42話 現れた二人組 3 (複数の視点あり)
(ユリウス視点)
「なんだよ、こんなもんか」
「そ、そんな……!?」
「二人で挑んだのに……!」
ミラとモニカの二人は、ローランドと錬金勝負を行うも、その差は歴然と言えた。ミラ、モニカはそれぞれ6種類のアイテムの精製が可能だったはずだが。回復薬や目薬など、基本的なアイテムの数を競っていたのだが……。
「ミラとモニカ合わせて9種類、数は19個になります。それと比べ、ローランドさんは12種類、27個のアイテム数……これは驚異的ですね」
しかも時間は20分間だ、複製機械は使わずに手作りでの条件での作業。なんということだ……まさか、ここまでの差があるとは! 作っているアイテム自体は中級回復薬までが上限ではあったが。
ミラとモニカの二人は1人の錬金術士に完敗したことにより、憔悴しきっているようだった。
「テレーズ、どうなんだ? あのローランドという者は?」
「相当な錬金術士だとお見受けいたします。流石はシンガイア帝国のトップの方だと思います」
20分間という時間での成果だ……作っているアイテムが違うので、単純な計算は出来ないが、その数は以前のシスマの30分間で22個の成果を超えるものだった。私は無意識の内に顔から汗が流れている。これはかなりの逸材ではないか?
姉のエミリーが弟以上ならばさらに驚くべき事態だ。そして、切り札の「双性錬金」の存在……。
「ユリウス殿下、どうでっしゃろ?」
「なにがだ? エミリー?」
急にエミリーが私に話しかけて来る。この独特の話し方は慣れるものではないな……。
「錬金勝負にローランドが勝ったやろ? ウチらが勝利する度に、ホーミング王国の最新設備を分けて貰うっていうのは」
「なに……? それは……」
「ウチらが勝つ度に、そっちの情報を貰えるいうことですわ。ウチら二人はどのみち、この宮殿で働くわけなんやし、悪い条件じゃないやろ? 錬金術の発展を考慮すれば、秘密の開示というのは重要ですし。二国間の協力にも繋がりますやん」
この女は何を言っているんだ……? ローランドの奴も勝ち誇った表情で私を見ている。まあいい、勝敗には関係なく、この二人を使役することは出来るんだからな! この二人が加われば議会のノルマ達成はさらに余裕になり、私への追求も回避しやすくなるというものだ!
負けなければいいわけだからな。
「いいだろう、その挑戦に乗ってやろう。ただし……」
「ただし……?」
「そちらが負ければ、シンガイア帝国の秘密事項を提供してもらおうか」
「いいですよ、別に」
驚く程、あっさりとエミリーは承諾していた。本当に良いのか……? それとも、それだけ自分たちの実力に自信があるのか。
「テレーズ、彼らの相手をしろ」
「畏まりました、ユリウス殿下……」
憔悴しきっているミラとモニカの仇を討つべく、テレーズが前に出た。少しの休憩時間を設け、彼女とローランドとの勝負が始まるのだ。
「すぐにシスマを連れ戻してこい、急げ」
「は、はい! 承知いたしました!」
調合室に居た護衛の一人に命令し、アイラの店に行っているはずのシスマを呼んでくるように言った。念には念を……と言うやつだな。
------------------------------------------
(アイラ視点)
お店の営業時間が終了した後、私は調合室に籠り、明日以降のアイテムを作っていた。
「毎日、こんなにアイテムを作ってるの?」
「そうね、最近は買いに来るお客さんも増えているから。在庫切れは出来るだけ避けたいしね」
「それにしても、この数は……」
なんとなくシスマの心の中が読める気がする。軽く引かれているのかもしれないわね。今日は蘇生薬のレシピが出来たし、なんだか嬉しくてペースアップしているかも。
「ええと、幾つあるの?」
「えっと……アイテムは37種類かな? 数は……155個ね」
「宮殿の設備を利用せずによくもこんなに……」
といっても、1時間近くは経過している。それでも結構多い方かな? エリクサーも10個ほど作ったしね。エリクサーの価格はかなり高く設定しているけれど、それでも有名な冒険者が買って行ってくれるから、これから作る量を増やしてもいいかもしれない。
