43話 現れた二人組 4 (複数視点もあり)
(ユリウス視点)
テレーズはこの2週間、私への疑念を強めながらも、錬金術の試行錯誤を怠ることはしなかった。それは、アイラとシスマの錬金勝負を見て、自分の中の火が付いたのに起因しているのだろう。
現在では単独でも10種類以上のアイテムを調合出来ていたはずだ。
ローランドとの錬金勝負……制限時間は先ほどよりも長く、30分に設定した。勝負内容もより高レベルのアイテム製造というものだ。これは、アイラとシスマの錬金勝負とほぼ同じ内容と言えるだろう。
質と数が考慮される錬金勝負ということだ。上級回復薬1個と中級回復薬3個が大体、同じくらいの価値になる。勝負の判定をするのはミラとモニカ、そしてエミリーの3人だ。それぞれ、中立の立場での判定をすることを約束している。
これが破られれば、国際問題にもなりかねない事態だ。なにせ、懸けている物が大きいからな。エミリーも自らの弟に対して有利な判定を下すことはあるまい。
ローランドとテレーズの錬金勝負が始まって、10分が経過しようとしていた。二人とも7本ずつのアイテムが並んでいる。アイテムの数だけで言えば、互角か……だが、私では何を作っているのかまでは即答できない。ミラとモニカの二人に尋ねることにした。
「どうなんだ、勝負の方は?」
「今のところは互角です……でも、相手は中級回復薬ばかりを作っています。あれは単純にアイテム数を増やしていますね」
ということは、あれが終わった後で、より高レベルのアイテムを作る算段ということか? まだまだ勝負は始まったばかりだが……私は既に、嫌な予感がしていた。
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(アイラ視点)
「これは……!!」
私とシスマが宮殿内の調合室に入った時には、既に錬金勝負の決着が付いていたみたいだった。勝負内容などは分からないけれど、戦った相手は見慣れない赤髪の男性とテレーズさんだということは分かった。男性は勝ち誇ったような表情をしており、テレーズさんは地面に伏していたから。
といっても、別に殴られて倒れているわけじゃなくて、敗北した悲しみで座り込んでいる感じね。
「どうやったん、ローランド?」
「ああ、前の二人がかりよりは骨が折れたが……駄目だな。俺の相手じゃねぇよ、姉貴が出る幕はなかったな」
「ふ~ん、やっぱりそうか」
姉弟かな……青い髪の女性が赤髪の男性に話しかけているけど、とても似ている顔つきだった。それからすぐに二人は私達の存在に気付いた。
「なんや、新しい二人が現れたみたいやけど……新手の錬金術士さん?」
独特なトーンで私達に声を掛ける青い髪の女性。好戦的な印象は受けたけど、敵意むき出しっていう感じではなかった。でも、この二人が他国の錬金術士よね?
「テレーズさん、大丈夫ですか!?」
「シスマさん……ええ、身体は何ともありません。ただ、そこの方と錬金勝負をしただけですので……」
とりあえずテレーズさんは何ともないようで安心したわ。
「テレーズって言ったか? まずまずの錬金術士だな、シンガイア帝国に来る気はないか?」
「えっ……?」
さっきまで錬金勝負をしていたと思われる赤髪の男性が思いっきりスカウトしてるし……。
「いえ、遠慮しておきます……」
「そうか、残念だな。しかし、勝負には勝ったんだ、最新設備の幾つかを見せてもらうぜ」
そんな賭け事までしてたのね……大丈夫なのかしら?
「ユリウス殿下……」
「くっ、仕方あるまい……後程、見せることにしよう」
仮にも第二王子様がそんな言葉を言うなんて、ちょっと信じられなかった。シンガイア帝国に技術が流れて行くわよ。ユリウス殿下はその後、私が居ることに何か言いたそうだったけど、状況が状況だけに何も言うことはなかった。
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テレーズさんと赤髪の男性……確か、ローランドって言ったっけ? 二人の作ったと見られるアイテム類を私も拝見してみた。ふむふむ……テレーズさんは4種類、数は17個ね。アイテムの種類も風邪薬の上位版の特効薬から上級回復薬まで、そこそこのアイテムに収まってる。本当に腕を上げてるって分かるラインナップだった。対して、ローランドの方は……。
アイテムの種類は6種類、数は41個……より、高レベルの物を作るお題だったようだけど、ここまでの差が付いては、テレーズさんの落胆の気持ちが分かる気がするわ。超上級回復薬や上級回復薬も作っているけど、中級回復薬を混ぜることで、制限時間内でのアイテム数を増やしているのは流石ね。それ以外にもダークポーションとマインドポーション、さらには火炎瓶まで作っているわ。
この低レベルのアイテムで数を増やすやり方……こういった勝負事に慣れている証拠かも。
「……」
「しかし、姉貴。国家錬金術士と謳っている3人は大したことがなかったぞ。本当にここは、最新鋭の設備のあるホーミング王国なのか?」
大袈裟に手を振り、こちらを挑発しているようにも見えるローランド。あの挑発はわざとね……さらに上の者が居れば、かかってこいっていう合図みたいなもの。このローランドという男からは、そんなに浅はかな印象を受けないし。姉のエミリーも同様だった。
「ホーミング王国なんは間違いないよ。でも、まだ勝ち誇るのは早いかもしれんよ」
エミリーはそう言いながら私に視線を合わせる。
「ローランドとテレーズ嬢の作ったアイテムを見ても涼しい表情……あんた、名前は?」
涼しい顔で見ていたことは看破されている……この観察眼はただ者ではなさそうね。
「アイラよ、アイラ・ステイト。敬語は省かせてもらうけど、問題ないわよね?」
「別にかまへんよ。確か事前の話では、国家錬金術士にその名前は居らんかったと思うけど」
私が説明しようと思った時、近くにいたシスマが先に口を開いた。
「私がもう一人の国家錬金術士のシスマ・ラーデュイ。そっちの子は身分的には一般人よ」
「へえ、一般の錬金術士もおんねんな」
「まあ、色々あってね」
追放された云々の話はややこしくなるので省くことにした。
「あんた……相当出来るやろ? ちょっと勝負せぇへん?」
「いや……そんな喧嘩みたいに言われても……」
エミリーは明らかに私との勝負を望んでいるようだった。そんなに錬金勝負って楽しいかな? 今、私と勝負してもメリットはなさそうだけど。私は部外者だから、最新鋭の設備見せろ! とか言えないしね。
「ウチの国では割と有名なんやで、錬金勝負て」
「そうなんだ」
お国柄の違いってやつかしらね。だから、さっきから私との勝負を望んでたのね。特に賭けるものが無くても勝負したい、みたいな視線が飛んで来てたし。
「駄目よ、アイラは関係ないから。錬金勝負だったら、私が受けるわ」
「へえ、おもろいやん。でもあんたの場合、今後負けたら、さらに秘密の暴露が進んでしまうで?」
「私が負けるとでも?」
「……言うてくれるやんか」
シスマは表情を一切崩すことなく、エミリーの挑発に乗っている。テレーズさんの敵討ちみたいな想いがあるのかもしれない。すごく格好いいし……。
「ホーミング王国とシンガイア帝国との錬金勝負、か。なかなか面白い展開だが、その話は一旦、置いてもらえるかな?」
「クリフト様……!」
「あ、兄上……!!」
私とユリウス殿下は同時に、調合室に姿を現したクリフト殿下の名前を呼んだ。ユリウス殿下はそれ以上に恐れているようにも見える。おそらく、クリフト様の後ろに数人の錬金術士と思われる人の姿を見たから……。




