55話 売り上げ 4
「あれ? アイラやん、どないしたん?」
「エミリー……」
オディーリア様に会いに行った翌日、私は昼休みにふと、キース姉弟の店に訪れていた。確か私より2歳歳上のエミリーが私に声を掛けてくる。
「ううん、別になんでもないけど」
「なんやの、ぼーっとして、馬車に跳ねられたら大変やで」
「あはは、分かってるわよ、それくらい」
キース姉弟は相変わらず、売り上げを伸ばす為に双性錬金を駆使しているようだ。息の合った双子だからこそ出来るコンビネーションね。サーカスの一団を見るかのように、見物客も増えているみたい。売り上げも相当に伸ばしている可能性は高そう。
「なんなん? 敵情視察でもしてんの?」
「敵情視察……」
「そや、なんてたってウチらと、あんたの店はライバル同士やろ?」
確かにそうだけれど、今回に関して言えば敵情視察というわけじゃない。エミリーにそのことは告げなかったけど。私は昨日のオディーリア様の錬金技能がすっと頭から離れなかったのだ。
技能レベルという意味合いでは分からないけど、あの動作は明らかに酷似していた。それこそ、キース姉弟と同じように。
「いえ、あれは似ていたというよりも……」
私は気付いた時には独り言をつぶやいていた。そして、頭を左右に激しく振ってみせる。オディーリア様はランドル女王国の王家に連なる人物のはず……いや、まさか私がそんなわけ……。なんとなく、嫌な方向というわけじゃないけど、変な方向に想像が膨らんでしまっていた。
「はっ、数十種類ものアイテムを精製している錬金術士様が暗い顔をしているのは滑稽だな」
そんな時、ローランドが私に話しかけて来た。多分、彼なりの挑発をしているんだと思う。
「別に暗い顔をしているわけじゃ……」
「本当か? 俺と姉貴の店、キースファミリーに負けるんじゃないかとか、心配で夜も眠れないんじゃないのか? んん?」
「へ、へえ……言ってくれるじゃない……」
ローランドは相手を自分の土俵に立たせるのが上手い気がする。私も別に悪い気はしないので、敢えて彼の言葉に乗ってみることにした。いつの間にか、オディーリア様の件は薄らいでいる。まあ、深く考えても仕方ないしね。
「ああ、あかんわ……ていうか、アイラも結構、自信家なんやな~」
「え~? これでも一応、えりくさーとか? 蘇生薬は作れますし~~?」
「い、言ってくれるやん……」
思いっきりわざとだけど、私はぶりっ子を強調して自慢してみた。エミリーは引きつった表情になっている。
「おもろいな……でも、ウチらの双性錬金を甘く見てたら痛い目を見るで? ここからは、本格的な売り上げ勝負と行こか?」
「ええ、いいわよ。私も二人みたいな強敵と戦えるのは楽しいし」
そう、これは本音だ。負けるつもりなんて毛頭ないけれど、キース姉弟は悪い人物には見えない。その後ろにはあの人……ユリウス殿下が居るのがやや不安ではあるけど、彼らが私を騙してくるとは考えづらかった。
私には既に、カエサルさんとシグルドさんという強力な顧客が居る。現状で彼らが私に勝てている要素はないはず……だからこそ楽しみでもあった。二人の自信と、今後、どのような戦法を用いて私の上に立とうとしているのか。




