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41話 現れた二人組 2 (複数の視点あり)

(クリフト視点)



 ユリウスには少し甘くし過ぎていたのかもしれない……アイラ追放の時点から、もっと奴には大きな罰を与えるべきだった。現在のアイラは特に気にしていない様子だが、既に今までの給料は返還し、謝罪も込めて少し多めに渡している。


 まあ、アイラは受け取ることを拒んでいたが。拒んでいたというよりは、遠慮していたのかな。



「父上、私からの報告は以上になります」


「うむ、ご苦労だったな、クリフト」



 私は父上であるシムルグ・ホーミングにユリウスについての報告を完了させていた。父上はホーミング王国の今後の事も考え、今までは様子を見ていたのだが、最近のユリウスの行動は目に余るという考えを持っていたようだ。



「ユリウスの最近の様子はどうだ? 確か、テレーズ嬢や議会からの追求があったと聞いているが? アイラ・ステイト追放に関して」



 二週間以上前の出来事ではあるが、錬金勝負の時にユリウスはテレーズ嬢からの追求を受けていた。その後に、議会からの出廷の依頼も来ていたのだが……。



「ユリウスはこの二週間、そのことに関しての追求を拒否し続けています」


「そうか……」



 ユリウスは自分の立場が悪くなることを恐れ、体調不良と自らが懇意にしている公爵などの権威を使って、アイラ追放問題から遠ざかっていた。呆れたものだが、保身に長けている点については流石としか言いようがない。



 そして、一番の問題は……



「ユリウスはおそらく、独自のルートから腕利きの錬金術士を集めています」


「それはヘッドハンティングの名残りなのだろう? お前が管理していると聞いているが?」


「それは確かにその通りですが……」



 表向きは私が引き継いだことになっている。だがユリウスは、私よりも先にその者たちに接触し、現在の錬金術士よりも優れていることをアピールする形で総入れ替えを考えているはずだ。



 テレーズ嬢やシスマなどは、今のユリウスにとっては邪魔な存在だろうからな。全ての錬金術士を自分の息の掛かった者にし、その実力を議会に認めさせることで、自分の今までの行動による罪を有耶無耶にしようとしている。私はそのことに関しても父上に報告しておいた。



「では、どうするつもりだ、クリフト? ユリウスが新しい錬金術士に接触する前に潰すのか?」



「そうですね……」



 ユリウスによる錬金術士の総入れ替え……そんなことが出来るはずがないと、ユリウス自身に教えてやる必要がある。あの男はアイラという人物を舐め過ぎている……前の錬金勝負を見ても、まだ本質的には分かっていないようだからな。



 奴の自信を完全に断つ……これがユリウスに対しての何よりの罰となるだろう。その為にはもう少し、泳がせておく必要があった。



「もう少し様子を見ようと思います」



「そうか、わかった。今後のホーミング王国の未来を作るのは、クリフト……おそらくはお前になるだろう。今回の問題に関しては、私が手を出しては意味がないと感じている。お前の思うがままにやってみるがよい」



「畏まりました、父上」



 こうして、私の父上への現状報告は終わりを告げた。





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(ユリウス視点)




 他国の錬金術士であるキース姉弟と我が国が誇る錬金術士テレーズ達との邂逅。私は多少の不安を持ってはいたが、実現させることにした。



「初めまして、テレーズ・バイエルンと申します」


「私はローランド・キースと申す者。よろしく頼むぜ、テレーズ殿」


「私はローランドの双子の姉で、エミリーと申します。よろしくお願いしますわ」



「はい、よろしくお願いいたします」




 とりあえずの挨拶を終えた3人。その後に奥に居たミラ、モニカとの挨拶も軽く交わしたようだ。



「同じ錬金術士で国家は違うけど、貴族ていうところには変わりはないやん。個人的には敬語を使うの苦手やし、この話し方でもええかな?」


「はい、構いませんよ。私もエミリーさん、ローランドさんと呼ばせていただいても、よろしいですか?」



 ふん……テレーズの奴め。すっかりアイラの雰囲気に呑まれていると見える。あの錬金勝負の時と同じような空気にしているのが丸わかりだ。浮世離れしていたテレーズの面影がどんどん消えている。私への不信感はずっと持っているようだしな。



「それから、ユリウス殿下」


「な、なんだ……?」



 冷たい視線が私を突き刺した。くそっ……! 私がのらりくらりと、アイラ追放の件を避けているのがそんなに気に食わないのか、私への態度が180度変わってしまっている! これも全てアイラの奴のせいだ……今に見ているがいい!



「調合室の最新設備でございますが……お二人に説明してもよろしいのですか?」



 テレーズはおそらく、ホーミング王国の極秘事項を他国の者に漏らしても問題ないのかを問うているのだろう。その二人はどのみち私の息の掛かった者になるから問題はない。ただし、実力が伴っている必要があるがな。



「ああ、問題ない」



「……ちょろいな」



 ……? エミリーが何かを呟いたようにも見えたが、気のせいだったか? まあいい、早速、二人の実力を試してみるとするか。シスマの奴が今は居ないが何とでもなるだろう。



「しかし、二人の実力次第、というところもあるのでな。錬金術士としての才能のない者には、ふさわしい情報とは言えんだろう?」



「いきなり挑発的な物言いやな。これでも、シンガイア帝国では並ぶ者はおらんかってんけど……」


「まあいいぜ、そっちの方が楽しめそうだ。俺がやってやるよ、ホーミング王国側の代表者は?」



 私の挑発的な言葉に、キース姉弟は楽しそうに乗って来た。お国柄というやつか、かなり好戦的な性格をしているみたいだな。そうだな……まずは、ミラとモニカを出すとしようか。この二人も作れるアイテムの種類を増やしていることだし。



「そうだな、ミラとモニカの二人でどうだろうか? まだまだ錬金術士としては、これからといったところではあるが」


「半人前かよ、なら二人同時に錬金しても構わないぜ。こっちは俺が一人で相手をしてやる」



「な……随分と余裕じゃない。後悔しても知らないわよ?」


「はっ、こっちのセリフにならないといいがな」



 錬金勝負の様相を呈して来たか……この状況を想定していなかったわけではないが。キース姉弟を始めとした総入れ替えを計画している私ではあるが、心のどこかでミラとモニカを応援している自分が居た。



 なんなんだ? この感情は……やはり、他国の者には負けてほしくないという感情の現れだろうか。


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