分からない状態になっていた。
「……以上の罪について、審議をいたします。ユリウス殿下は罰が決定するまでの間、王族御用達の地下牢でお寛ぎください」
王族御用達の地下牢? そんなのあったんだ。なんだか不思議な名称だ、王族御用達なのに地下牢っている言葉のギャップというか。
「クリフト様、王族御用達の地下牢って……なんでしょうか?」
「ああ、アイラは知らないのか。王族や貴族の為の、牢屋というものが、この国には用意されていてだな」
「ええ、そんなのあるんですか?」
「ああ……しかも、まあなんというのか」
「?」
なんだかクリフト様は言いにくそうにしている。なんだろう、これ以上聞いたら不味いのかな?
「聞いたら不味かったでしょうか?」
「いや、決してそういうわけではないんだが……」
「大丈夫ですよ、アイラ。確かにあの場所の存在はどうかしていると思いますし、罪を犯した者、罰が必要な方に区別をするのは良くないことだと思いますので」
「テレーズさん」
そう言いながら、私達の話に入って来たのはテレーズさんだ。言いにくそうにしていたクリフト様の代わりをしてくれるみたいな。
「王族御用達の地下牢……つまりは地下牢という名の豪華な部屋なのです。鉄格子や見張りは居ますので、外に出ることは出来ないですがトイレやお風呂も完備されています。ホーミング王国の歴史……といったところでしょうか」
「なるほど、そういうことですか……」
聞く人によっては、一気にホーミング王国の印象が悪くなりそうな内容だった。罪人とはいえ、貴族階級は特別扱いというわけだ。他の罪人と明らかに区別をしている。
「ま、まて……! 私があの地下牢に行くのか? そ、それではまるで……! 罪人みたいではないか!」
「……」
ユリウス殿下は放心状態から急に覚醒していた。この人は何を言ってるんだろうか……普通の地下牢でもいいくらいなのに、わざわざ王族御用達の地下牢にしてもらっておきながら、この言い草。間違いなく、王家の印象を悪くしているのはユリウス殿下だ。
議長たちも呆れ過ぎて、ため息を漏らしているようだった。
「ユリウス殿下……」
テレーズさんも最早、何も言えない状態。その表情は憎しみさえ滲ませていた。そして、クリフト様がユリウス殿下に話しかける。
「ユリウス」
「兄上! 頼む、なんとかしてくれ! 最早、私には肉親以外に頼る相手が居ないのだ!」
とうとう、今まで敵対していたクリフト様に泣きつき始めたユリウス殿下。これは流石に笑えない……。本当に一発くらい殴った方がいいんじゃないだろうか? そんなことを思っていると……。
「ユリウス、お前は罪人だ。自らの不始末で起こした事態、その責任は自らをもって償うんだな」
「あ、兄上…!? 嘘だろう……!? 私達は兄弟だろう!?」
「兄弟だからこそ、だ。お前の行動は度が過ぎた。ここらで失脚するのが筋だろう」
「そ、そんな……! 私の国王への道は……! うわぁぁぁぁぁぁ!!」
クリフト様は差し伸べられていた、ユリウス殿下の両手を激しく振り払い、冷淡な言葉を告げた。ユリウス殿下はその場に再び崩れ落ち、本気で泣き叫んでいる。ユリウス断罪……ここに成した感じかしら。




