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38話 決着 2

 予想外の大きな声でユリウス殿下は声を出している……さっきまで、フラフラになっていた人とは、とても思えないくらいに元気だ。でもその発言内容は……。



「あの……どういうことでしょうか?」



 私は呆れ過ぎて、どうでも良かった。でも、せっかくなのでユリウス殿下の主張に付き合ってみることにした。



「確かに……数の上では私の負けですね」


「そうだろうそうだろう? ふふん、やはり私の見込んだシスマの方がレベルが高いようだな!」



「……」



 なんて答えればいいんだろう? 私は別に自分の方が上だと主張するつもりもないし、調子に乗ってたら逆転だってされるだろうから、ユリウス殿下の言葉に反論する気もないんだけど。



 そもそもの問題として、ユリウス殿下は自らの考え方がおかしいって気付いているのかしら? 気付いているけど、もう引っ込みがつかなくなってる可能性は高そうね……。



「ユリウス殿下……」


「ユリウス殿下がここまでの方だったとは……」



 テレーズさんは悲しそうにユリウス殿下を見ている。シスマも呆れて何も言う気がなくなってるみたい。私と同じ気持ちになってるのかもしれないわね。



 私とシスマの錬金勝負で、どちらが勝ったとしてもユリウス殿下が誇れるところなんて、何一つないように思えるんだけど。テレーズさんが本当に可哀想……ユリウス殿下のことはどうでもいいけど、彼女が悲しむ姿はあんまり見たくないかな。とても謙虚な方だし……貴族令嬢とは思えないくらいに。



「ユリウス……いい加減にしたらどうだ?」


「あ、兄上まで何を言っている? 私は間違ったことは言っていないぞ!?」


「ユリウス殿下、もうその辺りで……」


「オーフェン! お前まで……!」



 味方のはずのオーフェンさんまでが、ユリウス殿下の制止に入っている。もう完全に劣勢状態のユリウス殿下ね……ここまで来ると、彼も言葉が出て来ないみたい。



「ユリウス殿下」


「て、テレーズ!」



 ユリウス殿下は藁をも掴む思いなのか、精一杯の笑顔でテレーズさんに助けを求め始めた。いや、この状況で、さすがにそれは甘すぎるでしょ……。



「勝負の方式は最初からエリクサー以上のアイテムの個数です。少なくとも今回の勝負は、アイラの勝利かと思われますが?」


「そ、それは……!」



 敢えて言わなかったけれど、一番言われてダメージが行くであろうテレーズさんがはっきりと言ってくれた。なんだかスッキリしたわ。



「ご不満なら、アイテムの種類の関係ない数だけの勝負にしますか?」



 テレーズさんの提案にシスマは即答する。



「本当に数だけの勝負にしたら……どのみち、私は負けています」



 シスマは22本ものアイテムを作っていたけれど、自分が負けると確信しているみたい。確かに数だけ作ればいいのなら、シスマ以上の本数を作れる自信はあるけれど。



 ユリウス殿下はまたフラツキ始めた。それを執事のオーフェンさんが支える。ユリウス殿下、今日はとてもリアクションが忙しいわね……オーフェンさんも大変そう。



「ユリウス殿下……これ以上はお身体に障る可能性があります。すみませんが、みなさん。先に失礼してもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わない。ユリウス、ゆっくり休めよ」


「兄上……」



 皮肉たっぷりのクリフト様の一言。もう誰もが分かるくらいにあからさまな口調だった。オーフェンさんはクリフト様に挨拶をして、ユリウス殿下を私室へと連れて行く。彼らが調合室から居なくなる直前……。



「ユリウス殿下……アイラを追放した件については、後程、詳しくお聞きいたしますので。私の父なども引き連れて、私室へと参りますわ」



「テレーズ……! ひい……!」



 私でも今のテレーズさんの言葉はとても怖かった……。ユリウス殿下に至っては、まるで小動物のように縮こまってしまっている。テレーズさんの味方、ユリウス殿下にとっては敵になる人物を複数引き連れて向かうっていうところが、特に怖いわね。



 私は最初、この二人は結婚するのかと思っていたけど、とてもそんなことは起きなさそうね……。完全に戦意を喪失したユリウス殿下は、オーフェンさんに連れられて、今度こそ調合室を後にした。



「ユリウス殿下って持病とかあるんですか?」


「いや、至って健康体だな。オーフェンの言葉は方便というやつさ」



「あ、なるほど」



 クリフト様にはしっかりと見抜かれていましたとさ。




「アイラ」


「なに、シスマ?」



 ユリウス殿下とオーフェンさんが調合室を出て行った後、シスマが私に口を開いた。



「今回は完敗ね……でも、今度は負けないから」


「うん、わかったわ。私だって追い付かれないように、頑張って行くから」


「ええ」



 自然と私達は握手を交わしていた……交わした言葉はまだまだ少ないけれど、なんとなくシスマとは親友に近い関係になれたのではないかという実感があった。





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「あ~~~、なんだか一件落着した思いですね」



 私は非常にすっきりした気持ちになり、思わず手を大きく伸ばしていた。なんだろう、この晴々とした気分は? テレーズさんやシスマとの仲も深まった気がするし、楽しいわ!



「一件落着……か。まあ、ユリウスの件についてはそうかもしれんな」


「クリフト様……?」



 クリフト様は笑顔ではあったけれど、





「実はユリウスが行っていたヘッドハンティングの件なのだが……」


「ヘッドハンティング?」



 なんだか、クリフト様は頭を抱えているような……ヘッドハンティングってあれよね? シスマを採用した時の……。



「ユリウスが主導で議会を通して各地の錬金術士に声を掛けたわけだが……何人かが採用を希望して、首都に訪れるらしいのだ。さらに、他国からの者も1人居るとか……」



「あ~~、なるほど……」



 ユリウス殿下はあんな感じになっちゃったし、後処理はクリフト様が行うことになると。クリフト様も大変ね。



「どうするんですか? 採用ってことにするんですか?」


「募集したのはこちらだからな。他国からの者もいる以上は、実力も見ずして不採用にするわけにもいかない。少し、忙しくなりそうだ」



 シスマ以外のスカウト漏れの錬金術士ってことよね? 他国の人は違うんだろうけど。なんだか私は、改めてワクワクしていた……私って好戦的な性格なのかもしれない。


「シスマ、テレーズさん、なんだか楽しみじゃないですか?」


「そうかしら? 私は別に……」



 意外とシスマはドライだった。錬金勝負を持ちかけて来たのは彼女なのに。でも、テレーズさんは目を潤ませながら、懐いている子犬のように私に話しかけて来た。



「そうですね! 私はとても楽しみです! 私は恥ずかしながら、世間をほとんど知らずに育って来ましたので……他の錬金術士の方と知り合えるのを、成長の糧にしたいと思います!」



 テレーズさんはある意味、私以上に楽しみにしているようだった。これではクリフト様は余計に不採用にするわけにはいかないわね。気のせいか苦笑いをしているような……。



 さてさて……こちらは私とシスマ、テレーズさん。それから、まだ会ってないけどミラ様とモニカ様の布陣で迎え撃つわ! 覚悟しなさい! と、なんとなく敵を警戒する様子を出してみた。


 まあ、友好的な人ばかりとは限らないしね。



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