62話 キース姉弟の策 4
「ちょっと、あんた達。何してるのよ?」
「ん? どういう意味だ?」
「あれ、アイラやん。はは~~ん、自分の店の売り上げが心配になって出て来たな?」
「いや、別にそういうことじゃなくて……」
ちょっとだけ焦ったのは事実だけど、装備品を錬金で作っている二人に驚いて出て来たのよ、と彼らに伝える。しかも、「キースファミリー」が建つ前には鍛冶屋さんのあった場所だし。
「なるほど……前の鍛冶屋システムも利用することで、装備品の調合を素早く行っているわけね」
「そういうことやで。トムさんやったかな? あの人の技術も色々と拝借して……この通りや!」
「すごい……」
キースファミリーのお店の前には冒険者のお客さんの列が出来ていた。現在、対応しているのは何人かの従業員と思しき人達で、二人は接客そのものはしていない。多分、ユリウス殿下が配置した部下なんだろうけど、そういう面でもこちらは不利になっているかもしれないわね。
「アイラ……勝負はここからやで? あんたも品揃え増やさんと、いつまでも殿様商売は出来へんのと違う?」
「そんなことわかってるわよ」
既にその手の手配は完了している。後は素材が到着するのを待つだけ。それにしても……。
「ねえ、エミリー」
「ん? なんや?」
「殺戮兵器とかは作らないようにね。今でも処罰の対象になるかもしれないし……」
以前に文献で読んだことがある錬金術の禁忌。1000年前にこの地方で栄えていたとされる錬金国家には禁忌の錬金術なるものが存在していた。それらを錬成すれば、死刑に処せられる程の重罪……その一つが殺戮兵器の精製だったはず。
具体的には毒ガスとか、惚れ薬とかそのあたりだったと思うけど。正直、ダークポーションとかポイズンポーションとか作ってる私もグレーゾーンな気はするけれど、彼女たちも相当にグレーゾーンだった。
「わかってるって。ウチらはあくまでも、剣とか鎧、盾とかしか作ってないし。ただし、並の鍛冶屋よりも高性能な品物やけどな」
「それならいいんだけど……」
まあ、1000年前の法律が今に適用されるとは思ないけど、念の為にね。それにしても、この冒険者の数は少しだけ不味いかもしれない。私の店に来てくれていた人達も流れて行く可能性だってあるわけだし……これは負けられないわ!
「エミリー、ローランド。負けないわよ!」
「望むところやで」
「はっ、せいぜい、楽しませてくれよ!」
挑戦的な二人には私は自然と笑顔になっていた。二人がどう思っているのかは分からないけれど、私からすれば友人関係は築けているようなものだ。こうしてまた、友達が出来たのだから嬉しいに決まってる。トムおじさんだって、キース姉弟ほどの錬金術士に鍛冶屋を利用してもらって喜んでいるんじゃないかしら?
でもまあ、頭にちらつくユリウス殿下の顔だけは許しがたかったけどね。本当の勝負はここからだ……私は微塵も負けるつもりなんてなかったけれど。




