57話 アイラ追放の件について 2 (ユリウス殿下視点)
「ようこそ、ユリウス・ホーミング王子殿下」
「ああ」
私は議会の構成員たちにぶっきら棒に挨拶を済ませている。私の近くには、テレーズのみならず、兄上やアイラの姿まであるのだ。
「ユリウス殿下……!」
「心配するな、オーフェン」
そして……現在、味方と言えるのはこの男だけか。
テレーズ達と議会からの追求……内容は共にアイラの追放だから、手間を省く為に同時に追求というわけか。なかなか上手い方便だ。明らかに私の失脚を狙って、同時攻撃をしようとしているのは明白なのにだ。
テレーズも随分としたたかになったものだ。これも国家錬金術士としての経験が活きているのか? 外の者達……主に、アイラやシスマと接触するようになってから、彼女は変わったように思える。
浮世離れしていたお嬢様が、一人で生活が出来るようになったような……はははっ、それを少し、嬉しく思ってしまった私はどうかしているな。あれほどアイラのことを憎んでいるのに……テレーズのことはイマイチ、憎むことはできない。これが愛というものか?
「ユリウス殿下、早速ですが、よろしいでしょうか?」
数か月前の彼女と今の彼女は別人だ……芯をしっかりと持っている。私はテレーズからの質問に無言で頷いた。私を攻めることが出来るなら、その力……示してみるがいい。
「議会の方々には失礼かと存じますが、代表してこのテレーズ・バイエルンが質問いたします。ユリウス殿下はなぜ、アイラほどの錬金術士を解雇したのですか?」
さて……どのように答えたものか。この場には侯爵家系を始め、そのクラス、若しくはそれ以上の家系の議会の構成員が私を一斉に睨んでいる。真実を言うことは簡単だ、テレーズも既に知っていることだからな。
「……」
なによりも、追放されられた張本人が無言で私を見ている。私の追放に対して、何も感じていないといった態度に虫唾が走りそうだった……くそ、たかが、平民の分際で。キース姉弟がすぐに追い抜くことにはなるだろうが、薬屋経営も順調と聞いている。たんまりと税金をふんだくってやりたいところだ。
「以前にアイラ・ステイトが言っていた通りだ。私は宮殿内に平民の身分の者が働くのは、ふさわしくないと考えた。だからこそ、兄上の居ない間に、彼女を失脚させたのだ」
「なんと……! ユリウス殿下、以前に貴殿がお出しになった書類には、そのようなことは書かれていなかったと思うが……!?」
「我々に嘘を付いたということか? ホーミング王国の第二王子殿下ともあろうお方が……!」
議会の構成員たちは騒然としている。傍らに佇む、執事であり側近でもあるオーフェンは非常に狼狽えているが、心配することはない。お前が焦ることなど何もない……お前は私の為に本当に良く尽くしてくれた。必ず、勝ち組にしてみせるさ。
「静かにしていただこうか。もう既に、話は通っているだろうが、現在、キース姉弟がアイラ・ステイトの店の前で薬屋を経営している」
「薬屋? 確か、キースファミリーという店だと聞いているが……」
「その通りだ。これは言わば、薬屋経営に伴う売り上げ勝負といったところか。私はそこで切り札を使おうと思っている」
「切り札……?」
まあ、既に使ってはいるのだが。しかし、良い具合に議会の者達は食いついたようだ。テレーズ、兄上、追及の手間を省く為に、同一にしたのは逆効果だったな。
「その通りだ、切り札……アイラ・ステイトを超える姉弟の存在を私は知っている。テレーズ、ミラ、モニカそれからシスマ……彼女たちも優秀な錬金術士ではあったが、アイラには及ばなかった。私はここで切り札を使おうと思う。シンガイア帝国のキース姉弟こそが、真なる錬金術士と言えるだろう」
「キース姉弟……! あの、公爵家系のキース姉弟か……なるほど、それならば……」
アイラ追放に対する答えにはなっていないが、議会は所詮は実力主義だ。このように、私が自信満々に答え、結果を伴う成果を出せば、有耶無耶になる。最初のノルマの時もそうだったな。
「ユリウス殿下……答えになっていないと思いますが……?」
「文句があるなら、議会の構成員に言うんだな。もっとも、いくらバイエルン家といえども、単独ではどうしようもないがな」
「くっ……!」
議会の構成員の中には、バイエルン家以上の家柄の者達も居る。本当に選択を誤ったなテレーズ……私を失脚させたければ、個別に追求をしてくるべきだった。
「ユリウス殿下……」
「ああ、心配はいらない、オーフェン。これで後に行われる祭典で、キース姉弟が優勝すれば、何の問題も起こらないさ」
一人立ちは出来るようになったようだが、まだまだテレーズは甘いと言えよう。いや、私が優秀過ぎるだけか……テレーズを蔑むのは良くないな、ふははははははっ!!
議会を含め、上手く丸め込むことに成功した! 後は……勝つだけだ……! 見ろ、兄上とて先ほどから何も進言してこない。私の作戦に異を唱えるのは難しいとの判断だろう。
「そうか……ユリウスの主張は、あくまでもアイラ以上の実力者を手中に収めた。それで問題なかろう、と言いたいんだな?」
「あ、ああ……その通りだ!!」
私は力強く、兄上の前で頷いてみせた。これでキース姉弟の売り上げがアイラの店を上回れば、現在の国家錬金術士を束ねて、私がホーミング王国の錬金術部門の先頭に立てるはずだ! 私もヘッドハンティングを通して、人類の未来は錬金術に掛かっているという考えも生まれたほどだ。
シンガイア帝国やランドル女王国などよ協力していけば、私の国王の座は揺るぎないものに……。
「アイラ、ちなみに……この3週間の売り上げはいくらくらいだ?」
ん? なんだ急に兄上は……負け惜しみか?
「売り上げ、ですか? いや、そんなパッとは出せないですけど……」
「大体で構わないさ」
「そうですね。やっぱり、カエサルさんとシグルドさんからの収入が大きいので、二人からの売り上げだけでも50万スレイブくらいですかね」
「なに……?」
今、この女はなんと言ったのだ? 50万スレイブだと? いやまさか……聞き間違いだ。たかが、民間の薬屋でそんな売り上げなど……。
「あとは……その他の売り上げが、低くても1日2万は行くので3週間で40万スレイブくらい。合計で100万弱くらいでしょうか」
なんの冗談だ……? はは、冗談に決まっている。私はただ、心の中でそう繰り返していた……。




