47話 キース姉弟の出店
「薬屋 キースファミリー」……ネーミングセンスはともかくとして、あの錬金術士のキース姉弟の店だとしたらこれは。確か、ユリウス殿下の傘下に入っているというか、彼が選んだみたいだし、絶対に良いことは起こらない気がする。
「ふはははは、アイラではないか。このような場所で出会うとは、奇遇だな」
「ユリウス殿下……おはようございます」
最悪な人に朝から出会ってしまったけど、相手は一応、第二王子様だし最低限の挨拶はしておく。
「奇遇って言葉はどういう意味ですか? 明らかにわざとですよね?」
私は大きな看板が打ち付けられ、工事も完了しそうになっている建物を見ながらそう言った。ここでキース姉弟が薬屋を開くのだとしたら、最早確信犯……私の店への妨害行為みたいなものだ。
そもそも、昨日まで厳格なトムおじさんが営業していた鍛冶屋「サントロップ」だったのに、1日で別の店になること自体があり得ない。王族や貴族の力が働いていなければ不可能だ。
「なんのことかな? それよりも、今日からここで、シンガイア帝国からの使者であるキース姉弟が働くことになる。アイラのところも同じような薬屋だったな、お互いに切磋琢磨して上達し、首都カタコンベを発展させてくれることを願っているぞ!」
「はあ……」
ここまであからさまだと、逆に清々しいくらいね。切磋琢磨とか、わざとらし過ぎて笑えて来る。実際に、後ろに立っているオーフェンさんは表情で私に謝罪しているみたいだったし。
営業妨害は確実だけど、クリフト様も居るし直接的に私の店を攻撃はできないようね。直接攻撃をして来てたら、流石の私でも許さなかったけれど。ユリウス殿下にしてはまあ、マシな方なのかもしれない。
この人はきっと、次期国王を狙ってるんだろうし、錬金術という分野でクリフト様の上に立とうとしてるんでしょうね。シンガイア帝国のキース姉弟を使ってっていうのが、どうかしてると思うけど。裏切られるリスクとか考えてないのかな?
「おう、アイラ・ステイトじゃねぇか、また会ったな」
「久しぶり……でもないか。昨日会ったばっかりやしな」
ユリウス殿下と話している時、ローランドとエミリーの双子が私の前に現れた。相変わらずの挑戦的な感じだったけど、朝だけにどこか落ち着いていた。
「おはよう」
「おはよ、今日はちょっと寒いな。寒暖の影響で風邪ひかんようにな」
エミリーに心配されちゃった。でも、こう見えても私は生まれて17年間、風邪とかを引いたことがないのよね。子供の頃の記憶は曖昧だけれど、多分、合ってると思う。
「心配には及ばないわ。これでも、身体は丈夫な方だから」
「さよか、それならいいんやけど」
「姉貴、世間話している場合じゃないだろ? 今日から俺たちはこの女の店の前で薬屋を開店することになるんだ。商売敵とじゃれ合うのも程々にな」
「わかってるって」
やっぱり……二人はここで店を開くことになるんだ。ユリウス殿下の差し金なのは間違いないけど、二人もそれを承諾したってわけか。しかし、昨日の今日で店をオープンさせるなんて、どれだけハイペースなスケジュールなのよ。
まあ、もちろん負ける気なんてさらさらないけどね。




