36話 錬金勝負 4 (別視点もあり)
全身からいい感じに力が抜けているのを感じる。私は現在、隣にいるシスマと錬金勝負の真っ只中だ。負けたら対価を支払うとかそういうことはないんだけど、やっぱり悔しい。
でも、私はそんな状態の中でも非常にリラックス出来ていた。根拠はないけれど、自分の能力に自信が出ていた。おそらくこれは、宮殿の最新設備を使えることに起因していると思う。初めて、全力で最新設備を用いた錬金術を行っているのだから。
「……」
私の完成品は現在で3本。この3本は全てエリクサーになる。他のアイテムのように品質は100%ではないかもしれないけれど、店頭に出しても全く問題ないレベルだとは思う。
エリクサーは傷、体力、精神力の全てを大幅に回復するアイテム。入手はなかなかに難しいと聞いている。そして、冒険者界隈では必需品と言っても過言ではない存在だ。これはどのくらいで売れるのかしら……はっきり言って、私の言い値で買い取ってくれそうな気がする、なんて邪な考えが浮かぶのもリラックス出来ている証拠ね。
「シスマは……」
それと引き換え、シスマは先ほどから焦った調合を行っているみたい。さっき、忠告してみたんだけど、あんまり効果はないようね。シスマは14本のエリクサーを調合しているみたいだけど……私の見立てでは、品質以前に14本全てエリクサーになっていない。言い方は悪いかもしれないけど、失敗作に該当する。
あの色合い的には上級回復薬を精製している感じかしら? あの失敗作を飲んでも害はないだろうけど、エリクサーとは全くの別物が出来上がっているみたいね。そして……シスマが誰よりもそれに気付いているはず。
私もエリクサーの作成難度の高さを改めて思い知らされた。実況しているテレーズさんとクリフト様も、私達の状況には気付いているみたいね。特にテレーズさんは同じ錬金術士だし、よく分かっているはず。
「シスマ、質問してもいいかな?」
「錬金勝負中に質問だなんて、随分と余裕ね。なにかしら?」
「上級回復薬って、いままでは作れていたの?」
シスマの表情が変わる。彼女が作っている失敗作が上級回復薬クラスの代物だということも分かっているみたいね。上級回復薬は骨折などの傷を癒すと言われる回復薬だ。私の店でも販売はしているけど、世間ではそう簡単に出回る代物ではない。
「私が今までに作っていた12種類のアイテムには含まれていないわ」
「それならもう1種類、作成アイテムが増えたってことね」
「そうなるわね」
おめでとう、と言いたかったけれど、錬金勝負の最中だし皮肉にしか聞こえないだろうから、止めておいた。それにしても……錬金勝負中に新しいアイテムの精製を可能にするなんて、シスマって天才よね? これも皮肉にしか聞こえないだろうから、言わないでおくけど。
と、私もうかうかはしていられない……私の4本目の薬はエリクサー以上の難度を誇る、エリキシル剤なんだから……私は集中力を高めて行った。
それにしても、シスマでも14本全て失敗するレベルのエリクサー。焦りとかがあるとしても、作成確率は相当に低いみたいね……今までは何本に1つ成功していたのかしら?
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(クリフト王子視点)
私が見たところ、アイラはとてもリラックスしているようだ。それがエリクサー3本連続作成成功を可能にしたのだろう。先ほどから、何やらシスマ・ラーデュイのことを気に掛けているようだが……。
「ユリウス、聞きたいことがあるんだが」
「な、なんだ? 兄上……?」
シスマの作っているアイテムが、どれも成功していないと分かり、ユリウスはすっかり意気消沈していた。たかが、錬金勝負と言ったのはお前だろうに……精神の弱い男だな。
「シスマは今まで、どのくらいの割合でエリクサーの調合に成功していたんだ?」
「い、いや……それは、分からない」
ユリウスはそんな重大なことを把握していなかったのか? まあ、元々はノルマを乗り切るためにシスマを呼び寄せたはずだからな、それであれば仕方ないか……。
「恐れながら申し上げます、クリフト王子殿下」
「ああ」
私の質問に答えてくれたのは、テレーズ嬢だった。
「はっきりとした数字は存じておりませんが……おそらくは、10~20本に1つという割合かと思われます」
なるほど、成功率は単純に5~10%程度か……それなら、14本全て失敗してしまってもおかしくはないのか。テレーズ嬢がシスマの作っているアイテムが全て失敗していると見抜いたのも、そういった情報も加味されているんだろう。
おそらくは世間的には「天才」と呼んで、差し支えないレベルのシスマ・ラーデュイ。そんな彼女ですら、失敗が当たり前のエリクサーを3本連続で作っているアイラ……私はどのように形容したら良いものか、悩んでしまっていた。
「あ、兄上……? どうしたのだ……?」
私はユリウスに睨みを利かせた。彼は弱々しく、私を見ている。アイラほどの逸材を身勝手な理由で追放した、我が愚弟ユリウス……この男の罪は果てしなく重い。その点については、上手く形容することが出来ていた。
はあ……これが、私の血を分けた弟なのか……。




