34話 錬金勝負 2 (ユリウス殿下視点)
「それではこれより、第一回錬金勝負を実行する」
「採点者は私とクリフト王子殿下ということで……」
「よろしくお願いします!」
兄上がノリノリだ……何故だか、テレーズまでノリノリになって、アイラとシスマに至っては、最新設備の錬金釜の前で、調合準備を進めているようだ。私は完全に蚊帳の外になっていた、それ自体は問題がないのだが、なんだ?
この生殺しの状態は……。
私は二人の錬金勝負を見ていることしか出来ないのか……? 私がここを離れても、先ほどの事が有耶無耶になるとは考えにくい。
そうこうしている間にも、二人の調合は開始されたようだ。確か勝負内容は……エリクサー級のアイテムをどちらがより多く作れるか、だったか? 品質なども考慮されるらしいが、明らかにシスマが有利な錬金勝負だ。アイラの奴も最新設備を利用すれば、エリクサーを作れるのかもしれないが、成功確率を考慮すればやはり不利と言わざるを得ないはずだ。
ふふふ、アイラ・ステイトめ……自分の才能を過信していると見える。いくら、貴様が数十種類にも及ぶアイテムを作れるからといって、今回の錬金勝負にも勝てるというのは、飛躍しすぎた考えのようだな。
「……」
「……!」
実際に見ているとよく分かる。アイテムを調合する過程については、原理などはよく分かっていないが、調合室にある豊富な材料を使用することは間違いないはずだ。
錬金勝負は既に始まっているはずだ、明らかにシスマに比べて、アイラの手の動きは遅い……非常に緩慢と言えよう。慎重に作っているのかもしれないが、それと引き換え、シスマの手際の良さはどうだ。
傍から見ているだけでも、流れるような作業をしていることが良く分かる。錬金勝負のお題に、作っても構わないアイテムはエリクサー以外、と付与するべきだったな。他の万能薬や蘇生薬がお題であれば、アイラが有利だったやもしれんのに。
「これは……テレーズ嬢……!」
「はい……私程度の非才の身では実況ができませんが、驚異的だと思います。シスマさんの手の動きも驚異的ですが……」
「ああ、二人とも凄いな。ハイペースだと言えばいいのか」
ん? どういうことだ? テレーズの言葉内容に、私は違和感を持ってしまった。シスマを後から賞賛した……? いや、気のせいか。錬金窯で調合されているアイテム類だが、作り出されているエリクサーと思しき数は、シスマが圧倒している。彼女の横には大量の小瓶が並べられていっているからだ。
数で言えば、シスマが10本程度、アイラは2本といったところか……しかしアイラの奴、おそらくは今回初めて作るであろうアイテムをよく2つも作れたものだ。
まあ、シスマの精製したエリクサーの数には到底及んでいないが。私がそのように考えている間にも、シスマはさらにもう一本調合したようだ。
数で言えばシスマの圧勝か……だが、シスマの顔色が芳しくない。手の動きは早いが何かを焦っている様子だった。
「……くっ!」
「……」
シスマとは逆に、アイラの動きは変化しない。非常にゆっくりとした手つきでアイテム調合を行っているようだ。どうなっている……? 私はテレーズや兄上の態度も含めて、大きな勘違いをしている気がしてきた……。




