53話 売り上げ 2
「こ、これは……一体、どういうことでしょうか……! アイラ殿が二人の男性と食事を……!」
「ほらほら、良いところなんですから、ライラック様。お邪魔しては駄目ですよ?」
「ですが……う~む」
私とカエサルさん、シグルドさんの3人は食堂のテーブルの一画を囲っていた。私の前には長身の二人、カエサルさんとシグルドさんが並んで座っている。桜庭亭の食堂はレストランみたいにも開放されていて、私の店のお客さんなんかも利用することが出来るようになっている。
ライラックさんとアミーナさんが私達を見ながら何やら話しているのが聴こえて来た。ライラックさんはともかくとして、アミーナさんは完全に楽しんでいるようね。私達は適当に定食を注文して食べていた。前方の二人は意外にも沈黙している。
「あの~~……」
「なんだ?」
シグルドさんの強烈な視線が私を襲う。彼からすれば何でもない行為でも、私からしたら恐怖以外の何物でもない。
「一応、自己紹介とかしません? ほら、趣味とか色々聞きたいですし……」
「そんなもん聞きてぇのか?」
シグルドさんは全く意味が分からないといった様子だった。隣に座っているカエサルさんからの無言の圧力も気付いている様子がない。
「まあ、別にいいんじゃないか、自己紹介くらい……では、俺から行こう」
そう言いながら、先ほどまで無言の圧力を出していたカエサルさんが、最初に言葉を発した。
「俺の名前はカエサル・ブレイズだ、職業は医者をやっている。年齢は25歳になる」
「へえ、25歳だったんですか?」
「ああ」
そっか、結構年上だったんだ……私より、8歳年上ね。
「趣味に関しては……特にあるわけではないが、釣りくらいか」
あ、なんとなく分かる気がする。静かな湖畔で釣りをやっている構図が似合うというか。
「自己紹介をする必要があるのかは知らんが、まあいいだろう。俺はシグルド・バーゼルだ、年齢は28歳。趣味なんざ特にないが……まあ、ダンジョン攻略そのものが趣味か」
なるほどなるほど、まさに最高クラスの冒険者らしい発言ね。シグルドさんは28歳か……まあ、彼の場合はもっと上に見られても不思議じゃないけど。案外若かったというのが本音かもしれない。えっと、最後に私の自己紹介ね。一番年下だし、とりあえず立つことにした。なんだか、発表会みたいで恥ずかしいけど……ライラックさんとアミーナさんも見てるのに。
「ええと……アイラ・ステイトって言います。17歳になります……ええと、趣味は、調合かな?」
そう言えば、故郷でも趣味と呼べるものなんてなかった気がする。趣味がそのまま仕事になっているという点ではシグルドさんと一緒なのかもしれない。簡単な自己紹介が終わった……本当にすぐに終わったけど、やって良かったと思う。顧客として今後、長い付き合いになるかもしれないんだし、こういう場を設けた方が肩の力も抜けるしね。私も今までほど、シグルドさんのことが怖くなくなっていた……気のせいかもしれないけれど。
「しかし、アイラ。顧客を選ぶ場合、相手のことはよく見た方が良いと思うけどな」
あれ、いきなり本題というか、話が変わった印象を受けた。カエサルさんは何が言いたいんだろうか?
「えっ、どういうことですか……?」
「高名なのか知らないが、安定性のない冒険者をお得意様にするのはお勧めは出来んな」
あ、カエサルさんのその一言で、彼の人となりが分かった気がしてしまった。もちろん間違えていたら申し訳ないけれど……。
「……」
シグルドさんは怒っても良い状況なのに、敢えてなのか無言を貫いている。私ももう少し、カエサルさんの話に耳を傾けることにした。
「冒険者はどうしても、一攫千金を夢見るならず者……強さには自信があっても、通常の店では働けない連中というイメージが強いからな。俺が居たシンガイアでもそうだった」
なるほど、当たり前の話だけれど、シンガイア帝国にも冒険者はたくさん居たのね。まあ、周辺国家だけじゃなく、世界全体を見ても、おそらくもっとも多い職業が冒険者って言われてる時代だし。カエサルさんの話も満更、嘘ではないと思う。実際に、お店やレストラン、兵士としての仕事は出来ずに、仕方なく冒険者としてその日暮らしをしている人は多いとも聞くし。
冒険者の素行についても、かなりの差があるのは事実だと思う。
「アイラ、君が今後、店をさらに大きくしたいと考えているなら、俺のような診療所を持つ医者や、しっかりとした店を構えている薬屋を顧客にした方が良いと思うぞ? 長い目で見れば、確実に利益へと繋がるだろう」
「カエサルさん……」
カエサルさんは多分、私のことをちゃんと考えてくれているんだと思う。同じ薬屋をターゲットにしろというのは、首都カタコンベにある多くの薬屋は、数種類から多くても10種類程度のアイテムしか売っていないから。
そこへ私のアイテムを流すだけでも、相当な利益が定期的に入って来ると言いたいんだろう。やや、偏りのある考え方かもしれないけど、彼なりの芯を貫いているんだと思う。参考に出来る部分はあると思うけど、シグルドさんの場合は……なんというか……。
「どうでもいいが、顧客ってのは、ようは金額が全てだろう?」
「ん? ああ。確かにそうとも言えるが……」
ここに来て、シグルドさんが初めて口を開いた。特に怒っている様子などはない。
「診療所のお医者様がどの程度、貢いでいるのかは知らないが、俺は普通にアイラ・ステイトの店で買い物をしているだけだ。エリクサーや蘇生薬などの希少品が存在するからな」
「普通に買い物か……それでは到底定期収入としては……」
「ただし、1度で購入する金額は数万スレイブからになるがな」
今まで冷静沈着に事を運んでいるように見えたカエサルさん。彼の目が大きく見開かれたのを私は見逃さなかった。
「す、数万スレイブだと……?」
「ああ」
ビックリするほどに冷静に返答するシグルドさん。さも当然のようにいうところが逆に怖かったけど。安定性には欠けるかもしれない彼だけれど、その額が尋常ではなかったことをカエサルさんは見逃していた。




