40話 現れた二人組 1 (ユリウス視点もあり)
「だからシスマ、ここはこういう風に調合すれば……」
「なるほど……そういう考えもあるわけね」
第一回錬金勝負から2週間以上が経過していた。店は本日も盛況であり、お客さんの入りも上々。宮殿での錬金勝負はクリフト様やテレーズさんを通して街の人にも伝わっているようで、私に会いに来る人も増えていた。
いや、私はそんな大した人物じゃないんだけど……冒険者の間では「奇跡の錬金術士」とかいう異名が付いてるみたい。奇跡ね……ネーミングセンスはともかくとして、そうやって呼ばれるのは悪くないかも。単純に売り上げ増加にも繋がるし。
それで、私は宿屋の調合室でシスマと調合研究をする日々を送っていた。彼女は国家錬金術士だけど、意外と時間があるのか、毎日私のところにやって来る。
それで2時間ほど調合室に籠ってから帰っていくのが通例になってきた。
「アイラ、これで蘇生薬は作れそうね」
「そうね、シスマ」
3大回復薬の一つ、蘇生薬。死後まもない命の蘇生を可能にしている。本当に死者を蘇生させられるわけではないけど、冒険者の間では必需品に近い存在だ。私とシスマの二人は蘇生薬のレシピノートも完成させ、調合を可能にしていた。
「私はあなたに比べれば、成功率はまだまだだけど。必ず追い付いて見せるわ」
「うん、期待してるねシスマ。でも、あんまり気負わないようにね?」
シスマはエリクサーの調合成功率も上がっているらしい。彼女は私との第二回錬金勝負を考えて、こういった行動を取っているんだと思うけど。
「無理をしているわけではないから。楽しみながらやってる」
「そっか、それならいいんだけど……」
シスマは上級回復薬の製造はほぼ完璧にできるとも聞いている。エリクサーや蘇生薬も完璧になれば、15種類程度のアイテムを作れるってわけね。テレーズさんは立場的に、簡単にこのお店には来られないけれど、調合できるアイテムは増えているらしいから、私は彼女も頑張ってるんだろうと推測していた。
「そういえば、クリフト様が以前に言っていた、シスマ以外のスカウト漏れの錬金術士を集める話ってどうなったのかしら?」
進捗情報の詳細は私には伝わって来ない。シスマが知っているとも限らないけど、念の為に聞いてみた。
「クリフト王子殿下はここへも来るでしょう? その時に聞いていないの?」
「そう言えば聞くの忘れてたわ」
シスマは少しため息をついていた。私がうっかりミスをしたみたいになってるけど、そういうことではないからね?
「実は……」
クリフト様に聞くのを忘れていた私だけれど、シスマはどうやら話してくれるみたいね。
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その頃、同時刻の宮殿にて。
(ユリウス視点)
「ようこそ、来てくれた。ローランド、それからエミリー」
「はい、シンガイア帝国からわざわざ来たんです。無駄足にならないことを祈りますぜ」
「ホンマやな。馬車で来るにしても時間かかってしまったし……」
シンガイア帝国は、ホーミング王国から西に位置する周辺国家の一つ。私の信頼の於ける使者を向かわせ、本日、応接室に座っている二人の錬金術士を宮殿に迎え入れたのだ。
ローランド・キールとエミリー・キール……男女の双子であり、ローランドはやや気質の荒い性格、エミリーの方は妙な言葉遣いをしている。かなり個性の強い性格をしているようだ。見た目や話し方からは想像がつかないが、二人とも貴族であり、シンガイア帝国では並ぶ者が居ない存在らしい。
さらに、二人で1つのアイテムを調合する「双性錬金」というものを開発したとも聞いている。兄上が後処理をしている錬金術士の募集に関連して、メンバーが他にも数人来る予定だが、彼らが一番最初に宮殿に到着したのだ。残りのメンバーは確か、王国内のスカウト漏れの人員と他国からの者1人だったか。
「なあ、姉貴。せっかくだからよ、ホーミング王国の最新設備ってのを拝見してみたいと思わねぇか?」
「そうやな、やっぱりウチらもそこで働くわけなんやし。ユリウス王子殿下見せてくれません?」
いきなり我が調合室への入室を言って来るとは……だが、断るわけにもいいかない。二人の実力の把握が必要なことは当然だが、それ以上に私の味方に付けておく必要がある。ここで断って心証を悪くするのは適当とは言えなかった。
「わかった。案内しよう」
「ありがとうございます、王子殿下」
独特の言い回しで私に話しかけるエミリーは青い長髪が特徴だ。それとは逆にローランドの方は燃えるような赤い髪。この辺りからして既に個性が強すぎるイメージがある。
現在はテレーズやミラ、モニカが調合室を使っているはず。会わせていいものか悩んだが、大丈夫だろう。調合室自体も、少し前にはアイラとシスマの錬金勝負などという茶番劇が行われた場所だしな。
どのみち私の計画では、このローランドとエミリー、それから他に入って来る錬金術士で総入れ替えを考えているのだ。テレーズやミラ、モニカ達とこの二人が会った場合どうなるのか、楽しみではある。
未知数の二人の実力を知れる良い機会でもあるとして、私は快く案内することにした。




