4話 クリフト第一王子殿下 1
私が宮殿を追い出されて数日が経過していた。
「この上級回復薬と毒消し薬を貰おうか」
「はい、ただいま。ありがとうございます」
アミーナさんたちがカウンターで接客している隣で、私は自分の調合した薬を売って行く。裏の部屋で薬を調合して、それらを直接売る作業は意外と手間だった。本来なら、従業員の方に任せてもいいと思うけど、薬の効果を聞かれた時に、すぐに対応できるのは私しか居ない。
しかも、質問してくるお客さんも多いので、それなら私が調合と接客の両方をこなした方が効率的だと思えたの。
まあ、まだ数はそんなに作れないから、私が調合専門になる必要もないしね。
「結構、珍しい物が売ってるんだな……」
「流石は首都リンクスタッドってところか」
「前の薬屋さんには上級回復薬なんてなかったしね~」
私の調合したアイテムを購入していくお客さんは、かなり珍しそうにしていた。元々、王国内に錬金術士なんてほとんど居ないわけだから、当たり前かもしれないけれど。他の薬士が作るアイテムは、種類が異なるだろうしね。
さらに、私が宮殿に勤めていた時に精製していたアイテムは、多くが国家の為に使用されたはずだから、ほとんど一般人には配給されていないはずだし。
珍しそうにはしているけれど、概ね評判が良いみたいで安心だった。
「上級回復薬に毒消し薬、風邪薬に目薬まで作れるなんてね。なんというか……錬金術士ってすごいのね」
「いえ、そんなことは……」
「もっと素材が豊富になれば、さらに幅が広がるんでしょう? 一般的に薬士なんて、回復薬なら回復薬、目薬なら目薬という感じで、己の専門分野以外の物は作れないのよ」
それは確かに聞いたことはあるけど。専門分野以外のアイテムも作って商品にするならば、もう一人薬士を雇う必要が出て来るってことね。おそらく、ほとんどの薬屋ではそのようなシステムを取っているはず。
薬士の中には一人で複数のアイテム調合が可能な人もいるだろうけれど、その最たる者が錬金術士か……。
「アイラがここで様々な種類の薬を売ってくれれば、私の宿屋は、今までの2倍どころじゃ済まない売り上げになりそうね」
「そう言って貰えるのは嬉しいんですけど、素材があまりないんですよ。宮殿から追い出されて来た時に持っていた物しかないので」
「そっか……なら、なんとかして調達する方法を考えないと……」
そう、この宿屋の中に併設された薬屋を繁盛させる為には、まずは素材の安定した確保が必要になる。冒険者を雇って供給してもらうのが近道な気がするけれど、安定供給になるまでは時間を要するかも……。
と、そんな時だった。私の名前を叫ぶ人物が宿屋に入って来たのは……。私もアミーナさんも自然とその人物に視線を合わせる。
「アイラ! ここに居たか!」
「クリフト様……!?」
想定外にも程がある……まさかこのタイミングで、クリフト第一王子様が現れるなんて誰が想像できたかしら? しかし、紛れもなくクリフト様本人が目の前に立っており、私と目を合わせていた……。