5話 クリフト第一王子殿下 2
「クリフト様……!? ど、どうしてここに……?」
私は突然のクリフト第一王子様の登場に驚きを隠せなかった。いくら首都とは言っても、貴族街でもない普通の宿屋に王子様が訪れるなんていうのは、かなり異例だろうから。
「いや、君を探していたんだよ」
「わ、私をですか……?」
クリフト様が私を探してここまで来てくれた……? 彼の第一声も私の名前だったし、本当なんだ……なんていうのか、すごく嬉しい。ハンノヴァ宮殿で仕事をしていた時にも、私を気遣ってくれていたクリフト様だけれど、まさか、私が追い出されて数日で見つけてくれるなんて。
いえ、それよりも、第一王子様という肩書きがあるのに、クビになった小娘を探してくれるなんて、通常だったらあり得ないことだ。
「クリフト殿下……信じられないですわ、こうしてお会いできるなんて」
「突然、来訪してしまって申し訳なかった」
クリフト様は一緒に来ていた兵士達と共に、アミーナさんに頭を下げている。これにはアミーナさん自身も、どうしたらいいのかわからない、といった態度だった。
周りに居た少数のお客さんも、何事かとこちらを見ている。あんまり目立つのは、クリフト様にとっても困るかもしれない。
「と、とりあえず、奥の部屋に行きませんか?」
「そうだな……構わないのであれば、そちらへ向かおうか」
クリフト様もすぐに状況を察してくれたのか、私の後を付いて来てくれた。アミーナさんには視線で了解を取って、私はクリフト様を奥の調合部屋に案内する。仕方がないので、一時的に薬の小売りは中断ね。
----------------------------------------------
「すごいなここは……宿屋内に調合室があるのか」
調合部屋に入ったクリフト様は、予想はしていたけど驚いているようだった。設備的にはクリフト様が驚くほどではないと思うけど、意外だったんでしょうね。私はクリフト様と自分用の椅子を用意した。申し訳ないけれど、兵士達全員分の用意はできない。
兵士達はクリフト様の護衛だからか、入り口付近で警戒も含めて立っている。その間に私とクリフト様は椅子に腰掛けた。
「本当に済まなかった、いきなり来てしまったのもそうだが……それ以上に……」
「いえ……クリフト様のせいではないと思います」
椅子に腰を掛けると同時に、クリフト様は再び私に頭を下げた。彼の誠意が伝わって来る瞬間と言えばいいのかな? 実際、私を追放したのは彼の弟のユリウス殿下だから、彼が謝る必要はないと思うんだけど。おそらく、管理責任のようなものを感じているんだと思う。
「本来なら、すぐにでも戻してやりたいところではあるんだが……弟のユリウスが、既に国家錬金術士を選定していてな。私が留守の間に、書類などを議会に提出していたのだ……無効にするのは少し難しい……」
「い、いえ、そんなこと……」
第一王子様でも、無効にするのが難しい手続き……ユリウス殿下はどれだけ私を追い出したかったのかしら? 特に失礼なことをした覚えはないけど。
「代わりと言ってはなんだが、私に出来ることがあれば言ってほしい。出来る限りの協力をさせてもらいたいと思うからな」
「クリフト様……」
クリフト様は以前から変わらない……優しいお方だった。前から確信を持っていたけれど、今回のことで、それがよりハッキリしたわね。と言っても、クリフト様に手伝っていただくこと……? ええと、どうしよう?