35話 錬金勝負 3 (シスマ視点もあり)
(シスマ視点)
こんな結果を誰が予想していただろうか……? 私たちの後ろではクリフト王子殿下とテレーズ侯爵令嬢が、実況という形で、調合している私たちを見守っているけれど。
ユリウス王子殿下はおそらく、実情がわかっていない。製造している薬の数で、私が優勢だと勘違いしているのでしょう。
「シスマ、もう少し落ち着いて調合した方が良いんじゃない?」
「……随分と余裕ね」
「そんなつもりはないけど、シスマはかなり焦っているように見えるから」
アイラには私の心情をしっかりと読まれていた……。現在、私はエリクサーの調合をしている。それ以外の薬の調合はしていない。調合手順を見る限り、アイラも同じエリクサーを作っていると思われる。時々、私の知らない作業工程が見えるけれど、今の問題はそんなところではない。
私は現在、小瓶に入れたエリクサーを14個作っていた。それに対して、アイラは3個だけ。数の上では圧倒的に私が勝っている……そう、勝っているように見えるのだけれど。
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(ユリウス殿下視点)
どうやら、決着は近づいているようだな。現在のシスマのエリクサーの数が14個、アイラはたったの3個だからだ。品質勝負も含まれているのは事実だが、基本的には数の勝負のはず。いくら品質どうこういったところで、この数ではアイラが勝っているとは言えんはずだ。
私は安堵していた。こんなところでアイラに勝たれては、私の面目が丸潰れになってしまうからな。アイラが敗れ、私が選抜したシスマが勝利を収める……これが正しい道、というものだ。
「兄上、テレーズよ。どうやら、シスマの勝利は変わらんようだな」
「えっ?」
「んっ?」
なんだ……? 二人の私を見る目がどことなく変だが……まあいいか。私はさらに続けて話すことにした。
「兄上、悔しいのではないか? ん?」
「なにがだ?」
「……?」
兄上もそうだが、兄上の側近のライハットも首を傾げている。
「自らが選んで国家錬金術士にしたのがアイラだろう? 私の選んだシスマに敗れるのだからな」
私がシスマを選んだのは、ノルマが迫っての苦肉の策だったが、今はそんなことは関係ない。兄上が選んできた、天才錬金術士アイラが敗れる……この事実に変わりはないのだから。
「本気で言っているのか、ユリウス?」
「ああ、本気だとも兄上。はははは、そう気を落とすことはないだろう? たかが錬金勝負なんだからな」
皮肉混じりに私は兄上に言ってやった。内心ではさぞかし悔しがっているだろう。それを考えるとほくそ笑みそうになってしまう。
「テレーズ嬢、説明をお願いできるか? ユリウスにも分かるようにな」
「ん? どういうことだ?」
しかし、兄上はまったく気にしている素振りを見せなかった。勝負事だから気にしていない、といったレベルのものではない。まるで、アイラが負けていないとでも言っているような顔つきだ。馬鹿な……そんなはずは……。
「ユリウス殿下、よろしいでしょうか?」
「あ、ああ……」
私に確認を取ったテレーズが、軽く咳払いして話し出した。
「シスマさんの14個のエリクサーはおそらく、一つも成功していません。それは、シスマさん本人も気付いているはず。だからこそ、焦りが大きくなっているんです」
……? 私は何を言われているのか、理解できなかった。まさか、そんなことは……。
「対してアイラのエリクサーは3本全て成功していると思います。そして、アイラの調合手順に変化がありましたので、彼女のレシピノートに走り書きしてあった、エリキシル剤の調合を始めているのかもしれませんね」
「そ、そんなことが……」
私はフラフラとよろめいてしまった。近くに居たオーフェンに抱きかかえられる。エリキシル剤は確か……範囲指定できるエリクサーのはず。そんな物までアイラは作れるのか……?
いや、それよりもシスマがまだ一つも成功していない事実に驚きを隠せていなかった。同時に、エリクサーの調合難度の高さを実感させられた……。私は目の前がブラックアウトしそうになっている……。




