45話 集う錬金術士たち 2 (複数の視点あり)
宮殿内の調合室には、国家錬金術士が寛げるスペースも用意されている。調合の為の設備が配置されている部屋と、飲み物や食事、仮眠などが行える奥の部屋とに分かれているから。
私達はそのスペースへとクリフト様によって誘われた。10人を軽く超える大所帯だけど、普通に入れるほどに広い。
「こうして周辺国家を含めた錬金術士が集ったわけか……なんというか、壮観だな。そうは思わないか、ユリウス?」
「あ、ああ……そうだな、兄上……」
ユリウス殿下はすっかり元気をなくしていた。2週間以上前の錬金勝負の時も同じような態度になっていたけど、今はそれ以上かもしれない。オーフェンさんも居ないし。聞きそびれているけど、私はオディーリアさんのことが気になっていた。
彼女の言葉は私の幼少期を知っているかのようだった。私の小さい時を知っている? 確かに5歳とかの記憶なら、私もそこまで覚えてはいないから出会っていても不思議じゃないけど。父さんや母さんなら知っているのかな?
そういえば、カタコンベに来てから戻ってないから、今度、帰ってみようかな。なにか分かるかもしれないし。
それで、今は5人の錬金術士がテレーズさん達と挨拶を交わしていた。
「テレーズ・バイエルンと申します、よろしくお願いいたします」
「アンドレア・ホープです」
「レグナント・ウォールっす。よろしくっす!」
「シェーナ・ミカヅチと言います。よろしくお願いします」
「レイア・カルバルです、よろしく~~~」
アンドレアにレグナントという二人の男性と、シェーナ、レイアという女性陣。それから、ローランドとエミリー姉弟にオディーリア様の計7名が加わるわけか。覚えるのが大変だけど、特徴的な人も多いし、なんとかなりそう。
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(ユリウス視点)
くそう……間に合わなかったか。残りの5人は先に兄上と接触してしまった。しかも、オディーリア・カッサバルドほどの大物まで、参加していようとは……! なんとか錬金関連の事業の主導権を私が握らないと、私の宮殿での立場が低くなってしまう……!
私が先に接触を持ったのはキース姉弟だけだが、それはある意味で幸運だったのかもしれないな。先ほどはテレーズ、ミラ、モニカが倒され焦っていたが。冷静に考えれば、実力者と分かったことは非常に大きい。我が国の最新設備を餌に協力関係を築ければいいのだからな。
秘密の暴露については、議会からの承認を取るとして……この後はどのように進めていくのが正解だ? 兄上が5人の錬金術士を連れて来た時は驚いてしまったが、まだまだ挽回の余地はあると言えよう。
キース姉弟はおそらく、新しく集った7人の中で最高の腕を有しているはず。なにせ、あのテレーズがあっさりと敗れるほどだからな。シスマやアイラと言えども、この二人には及ぶまい。
「ユリウス、何か言いたいことはあるか?」
「いや……今のところは特にはない」
「……そうか」
私がホーミング王国内での錬金術の主導権を握る。それは私が次期国王になる為には必須項目だ。兄上よりも上に行く為には……まず、アイラを蹴落とす必要があるな。
私には切り札の「双性錬金」を携えたキース姉弟が居るのだ。完全に味方かどうかはともかく、この二人の実力は先ほどの錬金勝負で証明済みだ。
「くっくっく」
「どうかしたかの? ユリウス殿下?」
「いやいや、なんでもない」
ついつい、オディーリアと目が合ってしまったか。アイラの奴はアミーナとかいう女主人の宿屋で店を構えている。その近くの建物を適当に買収するとするか。
「しっかし、なんかこうよ……錬金勝負が中途半端な形で終わったのが消化不良だぜ」
「ホンマやな~~、それなりに楽しめそうな人らも居るみたいやし、最後までやりたかったな」
どうやら、キース姉弟は消化不良気味に終わった錬金勝負に不満を持っているようだ。大丈夫だ、安心しろ。お前たちには別の楽しみを用意しているさ。
「エミリー、ローランド」
「なんだい、ユリウス殿下?」
「なんやのん?」
「ああ……少し相談なんだが、店の経営に興味はないか?」
「えっ……?」
エミリーとローランドはどこか呆けた顔になっていた。だが、好戦的なこの二人であれば、必ず私の提案に乗ってくるはずだ。私の栄光への架け橋……せいぜい、そのための材料になってもらおうか。




