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59話 キース姉弟の策 1 (複数視点あり)


(ユリウス視点)


「なに……100万スレイブだと!?」


「あ~、エリクサーとか売ってる時点で嫌な予感はしとったけど……想像以上やな」


 ぬう……やはりそうなのか? 確かに周辺にある一般的な薬屋と比較した場合、売り上げは天地だとは思うが。どうすればいい……兄上や議会にあれだけの啖呵を切ったのだ。最早、この二人にはなんとしても勝ってもらわねばならん。


「なんとかなるんだろう? なにせ、お前たち二人はシンガイア帝国の至宝と聞いているからな」


 とにかう二人を煽て尽くしてでもやる気にさせなければ。私はあらゆる賞賛の言葉を掛ける準備をしていた。だが……


「別に至宝やないよ。まあ、確かに錬金術の実力で、キース姉弟は公爵っていう地位を獲得はしたけど」


「はっ、そうだったな。しかし、錬金術で実力を証明し続けなければ、その地位も落ちてしまう。結構、必死なんだぜこっちは。王子さん、あんたはそうそう地位の剥奪なんてないだろ?」


 羨ましがっているのか? そんな風には見えないが。弱肉強食の世界か、なるほど。少しだけ、この二人のことが見えて来た気がするな。あの好戦的な性格にも理由があるというわけだ。


「そんな世の中で生きている二人ならば、余計に策は思いつかないのか?」


「100万スレイブ……いや、今後を考えればさらに増加することは間違いないだろう売り上げか。姉貴、どうする? やはり、あれでいくか?」


「あれか……あんまり、乗り気じゃないけどな」


「やっぱりか……だが、それしか勝てる要素はなさそうだぜ?」


「そうやろなぁ……」


 乗り気ではないようだが、何か確かな策があるようだな。流石は私が切り札と見込んだ二人だ。少し前にはシスマ・ラーデュイにも言っていた気がするが。今度ばかりは期待外れにならないことを祈るぞ。


「確かな策なのだろうな? シスマ・ラーデュイのように、期待外れだった……では、済まされんぞ?」


「大丈夫やよ、ユリウス殿下。その代わり、ユリウス殿下にも手伝ってもらう必要があるけど」


「私にか? まあ、アイラに勝てるのであれば構わないが……」


「しかし、シスマ・ラーデュイが期待外れかよ。そんな感想を持っている王子さんの感性の方が、心配になるぜ全く……」


 ローランドはなにやら呆れた物言いを始めていた。まったく、失礼な男だ。今は許してやるが、私が次期国王になった暁には降格処分でも下してやろうか。まあいい……こんな二人でも私が切り札に見ている連中だ。今はせいぜい利用させてもらおう。



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(アイラ視点)


「なんだか、怪しい会話をしていたような……」


 桜庭亭から見て、大通りを挟んで向かい側にある「キースファミリー」。名前を聞いた感じだと、マフィアとかが徒党を組んでそうなイメージがあるけど、そこでキース姉弟とユリウス殿下が話をしているようだった。おそらくは、私の店の売り上げを超える作戦か何かを話してたんだろうけど、こんな目と鼻の先でそんな話をするなんて余裕ね。


「ユリウスはおそらく、何としてでも勝つ気でいるだろう。アイラ、私に出来ることであれば何でも言ってくれ、協力するよ」


「ありがとうござます、クリフト様。それでは、大変恐縮なんですが、ここに書いてある材料の調達をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「よし、わかった。任せてくれ。と言っても、私が直接調達できるわけではないからな、独自のルートで確保してみよう」


「ありがとうございます」


 クリフト様は剣技にも長けているらしいけど、流石に王子様が自由に外への出入りが出来るわけない。今までの材料の供給も配下に命令してたはずだし。


 クリフト様に頼むのは、エリキシル剤の素材。万能薬については、レシピはある程度分かっているけど、材料が入手困難な物が多い。このクラスの材料の調達を頼める人と言えば……。


「シグルドさん……かな」


 ちょっと恐い人だけど、優しさがあるのは既に知っている。万能薬の材料集めを開始する際に、すぐに頼めそうな人が思い浮かぶなんてそうそうないはず。やっぱり横の繋がりって大事よね。なんだか、薬屋「エンゲージ」を開店してから良く分かった気がする。


 こんなこと、国家錬金術士だけをしていたんでは、なかなか学べなかったと思うし。そう考えると、追放されたのも悪くない気がする。でも、ユリウス殿下のことは許さないけどね。


 そんなことを考えながら、お店経営が出来ている今日この頃でした。売り上げ勝負に関してもなんだかんだで楽しんでいる私だった。

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