68話 錬金術士の格差 2
「あれ? エミリーじゃない、あなたから来るなんて珍しくない?」
「そうか~?」
「そうでしょ」
キース姉弟の片割れであるエミリー。特徴的な話し方で人当たりの良い、陽気な人物。私の商売敵として目の前に店を構える強気さを見せている人物でもある。
大通りを挟んで向かいの距離だけど、彼女の方から「エンゲージ」……桜庭亭内を訪れるのは珍しいと言える。これは何か、考えがあって来たわね。私はそう睨んでいた。
ライハットさんも何も言わないけど、何か狙いがあることには気付いていると思う。
「どうや? 売り上げの方は?」
「順調に伸びているわよ。あなたの方こそ、順調なんでしょ?」
「そうやな、やっぱり、シンガイア帝国から直接装備品の素材が供給されるのは大きいで」
国家規模で個人の店を支援……確かにこれは強いと言える。素材の価格とかあんまり気にしなくて良さそうだし。というより、国民がみんなで分かち合って、その素材の代金を支払っているようなものだろうしね。
「私だって負けてないわよ? お得意様には、あんたの国のお医者様、カエサル・ブレイズさんが居るんだし」
「そうらしいな……あの医者を味方に付けたんはデカそうやな。定期的にアイテムの納品するだけで、高収入が約束されるやん」
「まあ、そういうことね」
キース姉弟と同じく、カエサルさんも祖国ではかなり有名な医者みたいね。なんとなく、そんな気はしていたけれど。定期的な収入とはいえ、カエサルさんの診療所への納品額は相当なものだ。そういう意味では、十分な収入源と言えた。
「他に定期的なお得意様とかおんの? やっぱ、冒険者とかやろ?」
「それはまあ……」
「ウチも冒険者の皆さんが収入源やからな~」
まあ、武器防具を売っている時点でそうなるとは思う。でも、シグルドさんが「キースファミリー」で購入しているのは見たことないわね。
「私のところには、シグルドさんて人が来るけど、エミリーは知ってる?」
とりあえず、冒険者界隈では有名だろう彼の名前をあげてみた。すると、彼女の表情はたちまち変化していく……。
-----------------------------------
「シグルドって、あの冒険者のシグルド・バーゼルのことか?」
「そうだけど……店に入って来る姿とか見たことない? 結構、頻繁に来てくれるんだけどさ」
「いや、確かにそう言われれば……カエサル先生だけやなくて……これは不味いで」
明らかに先ほどまでとは、エミリーの態度が変わっている。カエサルさんとシグルドさんの二人のネームバリューは、シンガイア帝国最高の錬金術士をも黙らせるほどだったのね。
エミリーの場合、同じ国出身だしカエサルさんに驚くのは分かるけど、シグルドさんの活動拠点はここホーミング王国のはずだし。それでも、ここまでの影響力を持っているっていうのは本当に凄いと思う。
「シグルド、なぜお前と並んで歩かないといけないのだ? 時間をずらして貰えると助かるんだが……」
あれ? なんだか聞き覚えのある声が聞こえて来たような……私とエミリーは自然とその声に反応し振り返っていた。
「それはこっちのセリフだ。なぜ俺が、てめぇの為に気を使ってやらないといけないんだ」
「……お前、アイラが狙いではないだろうな?」
「てめぇは、あのガキが好みなのか? おめでたい野郎だ」
「……ガキ?」
入って来たのはカエサルさんとシグルドさんの二人。私のお店に多大な貢献をしてくれている顧客だった。ていうか、二人は並んで歩いているけど、相性が良くないのか言い争いになってるし。いや、シグルドさんは冷静に受け流してる感じかな? というか、ガキとか失礼しちゃう。確かに二人から見るとガキだけど、これでもレディなんだからね!
入って来た二人にエミリーは度肝を抜かされているようだった。私の言ったことの裏付けが取れたようなものだから、当然かもしれないけど、こんなに驚いている彼女は珍しい。
「アイラ、今度の医薬品の調達の件で少し時間をいただけないだろうか? 来月の為に、相当量のアイテムの買い置きをしておきたいのだが……」
「は、わかりました。少しだけ、待っていただいても構いませんか?」
「ああ、当然だ。待っているさ」
「ありがとうございます」
カエサルさんは予想通り、来月のアイテム納品の件だった。それから、シグルドさんは……。
「エリクサー5個と万能薬を5個貰おうか。それから、蘇生薬も5個だ」
相変わらずの、気持ちが良い大人買い。全部で15万スレイブもするけれど、彼の場合は、冒険でそれらを十分に回収できるんでしょうね。
「今回のダンジョンはどこなんです?」
「カタコンベから南へ20キロメートル地点にある新ダンジョンだ」
「20キロ……比較的、近いですよね」
「ああ、日帰りも可能だからな。ただし、新しいダンジョンの為、油断は禁物だ。中級者以上でなければ、近づかないように指示も出ているからな」
「なるほど……」
確かそのダンジョンの名称はメビウス地方って地域名から「メビウスダンジョン」と呼ばれていた気がする。何人かの冒険者の人々も話していたしね。
私は当然、冒険そのものについては何も出来ないけれど、こうやって支援させてもらうことは出来る。シグルドさんが良く来られることと、エリクサーなどの秘薬が売られている情報が拡散している影響で、彼には及ばなくてもかなり優秀な冒険者の皆さんが来てくれるようになった。
こうした様々な人達と出会って楽しんで、お店の売り上げを伸ばして行く経営は、楽しくてしょうがない。私は本当に恵まれているんだと実感も出来るしね。
「これは、ホンマに凄いな……とても勝たれへんわ……」
私達3人の会話を傍らで聞いていたエミリーは、静かに肩を落としていた。彼女の表情と言葉から、はっきりとわかった……私達の売り上げ勝負は、この段階で既に決着していたのだと。