前に冒険者ギルドで依頼した素材供給が上手く波に乗っているから、材料自体は集まりそうだし。あとは、宮殿にあるような、高等錬金窯や量産機械を導入したりすれば、さらに効率は上がると思う。まあ、私の店でそれだけの設備を導入する必要があるかは分からないけど。
「あなたに追い付こうと考えていた私だけど……これは……」
「えっ? どうかした、シスマ?」
「いえ、なんでもないわ。まあ、努力を怠ることはしないけど……なんというか、追い付けるビジョンが見えないわね」
なんだか小声のシスマだったので、何について話しているのか分からなかった。それにしても、エリクサーや蘇生薬も調合アイテムに含めれば、40種類くらいのアイテム調合が可能になったわね。
あとは、あらゆる状態異常を回復できるアイテムの万能薬か。他には全属性の攻撃を与える、全属性瓶とか。それのお札バージョンの全属性札ね。ネーミングが適当な気がするけれど。この辺りのアイテムや、エリクサー、エリキシル剤、蘇生薬なんかは、冒険者の必需品でありながら、レアアイテムの分類になっているからお店で買えるとなると需要は果てしないかもしれない。
実際、エリクサーは1万スレイブ(お金の単位)にしている。1万スレイブって言ったら、一般的な家計の1か月分の給料になるかもっていうくらいの価格。アミーナさんの宿屋の最高級の部屋の額と同じくらいだっけ?
超上級回復薬が2000スレイブ、上級回復薬が1000スレイブの設定だから、まさに破格の金額ね。ただ、有名な冒険者はそれ以上に稼いでいるので、高難度のダンジョンへの必需品として買ってくれる。今回作ったエリクサーが全て売れれば10万スレイブ、それだけで1年近く生活できそうだわ。
「アイラあなた……お金持ちになったら、何をしようって考えているでしょう?」
「えっ、いや……!」
私の表情を読み取られたのか、シスマから強烈な突っ込みが入りました……反省いたします……。
そんな和やかなムードが流れていた時、私とシスマが居る調合室に人影が現れた。最初はライハットさんかと思ったけどどうやら違うみたい。
「シスマ様、ここにいらっしゃいましたか!」
「どうかしたんですか?」
身なりからすると、シスマの護衛……というより、宮殿内で働く執事の人みたいね。本日はシスマは、私のところへ来ることは伝えているはず。それで、ここに来たんだろうけど、何かあったのかしら?
「早急に宮殿にお戻りいただけませんでしょうか?」
「何かあったんですか……?」
「他国の錬金術士が今、宮殿に来ております」
「……それで?」
他国の錬金術士……? それって、シスマから聞いたヘッドハンティングの件と関連する事態よね? ユリウス殿下が性懲りもなく色々やらかしているみたいだけど。
「その錬金術士たちは、錬金勝負に勝ったら、ホーミング王国の情報を引き出すよう要求しております! 既にミラ様とモニカ様は敗北しておりまして……! 現在はおそらく、テレーズ様が勝負を挑んでいると思います!」
他国なんだし、そりゃあ、周辺国家の中でも最大級と言われているホーミング王国の設備のことは気になるわよね。でも、錬金勝負に勝ったら、ていうのがフェアな人達な気もするけど。最悪、受けなければいい話だし……でも、ユリウス殿下の立場から考えれば仕方ないのか。
「シスマ、私も行くわ」
「馬鹿を言わないで、アイラ。あなたは今、国家錬金術士ではないでしょう?」
「それはそうだけど……」
「ホーミング王国から見れば、今のあなたはただの一般人なのよ。アイラに頼って事態を終息させるようでは、ホーミング王国の錬金術の未来なんてないわ」
確かにそれは正論かもしれないけれど……でも、この状況で行かないなんていうことは出来なかった。
「でも、私も向かうわ。行くだけなら構わないでしょ?」
「わかったわ……ただし、手を出すのは禁止ね。約束できる?」
「うん、わかった」
「なら決まりね、早速、向かいましょうか」
手を出すのは禁止……それはつまり、相手の錬金術士と戦うのは禁止ということ。まあいいわ、このシスマが負ける程の相手とは考えにくいし、私は彼女の約束に頷き、一緒に宮殿へと向かうことにした……。




