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54話 売り上げ 3


「数万スレイブクラスを支払えるレベルとはな……」


 流石に予想外だったのか、カエサルさんは驚いている様子だった。シグルドさんは上位の冒険者の中でも更に高レベルの位置に居るはずだから、むしろ当然な気はするんだけど。まあ、医者で他国出身のカエサルさんにそこまでの情報を求めるのも酷な話だったかしら。


 なんだか、カエサルさんが落ち込んでいるように見える。


「と言っても、俺がその金額を出しているのは、この女の店の品揃えが良いからだ。それに、どうしても買い物は不定期になるし、アイラからすれば金額が定まらないボーナスのようなものだろう」


 なかなか上手いことを言うわね、シグルドさんって。見た目や話し方からは想像できないけど、結構優しい面があるのかもしれない。


「カエサルと言ったか? お前も医者をして、人々を助けているなら困難も多くあっただろう? 定期的な収入をアイラに届けられる……立派なことじゃねぇか」


「シグルド……そう言われると、なんだか歯痒い気分だ。先ほどまで、冒険者のことを馬鹿にしていた自分が馬鹿みたいに思えてくる」


「考え方の問題だ。確かに冒険者はクズみたいな奴も多いからな。俺は不定期の顧客、お前は定期的な顧客……カテゴリーは異なるが進んでいる道は変わらんだろう」


「はははっ、確かに……そのようだな」



 シグルドさんの話が終わった頃には、カエサルさんの表情は柔らかくなっていた。気のせいか、楽しく昼食を食べているようにも見えるし。


「でも、シグルドさんって意外でした」


「なにがだ?」


「そんな優しい事……ていうか、相手のフォローとか出来るんですね。もっと、ボロカスにしそうなイメージしかなかったので」


「おい……お前は俺をなんだと思ってるんだ?」


 うわぁ……突き刺さるような強烈な視線が、また私を襲って来た。でも、今までよりも楽に見ることが出来ている。シグルドさんっていう人が少し分かったからかな? なんだか、良い意味で二人の雰囲気が分かる昼食になった気がする。




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「こんにちは、オディーリア様」



 カエサルさんとシグルドさんとの食事を終えた後、私はお店エンゲージから少しだけ抜けて、オディーリア様のお店に顔を出していた。宿屋「桜庭亭」の裏側の通りに露店で出店されていた。適当に組み立てたような枠組みが、適当さを物語っている。



「……凄い品揃えですね」



「おお、アイラか。よく来たの、商売敵同士、仲良くしようではないか」



 キース姉弟だけじゃない、オディーリア様も立派な商売敵だ。やっぱり、周囲を見渡しても護衛の姿は見受けられない。ランドル女王国の次期女王がこんなところで露店を展開して、本当に大丈夫なのかな? 並べられているアイテムは一級品だけれど。



 流石はオディーリア様といったところかしら。



 流石にエリクサーや蘇生薬レベルのアイテムはないけれど……それでも、超上級回復薬や上級回復薬、毒消し薬や、上級毒消し薬などが並べられている。攻撃系アイテムは特にないみたいね。風邪薬や目薬なども含めて、回復アイテムで網羅されていた。



 オディーリア様は錬金窯でアイテム調合をしながら私と話していた。



「錬金の方は楽しいか?」


「そうですね、楽しくやってます」


「そうか、それは何よりじゃな」


 世間話というか、家族のそれみたいな流れで話す私達。まあ、私には両親が居るから違うんだけど、なんだかふと、そんな気分になってしまっていた。これもオディーリア様の人徳みたいなものかな。


「……?」


 私と他愛もない話をしながら、アイテム調合をしているオディーリア様。そつなくこなしているので、その技量は確かなんだと思う。でも、私はなんだか違和感を感じてしまっていた。


 彼女の手さばき、錬金技能は……私の錬金技能と酷似しているように思えてしまったから。



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