52話 売り上げ 1
「は~い、見て行ってな~~~! 薬屋やで薬屋、キースファミリーや!」
「おお、こんなところに薬屋が出来ているとは……」
「目の前にアイラちゃんの店とアミーナさんの宿屋があるのに……」
「いややわ~~! こっちの売りは双子による双性錬金! 華麗な調合を間近に見れるのが売りなんやで? ほらほら、一種のサーカスショーも兼ねてるんやから、見るだけでも見てってや~~!」
本日は朝からとても騒がしい日となっていた。桜庭亭の目の前に佇んでいる、キース姉弟の薬屋。なんと露天商のように、店舗から錬金窯などを出しての実演販売をしていたのだ。
双子による抜群のコンビネーション、その名も双性錬金……調合アイテムの個数を劇的に増やすことが出来る錬金製法でもあるらしい。
「おお、なかなか楽しいそうだな」
「ちょっと見て行こうかな……」
私も自分のお店が忙しいので完全には把握していないけれど……なんというか、キース姉弟は調合自体をお客さんに見せる形で、実演販売をしているようだった。飲食店などでは偶に見る光景だけれど、まさかそれを錬金術の薬屋で実践するなんて……むむむ。
「見てくれ! これが姉貴との双子による饗宴! 双性錬金だ!」
「おお、これは素晴らしい! 超上級回復薬がこうも簡単に出来上がるとは!」
「火炎瓶や雷撃瓶もまるで魔法のように作り出すなんてな! これはすごい!」
キース姉弟の実演販売の評価は上々のようだ。アイテムの種類では私に勝てないと悟ったのか、彼らはどうやら、パフォーマンスで勝負に来ているみたいね。背後にユリウス殿下の影がチラつかなければ、面白い商売敵として認識出来たけれど。そこだけが惜しい……!
そんな風に考えていると、カエサルさんが私の店にやって来た。
「外はかなり盛り上がっているようだな。まるでお祭りのようだ」
「ですよね……キース姉弟って言って、シンガイアでは相当に有名らしいですけど」
「知っている。俺もシンガイア帝国出身だからな」
「そういえば、そうでしたね」
やっぱりあの二人って有名なのね。これは相当に強力な薬屋が誕生したのかもしれないわ。あのお祭り騒ぎも二人の才能が合わさってあれだけの盛り上がりになってるんだろうし。とくに、姉のエミリーのトークは一線を画していると思う。
酒場等でも大人気になれるような性格の持ち主……私もコミュニケーションは得意な方だと思うけど、彼女には勝てる気がしない。なんていうか……持っているものからして違うしね。
「ふふ、なかなか強力な商売敵なんじゃないか?」
「かもしれませんね」
負けるつもりなんて毛頭ないけど、警戒をするに越したことはない。私はカエサルさんにそう答えていた。
「まあ、君の場合は俺とのパイプラインもあるからな。強力な顧客を味方に付けた君が負けるとは思えないが」
「はい、そうですね。カエサルさんには感謝しかないです」
「そうだろう? 定期収入を約束してくれる顧客は大事にしなければならない……そう思わないか?」
「……? はあ……確かにそうですよね」
カエサルさんはまたナルシストモードに入っているようだった。まあ、彼の場合は二枚目で長身だからそこまで違和感はないけど。彼の診療所に初めて行ったあの日から1週間以上が経過しているけれど、だんだんと、ナルシスト度合いが増しているような?
「良かったらどうだ? 俺と一緒に昼食を一緒にするというのは?」
「昼食ですか?」
「ああ、まだ少し早いけど問題ないだろう?」
まだ2時間くらい早い気がするけど、まあ昼食を一緒にするくらいなら、問題ないかな?
「はい、私でよければご一緒しますよ」
「よし、決まりだな。やはり、定期収入を約束してくれる顧客との関係は大事にしないといけない。君の判断は非常に正しいと思うぞ」
「あ、ありがとうございます……」
わざと言ってるのか言っていないのか……。確かに、カエサルさんは大事なお得意様だ。彼の注文する消毒液や風邪薬などは大量購入になるから、それなりの収入になるのは間違いない。でも、額だけで言うならば、エリクサーや蘇生薬を買ってくれるシグルドさんの方が圧倒的なわけで……。
「ほう、アイラ・ステイト……なかなか、繁盛しているみたいだな」
「あ……シグルドさん……」
ある意味ではベストタイミングと言えるだろうか? 私のもう一人のお得意様であるシグルドさんが、桜庭亭内の私のお店を訪ねてくれていた。
「……アイラの顧客、か?」
「ん? なんだ、お前は? 顧客だと? ああ、一応はそうなるか」
「なるほど、ライバルのご登場というわけだ」
「ん? どういうことだ?」
あれ、なんだか嫌な予感がする……もしかして、この3人で昼食を一緒にすることになるの? まあ、ある意味では面白そうだけれど……どうなるんだろう。




