60話 キース姉弟の策 2
「で? この素材を俺に調達してこいってことか?」
「はい……駄目ですかね?」
私は現在、万能薬の素材調達を冒険者の方に直接依頼している。しかも相手は、シグルドさんだ。私の隣に立っているライハットさんも警戒心を露にしていた。
「アイラ殿、もう少し離れてください……! このとてつもない闘気、アイラ殿に危害を及ぼす可能性があります!」
「ら、ライハットさん……!」
「私が命に代えてもお守りいたします!」
私は潤んだ目線で彼の後ろに隠れた。シグルドさんがその気になれば、数秒以内にライハットさんを気絶させて、私も餌食にされてしまうだろう。そう確信させるほど、彼には凄みがあった。
「おい……そろそろ、突っ込んでいいのか?」
「もう、シグルドさん。面白味がないんだから」
「てめぇらの漫才に付き合ってる程、こっちも暇じゃねぇんだよ」
呆れた声で彼は言ってのける。とまあ、ここまでの一連の流れは即興のお遊びみたいなものだった。ライハットさんのノリの良さは面白かったけれど、シグルドさんは興味を示していなかった。雰囲気が解れたのはいいけれど、彼からしてみれば迷惑だったかもしれない。
「万能薬の素材に使えそうなんですけど、調達そのものが一流の冒険者でもキツイらしくて」
「そうだな……影見草なんざ、大陸の北の果てにしか咲いてない。強力なドラゴンが生息している地域だからな。並みの冒険者が行ったところで、確実に死ぬだろう」
うわぁ、冒険者の人々ってそういう魔物と戦いまくってるんだやっぱり……改めて、彼らの大変さを思い知った。
「シグルドさんでも厳しいでしょうか?」
「いや、俺なら何とでもなるが……それよりも、南に新たに発見されたメビウスダンジョンという場所がある。そこに影見草を含めたレア素材が取れるとは聞いたことがある。未知なダンジョンの為、厳しい局面もあるかもしれんが、そちらに行く方が時間もかからない」
メビウスダンジョンか……ここから南へ、20キロくらい離れた場所にあるんだっけ? そこで万能薬の素材を揃えられるなら、確かに北の最果て等に行く労力は減るし、ドラゴンとだって戦う必要はないはず。
「お願いできますでしょうか?」
「いいだろう……だが、依頼料は高いぞ?」
「未知のダンジョンに向かってもらうわけですから……覚悟はしてます」
冒険者個人に依頼をするのは今回が初めてではない。それでも、5000スレイブくらいまでが最高だったけど、果たしていくらになるのか……というより、私で支払えるのか不安になってしまった。でも、今回の依頼内容は今までとは比較にならないものだし、シグルドさんの言い値でも仕方がなかった。相場を出そうにも、比べる物がなさすぎる。
「そうだな……7万スレイブってところか」
「7万スレイブ!?」
私より先に反応したのはライハットさんだ。その驚きようは高すぎると感じたんだと思う。
「どうだ、払えるか?」
「まあ、7万スレイブくらいなら……そうですね、お願いできますか?」
「ほう」
確かにそれなりの依頼料になってしまうけれど、今後の売り上げを考えれば、十分に回収できると私は踏んだ。それに、シグルドさんには日ごろからエリクサーなどを買ってもらってるし、それくらいの依頼料を払っても惜しくはないと思う。持ちつ持たれつの関係を築きたいしね。
「よし、決まりだな、契約成立だ。素材調達は俺に任せておけ」
「ありがとうございます、シグルドさん」
「金は貰うんだから、礼など不要だ」
「それもそうでしたね」
「7万スレイブを即金で支払えるアイラ殿……本当に末恐ろしい……」
こうして、シグルドさんへの依頼は締結された。彼は私の店で準備の為のアイテムを購入すると、そのまま立ち去って行く。
エリキシル剤と万能薬の材料調達の目処が立ってきた……キース姉弟がどんな策を持ち出して来ようとも、その上を行ってやるんだから。




