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46話 閑話休題

「あ~~、なんだか疲れた……」



 私はすっかり夜も更けた時にアミーナさんの宿屋へと戻って来た。錬金術士たちの会合が終わったわけではないけど、あんまり遅くなるのも悪いので、私だけ先に馬車で送ってもらった。



 オディーリア様やキース姉弟などの動向は気になるけれど、今日はもう錬金勝負とかはしないみたいだし、大丈夫よねきっと。



 クリフト様やシスマはあの後も話をしているはずだから、私は知らない御者さんに送ってもらった。その馬車は既に見えないくらい離れている。



「お疲れ様です、アイラ殿。本日はお疲れでしょう、ゆっくりとお休みください」


「いえ……なんだか、お店の方を任せっきりで申し訳ありませんでした」



 私とシスマが宮殿に向かっている間、ライハットさんはずっと私の店に居たことになる。もう店じまいをする時間ではあったけど、なんだか悪いことをしちゃった。



「いえいえ、お気になさらずに。アイラ殿が向かわなければ、もしかしたら不味い事態があったかもしれません」


 不味い事態、というのは錬金勝負とかに負けて、国家機密が全部漏れてた……とか、そういう類いのことかしら? 詳しくは聞かないでおくけど、多分そうなんだろうな。



「買いかぶり過ぎですよ……私なんて、一人の錬金術士でしかないんですから。私一人で大きな流れを作るなんて出来ません」



 いくらたくさんの調合が出来ると言っても、それはアミーナさんに設備を提供してもらっているから。素材は冒険者ギルドやクリフト様から供給してもらっているし。お店の従業員として、ライハットさんだって手伝ってくれている。


 すべてを私一人でやろうとしたら、とんでもなく大変だわ。というか、間に合わないわ。



「ははっ、あなたは誰とでも気兼ねなく話せる大らかな人だ。そして……謙虚さも持ち合わせている」


「あ、いえ……」



 なんだか急にライハットさんが真剣な眼差しになった。私は熱いものを感じてしまう……。



「それでいて、自信家な面も持ち合わせている。あなた程の実力者が謙虚なだけでは、逆に反感を買いかねない。ちょうどいいバランスを保っていると思いますよ」


「ど、どうも……ありがとうございます……」



「クリフト王子殿下が少々、羨ましくもありますね」



 ん? あんまり聞こえちゃいけない言葉が聞こえて来たような……クリフト王子殿下が羨ましい?



「ああ、お疲れなのに本当に申し訳ない。私はそろそろ帰ると致します」


「あ、は、はい! お疲れ様でした……!」



 ライハットさんはやや顔を赤らめた様子で、私に礼をすると、足早に宿屋から出て行った。そういう表情で去っていくのはズルいと思う……次にどういう言葉を掛ければいいのか迷うし。



「ライハットさん……か」



 クリフト様は第一王子様で、次期国王陛下の最有力なわけだし……て、何を考えてるのよ、私は! 私は慌てて首を勢いよく左右に振った。そんな私の恥ずかしい様子を見ていた人物が居る。



「ふふふ、青春ね」


「あ、アミーナさん……! い、いつから見てたんですか?」


「ふふふ、最初からよ、最初から」



 笑顔でおそろしいことを言うアミーナさん……全く気付かなかったわ……。




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 それから、次の日になって……。



 私は薬屋エンゲージの開店前に、商品在庫のチェックをしていた。本日も冒険者の人を中心にお客さんはたくさん来ると思う。どうやら、最近になって未踏ダンジョンが発見されたとか聞いたしね。



 今日もはりきって売り上げを伸ばそうって思っていた矢先、お店の外から大きな音が聞こえてきた。何かを打ち付けるような音が連続で響いている。


「なにかしら? 工事……?」


「そうみたいね、あら……大きな看板を打ち付けているわね」



 私は桜庭亭から出て、大通りの向かいの建物を注視していた。昨日までは鍛冶屋だった気がするけど……今は改修が進められているのか、その面影はない。打ち付けられている看板には、


【薬屋、キースファミリー】って書かれているし。薬屋……それよりも、キースってもしかして、あのキース姉弟のこと?

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